日テレ若手ディレクターがカンヌで語る生き残り作戦~加速化するグローバル流通市場【MIPCOMカンヌ2022】レポート③
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
前列左から日本テレビコンテンツ制作局小田井雄介氏、同スポーツ局生山太智氏、後列左から同コンテンツ制作局上野詩織氏、同佐々木万由子氏、コンテンツ戦略局編成部兼宣伝部の石浜勇樹氏。【筆者撮影】
今年のMIPCOMカンヌは3年ぶりに完全復活の開催となった。世界100か国から約1万1000人以上が参加し、その内200人強が現地入りした日本勢も以前のように各種セールス・プロモーションを活発化させた。一方で、世界のコンテンツ流通市場トレンドは変化も見せる。国際共同展開が活況を呈し、オープニング・キーノートを務めたイギリスBBCスタジオの事業戦略やプロデューサー対象の新企画イベントが注目を集めた。キーワードは「加速化する変革の波」だ。10月に南仏カンヌで現地取材した「MIPCOMカンヌ2022」を3回に分けてレポートする。レポート③は初来場した日本テレビの若手制作ディレクター陣を中心に参加者の声を届ける。
■韓国の人気セッション『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』
MIPCOMカンヌ2022期間中、韓国勢のプロモーション展開も多数行われた。Netflixで今年配信され、Netflix世界の視聴ランキングにトップ10入りしたヒューマンドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』特集セッションはその1つ。制作を手掛けた韓国大手スタジオのASTORY所属ユ・インシク監督らが登壇し、作品ヒットの背景にある「360度グローバル・IPビジネス」について説明した。春のMIPTVで話題を集めた『イカゲーム』のプロダクション・トークに続いて多数の観客が集まり、海外セールスに直結するプロモーションだけでなく、こうした旬な話題も提供する韓国得意のPR力も示された。
またバラエティ番組においても韓国の話題は尽きない。会場で最も人気のトレンド解説プログラム「FreshTV」において、アジアで唯一、韓国の番組が取り上げられた。『愛の不時着』のCJ ENMが扱う新フォーマット企画『ゼロ・サム・ゲーム』はダイエットと心理ゲームを掛け合わせたもので、世界トレンドを意識した作りだった。フォーマットセールスで世界的に成功を収めた『マスク・ド・シンガー』に続くヒット作を狙って、MIPマーケットで扱われる韓国の新作フォーマット企画数は年々増加している。
3年ぶりに復活参加した東南アジア勢の成長も見逃せない。今回、MIPカンヌで初となるフィリピンのドラマ上映会が行われ、出演俳優も来場し、レッドカーペットイベントなどを通じて話題が作られた。作品はフィリピン最大手メディアABS-CBNがデジタルプラットフォーム向けに制作した『CATTLEYA KILLER』というタイトルのスリラー連続ドラマ。脚本や映像ルックを含めて制作クオリティは世界トレンドを意識した作りだった。
こうした韓国をはじめとするアジアの勢いをマーケットの現場で実感する声も実際にあった。「欧米の番組フォーマットと遜色ない韓国の制作クオリティを肌で感じました。音楽番組にも力を入れる韓国はLEDの使い方なども巧み。制作技術においても勉強になります」と話すのは、日本テレビコンテンツ制作局所属『1億3000万人のSHOWチャンネル』など担当する入社6年目の佐々木万由子ディレクターだ。
今回、日本テレビコンテンツ制作局から入社10年以下の計4人のディレクターが参加し、世界のコンテンツ流通マーケットの現場で各国のメディア関係者と交流を図るなか、制作の観点からそれぞれ学びがあったという。
■マネタイズを意識することの大事さ
コンテンツ制作局所属で『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』などを担当するほか、ドラマの企画開発にも携わる入社3年目の小田井雄介ディレクターは「世界の潮流を自分なりに解釈すると、今はNetflixらサブスクが中央集権化していくなかで、資金力がなくても国際共同展開の道を探り、どの国も生き残りをかけて闘っているように見えました。また日本に対する需要もあることを実感しました。企画の構想を伝えると、各国のプロデューサーがすぐさま関心を持ってくれ、確かな手応えを感じたところです」と話す。頼もしく、前向きな意見は続く。
スポーツ局所属の入社5年目の生山太智ディレクターは「スポーツ中継のディレクター業務に専念していると、正直なところ、“マネタイズ”にまで目が届きませんが、商談の現場を初めて同席させてもらい、意識することの大事さに気づかされました。若手であっても、1人ひとりが“ビジネスプロデューサー”であるべき。そんな自覚も持っていきたい。部内で共有もしていきます」と、今できることを語ってくれた。
コンテンツ制作局所属で『カズレーザと学ぶ。』などを担当する入社7年目の上野詩織ディレクターもこれに同意し、「現場を知るバラエティ番組のディレクターがプロデューサー的な仕事も広げて、プロデューサー兼ディレクターのような立場を増やすことを仕組みとして取り入れると、何か変わっていくかもしれないと思いました」と独自の考えを示した。
一方、編成の立場からはこのような意見が聞かれた。MIPCOMに参加したコンテンツ戦略局編成部兼宣伝部の石浜勇樹氏は「世界と日本とでは人気の傾向に違いがあることが現実問題としてあります。では、世界の潮流に合わせていくのか、それとも海外向けにフォーマット開発していくべきか。後者の方が近道だろうと、個人的には思います。実際に日本テレビでは、海外に売ることを前提に企画開発を行う流れができつつあります」と説明する。
日本テレビでは海外番組セールス担当者に限らず、制作や編成の担当者もMIPマーケットに足を運び続ける試みが継続されている。コンテンツの収益拡大を見据えて人材も育てていく考えは、各国においても激変の時代に求められていることにある。
■コラボとシェアリングの時代
では、市場における変革の加速化は日本全体にとって、追い風となるのか。MIPCOM会場でその答えを探ると、やはり市場トレンドにあるスタジオ主導の共同展開が鍵になっていきそうである。
今年5月に設立されたアジア発のIP開発ソリューション専業とするコンテンツベンチャー会社Empire of Arkadia(エンパイア・オブ・アルカディア、以下アルカディア)の創業者で、元エンデモールAPAC最高責任者のフォティニ・パラスカキス氏は「コラボレーションとシェアリングの時代を迎えている」と話し、その理由を説明する。
「市場は流通から予算化、プラットフォームまで変化しています。つまり、コンテンツを100%独占することはもうできないということ。だからこそ、共有できるパートナーとタッグを組むことが求められているのです。日本は契約まで進んだプロジェクトは多くても、世界的に成功したコンテンツはまだ少ない。これは成長の余地があることを意味します。我々は日本と海外を結び、今後活躍が期待されるクリエイターや、アジア発の国際的なストーリーを市場に送り出し、特にZ世代向けのコンテンツ需要を増やしていきたいと思っています」。
アルカディアの共同創業者には日本テレビで35年のキャリアを持つ千野成子氏の名前も並ぶ。千野氏は「日本の各社それぞれの展開に合わせてソリューションを提案することで、国際市場のニーズに上手くマッチングするコンテンツを生み出していきたい」と、補足する。設立早々、日本と韓国、ヨーロッパですでに進行中のプロジェクトが多数あるという。
今年のMIPCOMマーケットは全体を通じて、市場トレンドの共同展開手法を取り入れながら、柔軟に対応していく考え方が共有されたのではないか。その背景にあるのが変革の加速化だ。コンテンツビジネス拡大の可能性を求めたその勢いは、今後も続いていくことが予想される。半年後の4月17日~19日にはカンヌで再びMIPTVマーケットが開催される。引き続き進捗状況を報告できたらと思う。
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