アジアエンタメの勢いを味方にしたトレードショーが完全復活~「香港フィルマート2023」レポート前編~
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
アジアのエンターテインメントコンテンツの勢いを味方に「香港フィルマート2023」が活況を呈した。3月13日から16日までの期間中、参加した人数は世界41か国と地域から7300人以上に上り、中国本土をはじめ韓国や日本の大型パビリオンが展開されたブースが会場を彩った。4年ぶりにリアル開催の復活を遂げ、主催する香港貿易発展局はアジア最大級のコンテンツ流通マーケットであることも印象づけていた。前・中・後編にわたり、現地取材レポートを届ける。
■コロナ前の水準を早くも取り戻した香港フィルマート
香港島北部の灣仔地区にある香港コンベンション&エキシビションセンターで毎年3月の時期に開催されているアジア最大級の映画とテレビのトレードショーが「香港フィルマート」だ。今年で27回目の開催を数え、俳優で歌手のレオン・ライがアンバサダーを務める「エンターテインメント・エキスポ」のメインイベントの1つにある。
2019年以降、新型コロナウィルスパンデミックの影響によりオンライン形式に切り替えられていたこともあり、今年のトピックは4年ぶりにリアル開催が復活したことがまず挙げられる。2023年3月13日から16日までの4日間の会期中、参加した人数は世界41か国と地域から7300人以上に上り、コロナ前の水準を早くも取り戻した。予想以上の規模感だった。
主催する香港貿易発展局の話によると、防疫対策の方針に沿って、わずか半年間の準備期間で開催に向けて整えていったという。広報を担当するアソシエイト・ディレクターのペギー・リュー氏は「本当に開催できるかどうか不安もありました。特にアジアでは、香港だけでなく、中国本土やその他の国や地域でも多くの規制があったからです」と、切実な思いも口にした。
香港特別行政区政府が入境措置緩和に踏み切った12月末から出展の問い合わせが増えていき、蓋を開けてみれば、出展数は約700社・団体に上った。国・地域別のパビリオン数は20を超え、中国本土、インド、韓国、台湾、タイ、イタリア、米国、欧州、そして日本も並んだ。
日本からの出展はユニジャパンおよび国際ドラマフェスティバル(民放連)がとりまとめた大型パビリオンに加えて、各地域フィルムコミッション団体が集まったブース、そして民放キー局などによる単独ブースより構成され、計37社・団体を数えた。日本の出展社数の規模もコロナ前と変わらず、各社ブースでは連日にわたり商談が行われていた。
■中国本土からは過去最多の330社・団体が出展
中国本土からの出展社数が揃うのも香港フィルマートの特徴の1つにある。北京、福建、広東、湖南、江蘇、陝西、山東、上海など各省、直轄市ごとのブースも復活し、中国3大ストリーミング・プラットフォームであるiQIYI、テンセント、Youkuも存在感を示していた。中国本土の出展社数は全出展社数の約半分を占める330社・団体を数え、過去最多となった。開催される度に更新してきた数を今回も伸ばすことができた意味は大きい。実際、国際市場における中国エンタメ企業の復活も印象づけるものになっていた。
また今年は中国の新たなソフトパワーにあるアニメをフォーカスし、アニメ関連企業30社以上が参加したことがわかった。
地元香港からはエンペラー・モーション・ピクチャーズやゴールデン・シーン、メディア・アジア、PCCWメディアなど老舗の大手映画会社から強力な通信系まで出揃った。ここにきて香港国内の映画興行が息を吹き返したことを知らせる絶好のタイミングとも言えた。
こうした参加者、出展社状況を踏まえて香港貿易発展局の事務局次長を務めるパトリック・ラウ氏が説明する場が会場で設けられた。
ラウ事務局次長は「中国の国際エンターテインメントビジネスにおける香港の役割は大きい」と話した上で、「2022年の統計データでは、中国本土の映画コンテンツの80%が香港を通じて成立されていることがわかっています。こうした流れもあって、リアルマーケットとして復活した香港フィルマートは、活気を取り戻すことができたと思っています」と分析している。
またラウ氏は従来のコンテンツの売り買いだけでなく、リメイクや共同制作、ストリーミングプラットフォームによるオリジナルコンテンツ制作などさまざまな形の取引が増えていることを指摘し、「香港フィルマートではコンテンツを買い付けるバイヤーだけでなく、コンテンツ投資に興味を持つ金融投資家の方々にも参加を促しています。あらゆる交流や取引を可能にする場所として、香港フィルマートが求められています」とも語った。
■アジアエンタメ市場の底上げを狙うマーケット
香港の映画・テレビ産業そのものの状況についてもラウ氏は言及した。「最も大変だった時期は終わったと言い切れます」と話し始め、「既に業界は活性化に向けて動き始め、パンデミックから解放された今年は消費者に向けていかに新しいコンテンツを提供するか。そんな動きが早まっているようにも感じます。ですから、香港のエンタータイメント業界の展望は非常に明るいと思っています」と、力強く語った。
「香港フィルマートにとって強力なパートナーである日本や韓国は、他のアジア市場を活性化させる力を持っています。そのため香港フィルマートを活用してもらう価値は高いと思っています。韓国と日本の映画産業が、香港を利用して中国本土と協力することで、3者それぞれの産業が発展していくことを目指したい」とも述べ、アジアエンターテインメント市場の底上げも狙う場であることを強調していたのも印象深い。
香港フィルマートが完全復活できた理由は、市場背景の影響も大きい。これについては開催初日の朝、インターナショナルプレス向けに開いたブリーフィングで香港貿易発展局のペギー・リュー氏が「アジアの映画もテレビコンテンツも今、間違いなく上昇気流に乗り、国際市場からの注目度は以前よりも増しています。Netflixでアジアのコンテンツが増えているのは明らか。アジアのコンテンツを作るために、アジアのクリエイターや製作スタジオに投資している案件が増えています。アジアのエンタータイメント企業にとって、たくさんのチャンスが転がっている時期にあります」と説明していた。
香港フィルマートでは、アジア全体の市場トレンドや業界動向を共有することを目的に「エンターテインメント・パルス」と称されたカンファレンスプログラムや各種プロモーション企画も提供された。中編に続く。