MBS系ホラー企業・闇のEPにお化け屋敷P・五味弘文氏が就任 業務提携の舞台裏インタビュー(前編)
編集部
左から)闇 代表取締役副社長CCO 頓花聖太郎氏、オフィスバーン代表 五味弘文氏
MBSグループでホラーコンテンツの制作を手掛ける株式会社闇(東京都目黒区)が、2021年11月1日、日本を代表するお化け屋敷プロデューサー、五味弘文氏が代表を務める株式会社オフィスバーン(東京都杉並区)と業務提携。さらに五味氏が闇のエグゼクティブ・プロデューサー(EP)に就任することが発表された。
今回、Screens編集部では前後編にわたり、五味氏と株式会社闇 代表取締役社長CEO・荒井丈介氏、代表取締役副社長CCO・頓花聖太郎氏にインタビュー。これまでさまざまなお化け屋敷企画でタッグを組んできた両者が描く、さらなる展望をたずねる。
■ライブエンターテインメントとしてのホラーの裾野を広げる
──闇とオフィスバーン、両社の現在の事業内容を教えて下さい。
頓花氏:闇では「ホラーにまつわることは何でも」というコンセプトのもと、ホラーイベント制作やVR(仮想現実)を用いたホラーコンテンツの開発を手掛けています。少し変わったところでは、ホラーの要素を活かしたプロモーションなど、話題を起こすことで製品やサービスなどを広く認知させる取り組みも行っています。
五味氏:オフィスバーンは、ライブイベントとしてのお化け屋敷を主軸に、各種ホラーイベントのプロデュース、またホラー小説やドラマの原作などを行っています。
──今回の発表は、両社の業務提携に加え、五味さんが闇のエグゼクティブ・プロデューサーにも就任するという非常に踏み込んだものですが、五味さんはどう感じますか。
五味氏:私のクリエイターとしてのキャリアは大学時代の演劇活動にはじまり、イベント、お化け屋敷と移り変わっていきましたが、その根底にはずっと「ライブエンターテインメントを作りたい」という思いがありました。
ライブエンターテインメント一筋でしたが、長いクリエイター人生のなかでそれなりに経験値も積み上げていくことができました。こうした背景もあって、今回の業務提携やエグゼクティブ・プロデューサー就任のお話をいただけたものと思っています。
その一方で、「ライブ」という概念は、ここ数十年のあいだに大きく変化しました。私たちの生活の中にデジタル領域が深く関わるようになったことで、「ライブ」の概念が変わってきているように感じています。「それでもなお今の時代でライブコンテンツを作ること」を考えたとき、デジタル技術を用いたホラーコンテンツの制作経験を持つ闇とタッグを組むことは、さらにライブエンターテインメントの幅を広げていくことにつながるのではないかと感じました。
■「いままでなかったもので、さらに怖がりたい」というニーズに応える
──お二人がホラーコンテンツに感じる魅力とは?
頓花氏:ホラーの面白さは「いままでなかったものと出会う」ことにあると思います。未知のものを怖がるという感情は人間の本能に組み込まれたものなので、ホラーというジャンルは、もともと新しいチャレンジや表現が非常に生まれやすい土壌を持っています。
事実、ホラー映画などは、日々新しい演出や設定が次々生みだされる「クリエイターの登竜門」として注目される存在ですし、五味さんが発明した「ミッション型お化け屋敷」もまたたく間に日本中に浸透し、いまやお化け屋敷ではメジャーなフォーマットとなりました。
さらに最近ではYouTubeのホラーゲーム実況やお化け屋敷の生配信など、これまで個人や少人数でしか楽しむことのできなかったホラーを「みんなで楽しもう」という文化も育ってきており、楽しみ方の幅が飛躍的に広がりつづけています。「いままでなかったもので、さらに怖がりたい」というニーズは確実に存在していると思っていて、そういった面でもホラーというジャンルには、クリエイターとして非常に大きな可能性を感じています。
五味氏:お化け屋敷で感じるのは恐怖であり、ネガティブな情動です。なるべく避けて通りたいことをあえて体験することで生まれてくる特別な楽しさがあります。こうした点こそホラーの持つ独特な楽しさの真髄であり、お化け屋敷がいつの世も人々に愛され続けている部分ではないでしょうか。
若い人々がホラーコンテンツを積極的に楽しむ流れになってきていることは、私自身も現場で強く感じていました。まだその理由をこれから闇とタッグを組むことで少しずつ解き明かし、そのことによって次のステップへ繋げていけるのではないかと思っています。
■ホラーを「深堀りする」五味氏と、「裾野を広げる」闇とのタッグ
──今回の提携において、お互いにどんな点に期待していますか。
荒井氏:五味さんとは2012年に『梅田お化け屋敷ゆびきりの家』で初めてご一緒して以来10年のお付き合いです。頓花はもちろん闇のメンバーも全員五味さんの大ファンでありリスペクトしています「五味さんのホラーエンタメに懸ける思い、仕事への向き合う姿勢を学ぶことによって、私たちもより強くなれるのではないか」という強い憧れを感じていました。それを実現するためには、通常の業務提携よりも、両社の距離を一気に縮めることが肝要ではないかと考えました。
こうした背景から、今回、五味さんを闇のエグゼクティブ・プロデューサーにお迎えし、より一心同体の体制へと踏み切りました。今回の提携において、MBSは闇と五味さんの間をつなぐ“接着剤”としての役割を果たしていきたいと考えています。
五味氏:これまでお化け屋敷というライブエンターテインメントを作り続けてきた経験の強みはありますが、その一方でデジタル面の技術やノウハウといった側面の弱さを感じることもありました。闇のみなさんはフットワークが軽くて感性も若く、私の知らないことをたくさん知っている。なにより、その感覚の新鮮さを魅力に感じています。
私がこれまで培ってきた「こういうことが面白い」という感覚がさまざまな感性と組み合わされれば、思いがけないアイデアが生まれるかもしれない。私とはまた異なった感覚を持つ闇のみなさんと一緒に仕事をすることによって、これまで自分のなかで考えつかなかったような、斬新で面白いエンターテインメントを作り出すことができたらと期待しています。
頓花氏:五味さんと会話をすると次々と自分にないアイデアが出てきて、さらにそれを実行することですごく面白いコンテンツが生まれるんです。「自分だけで生み出せないものをどんどん作っていける」ということは、今回非常に楽しみにしている部分です。
その一方で、私たち闇にはコンテンツの裾野を広げるという強みがあると思っています。まだまだ伝わりきっていないところに向けて「こんなに面白いことがあるんだ」ということを投げかけ、面白いコンテンツを作りながらその領域を広げていきたいと考えたとき、私たちと五味さんは非常に噛み合っていくのではないかと感じています。
私たちが持つ、テクノロジーに対する豊富なノウハウや、新しい領域へのチャレンジ精神であり、ホラーコンテンツの裾野を広げるという面で非常に有効に機能すると考えています。五味さんの企画力と、私たちのこうした強みの部分を業務提携によって一緒に合わせることによって、より怖く、より熱狂でき、より面白いものを日本から世界へ送り出していくことができるのではないかと思います。
続く後編では、IP(知的財産)としてのホラーコンテンツの可能性、さらにホラーの立場から見た、現在のテレビメディアへの展望をたずねる。
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