ローカルテレビ局×TVerで新たな価値を創出!RCC・TSKとの取り組み~インタビュー『レンタルクロちゃん』編
編集部
左から)TVer 内藤和大氏、RCC中国放送上田健大氏
広島県を放送対象地域とする株式会社中国放送(以下、RCC)と島根県と鳥取県を放送対象地域とするTSKさんいん中央テレビ(以下、TSK)、株式会社TVer(以下、TVer)は、TVer社が持つ視聴データや知見を活かした「コンテンツの認知度を上げる」「新たなファンを獲得する」ための企画を実施。両局が制作・放送し、民放公式テレビポータル「TVer(ティーバー)」でも配信されている番組『レンタルクロちゃん』、『かまいたちの掟』で行われたそれぞれの施策を前後編で紹介する。
前編では、RCC制作の『レンタルクロちゃん』(毎週木曜24:26~)での取り組みについて、RCCの編成制作部プロデューサーの上田健大氏と、TVer社 サービス戦略部の内藤和大氏に話を伺った。
■安田大サーカス・クロちゃんが地元広島をロケする『レンタルクロちゃん』
――『レンタルクロちゃん』とはどういう番組なのか教えてください。
上田氏: 広島出身の安田大サーカス・クロちゃんを、地元広島の道行く人々にレンタルして、役に立ってもらうことで好感度を上げていく番組で、2020年から始まってシーズン6に突入しています。当初はクロちゃんが『水曜日のダウンタウン』(TBS)などでテレビ露出が増える一方で、ネット上ではそのキャラクターに対してネガティブなコメントが多く見られた時期だったので、それを逆手に取った番組としてスタートしました。
■「TVerの視聴データを活かしたい」「番組の価値を高めたい」という思いが出会う
――TVer社との企画が実現に至った経緯を教えてください。
上田氏:そもそも広島での放送が深夜帯ということもあり、番組の認知度はそこまで高くなく、ローカル局の深夜帯で視聴率を上げていくのは非常に難しいことです。それでもこの番組を作り続けたいという思いがあり悩んでいた時に内藤さんからお声がけいただき、ぜひご一緒したいということで企画が動き出しました。
内藤氏:TVer社では、さまざまな視聴データの分析をしていますが、配信コンテンツである番組を制作する放送局が、そういうデータを見て活用するという機会がなかなかありませんでした。特に地方局の方がその傾向が強く、もっとデータを活用した編成や番組づくりをすればコンテンツ力をさらに上げていけるのではないかと考えていました。
それに、地方局制作の番組には本当に面白い番組がたくさんあります。しかし、TVerで配信されていたとしても、全国で放送されている番組と比べ、認知度がそこまで高くないのが現状です。その中で、RCCさんと少し実験的な施策をしませんか、と声をかけさせていただきました。
上田氏:実際に内容を伺って、地上波放送以外の部分で番組の価値を高める活路になるのではないかと感じましたので、二つ返事で「やらせてください!」と言ったのを覚えています(笑)
■クロちゃんが東京のTVer本社を訪問し、データを突きつけるロケ回を制作
――番組制作も巻き込んだ立体的な施策でしたが、実際どのようなことからスタートしたのでしょうか。
内藤氏:まず上田さんと一緒に、TVerの視聴データから、番組がどのような人たちに見られているのか情報をシェアしました。施策を行う前の2021年2月では、TVerのマイリスト登録者数は9600人、エピソードあたりの再生数は5,000回前後。TVerは女性層の視聴者が多いのですが、この番組の場合は男性層の視聴が64.3%と、本来女性層が多いTVerにしては男性視聴者が圧倒的に多かったのが特徴的でした。
内藤氏:また、RCCの他の番組は、放送エリアである広島県内で視聴されることが多い傾向にあるのですが、『レンタルクロちゃん』に関しては、県内の視聴が2~3%と数値としては決して高くないこともわかりました。
――その結果を受けて、どのような番組づくりをしたのですか?
上田氏:出せるデータを提示していただいたうえで、私たちが考える企画の中で何ができるかを相談した結果、東京のTVer社を訪問し、そこでクロちゃんに直接そのデータを見てもらい、現状を知った上で施策にトライしていくという、我々が抱えている課題そのものを番組の企画として進めることにしました。TVer社への訪問は、他のバラエティ番組を含めて初めてのことだったことも我々にとっては魅力的でした。
――4月29日と5月6日の放送回で東京ロケの様子を放送、その時の印象は?
内藤氏:クロちゃんには事前に資料を見せずに、ぶっつけ本番でデータを提示したのですが、データに対する反応や出てくる言葉が非常に的確だったので、さすがだなと唸らされましたね。
上田氏:クロちゃん本人がデジタルにすごく関心がある方で、数字などに関してもよく見ていると思います。Twitterのフォロワー数も60万人以上いますし、番組の公式アカウントがないにも関わらず、出演者本人が自身のアカウントで番組の情報を拡散しているという……おんぶに抱っこ状態です(笑)
――番組の認知拡大にはSNSの活用も大事な要素。クロちゃんの協力もあり、ご本人にTwitterを活用した番組告知・TVerでのマイリスト訴求など、アドバイスをされたそうですね。
内藤氏:はい。番組内で告知のツイートを流すタイミングなどもお伝えしましたが、すぐに意図を理解してくれて、的確に続けていただけました。
上田氏:この放送回の後に宮島にロケに行ったのですが、「テレビで番組を見たことはないけれども、クロちゃんが広島をロケしているのは知っている」という方がいて、SNSの反応からもテレビだけではリーチできていない層への認知も広がっていると感じました。
■ローカル局に眠る「宝の山」のような番組。全国へリーチする取り組みを続けたい
――今回の取り組みに対する結果は?
内藤氏:施策を実施したシーズン4(4月23日~6月17日)で、TVer再生数は+108.8%、マイリスト登録者増加数は+104.8%、マイリスト登録者の総数は+139.5%となり、大きな成果が残せたと思っています。
――その他にも、視聴データを活用した施策を行ったそうですが?
内藤氏:クロちゃんはボートレースの動画配信番組に出演していることもあり、宮島ロケの際、ボートレース場に触れてもらうという演出や、サムネイルの工夫を実施して頂きました。もともと『レンタルクロちゃん』は男性の視聴者比率が高かったこともあり、ターゲット層が合致しているので良い結果が出るのではと期待していたのですが、なんとこの回の再生数はシーズン最高を記録しました。狙っていた男性層の比率も上昇しました。
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上田氏:加えて宮島では、クロちゃん監修のオリジナルのもみじ饅頭セットを作り、局のECサイトで限定販売しました。TVerでの配信と今回の施策で、全国のどれくらいの方に番組の認知が広がっているのかを購入履歴から見られればと思っていたのですが、まさかの一日で完売となりました。東京を中心に、県外の方々が購入者の半分以上を占めており、広島の番組なのに全国にリーチができて、なおかつ購買行動につながっていると確認できたのは有意義でした。
内藤氏:TVerを介してマーケットが一気に全国エリアに広がる、とても良い事例が作れたと思います。番組セールスの観点でも大きなヒントになりますね。制作だけでなく、放送局の営業観点でも引き続き研究をしていきたいです。
――今回の施策を経て、今後取り組んでいきたいことや将来の展望を教えてください。
内藤氏:今回の施策では、データを活用した番組づくりとSNSの有効的な活用により、一定の成果が出たと思っています。ローカル局には面白い番組が宝の山のように眠っていますので、いろんなエリアや番組に目を向けて、地方のコンテンツの価値を高め、広く番組の魅力を知っていただけるような取り組みを続けたいと思っています。
上田氏:まずは番組を作り続けることです。そして番組の価値を追求し、地上波の番組としても、TVerのコンテンツとしても、多くの方に見ていただけるようにしていきたいです。広島の良さを全国に伝えて、更に全国各地の魅力をクロちゃんとともに全国へ発信していけるような番組にして、クロちゃんの好感度を上げていけるように頑張ります!
後編では、TSK制作の『かまいたちの掟』との取り組みについて紹介する。