OTT利用実態調査から読み解く、コネクテッドTVの普及とデジタル動画とテレビの今後〜「CCI BROADCASTING FORUM」レポート
編集部
左から)電通 奥氏、TVer 須賀氏、AbemaTV 山田氏、CCI 梶原氏
CCI(サイバー・コミュニケーションズ)主催のカンファレンスイベント「CCI BROADCASTING FORUM 2020 テレビ放送とオンラインビデオの未来へ向けて ビデオマーケティングを成功に導くプレミアムビデオコンテンツとは」が、2020年11月27日にオンラインで開催された。
本稿では、セッション「OTT利用実態調査から読み解く、コネクテッドTVの普及とデジタル動画とテレビの今後」の模様をレポート。TVer、ABEMA といったOTT(Over The Top:ネット動画配信)サービスに焦点を当てながら、その視聴形態として浸透が広まるコネクテッドTV(ネット結線されたテレビ)の広告媒体としての可能性をひもとく。
パネリストは、株式会社TVer 取締役 須賀久彌氏、株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部 本部長/株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 山田陸氏、株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 統括責任者 電通総研 フェロー 奥律哉氏。モデレーターを、株式会社サイバー・コミュニケーションズ マネジメントオフィス 梶原理加氏が務めた。
■コロナ禍で動画配信サービスは急浸透。強力なコンテンツで継続視聴の意向も強く
まず初めに梶原氏が、CCIによる国内の動画配信サービス利用実態調査結果を紹介。
各メディアの利用率、動画配信サービスの利用率について、2019年12月と2020年6月の比較では、動画配信サービスが3.7ポイントと急速に上昇。利用頻度では、週4日以上視聴するという回答が約半数を占めており、「(動画配信サービスが)日常的に使用するメディアに成長している」とコメント。
さらに、スマートテレビなど、インターネット接続型の端末を使ったテレビ視聴が伸びてきており、コロナ禍によって視聴場所が変化してきている点にふれながら、「誰かと一緒に見る、いわゆる『随伴視聴』の伸びが見られる」とした。
続いて、2020年6月にCCIが実施した、動画配信サービスの視聴開始理由アンケートの結果を紹介。
「ABEMAとTVerにフォーカスすると『見たい番組コンテンツがあったから』という視聴開始理由が50%を超えていた」と梶原氏。「コンテンツの強さが視聴を後押ししている」という。継続視聴意向に関するアンケートでも、ABEMAとTVerが共に80%以上と高い水準を記録。「視聴の定着というところが見られる」と述べた。
■「ドラマが圧倒的に強い」TVer、新シリーズにあわせ再生数が右肩上がりに
続いて須賀氏が、TVerにおける利用実態を紹介。今年9月の時点で累計アプリダウンロード数は3000万を突破。動画再生ベースのMAU(Monthly Active User:月間アクティブユーザー)も1300万程度あるという。「(番組動画は)月1億回ほど再生されている」と須賀氏。テレビデバイスでの視聴比率は毎月増加傾向にあり、今年9月時点では、PCとほぼ同水準に達したという。
さらに、2015年10月のTVerサービス開始から現在にかけてのユニークブラウザ数、再生数のグラフを紹介。「特徴的なのが、1クールごとに(再生数が)下がる(点)で、(TVerのユーザーは)ドラマを中心に見る方が多く、クールの中で数字の上下が見られる」という。
今年の4〜6月期で言えば、4月の中盤から新作ドラマが始まるとともにユニークブラウザ数、再生数がぐっと上がっていき、最終回が終わると1回数字がスッと下がる傾向があり、「(1クールの)3か月ごとに(再生数の)山ができ、それが右肩上がりを描いている」と説明した。
コロナ禍による巣ごもり・ステイホームの影響を受け、動画配信サービスの利用が活発化したという見方もあるが、TVerについては(ドラマの新作がなかった)3月〜5月の数字は例年並みの成長だったが、その一方で、「(撮影が再開し)新作が登場した6月末〜7月のタイミングで一気に伸びた」といい、ドラマコンテンツが再生数の大きな鍵を握っていると示唆。「視聴再生ベースで見ると、全体の約6割をドラマが占めている」と須賀氏。「もちろんアニメやドキュメンタリーもあるが、やはりドラマが圧倒的に強い」と述べた。
視聴者層はF1・F2が37.6%を占め、20歳以上の男女比は43対57で女性のほうが多いという。
さらに須賀氏は、TVerにおける番組本編の完視聴率について紹介。スマートフォンでは50%、テレビ受像機の場合は約6割が最後まで番組を一気に見ており、「CMのタイミングでも離脱せず、基本的に最後まで見ていただいている」と説明する。
TVerでは、今年10月から3か月間の期間限定で「日テレ系ライブ配信」と題し、日本テレビ系列のゴールデン・プライム番組を地上波同時配信している。「同時配信時代という意味では、今までのアーカイブ中心のTVerから新しいライブコンテンツが出てくる」と須賀氏。スポーツコンテンツの拡充や「追いかけ再生」への対応にも意欲を見せた。
■コロナ禍を機にテレビデバイス経由の視聴が急増。ペイパービュー配信も好調のABEMA
アプリ累計ダウンロード数は5900万に達し、ウィークリーアクティブユーザーは1300〜1400万規模が定着。「コロナ禍にともなうステイホームで、より一層伸びてきた」という。
ユーザー属性は「男女だいたい半々。35歳以下のユーザーが非常に多いのが特徴」と山田氏。「開局当初はM1・M2、いわゆるデジタルデバイスに関心の高い層が多かったが、幅広いコンテンツが拡充をし、コネクテッドTVで視聴する世帯も増えてきたこともあり、F1・F2も大幅に増えてきた」と語る。「開局から1年ほどで、かなり早めにテレビデバイスの対応をしていた」というABEMAだが、「テレビデバイスの視聴者が本当にしっかり伸びてきたのはここ最近で、特にコロナ禍における伸びが顕著であった」という。
コロナ禍で苦境に立たされたエンタメの産業において、オンラインで何ができるかを考え、ABEMAではアーティストのオンラインライブイベントを配信する「ペイパービュー」機能を6月に開始。順調に売上を伸ばしているという。
コンテンツの視聴傾向については、もともとはアニメや恋愛リアリティーショーなどを中心に伸びてきたが、直近ではスポーツ・麻雀・将棋・ニュースが大きく伸びた。「今後はドラマや、恋愛以外のリアリティーショーにも注力していきたい」と語り、2020年には映画製作にも進出したと話した。
そして、ABEMAのSNS公式アカウントもかなりフォロワーが増えてきていると言い、「サービスとしてはABEMAを軸に回遊していただきつつ、サービス外でもきちんとABEMAのコンテンツを見ていただける仕掛けづくりにチャレンジしていきたい」と語った。
■配信動画視聴が「テレビの利用時間を押し上げる」
ここで奥氏が、電通メディアイノベーションラボ調査からネット結線されたテレビでの動画配信サービスの利用者・非利用者ごとのテレビ利用時間を紹介。
個人全体(15-59歳)の週平均テレビ利用時間は、動画配信非利用者の一日あたり188.4分に対し、動画配信利用者は224.2分と多い結果に。定額制動画配信や無料動画配信、さらに共有型動画の視聴時間が積み重なり、テレビの利用時間を「押し上げている」ことを示した。
続いて奥氏は、視聴者のチャンネル検索パターンを紹介。テレビで見たい映像を探す順番として、動画配信利用者においてはテレビをつけたらネット動画サービスに最初にあたる層が一定の存在感を示しており、「若い人ほど、地上波以外、OverIPのチャンネルからテレビを見始めるケースが増えている」と指摘した。
「ネットに繋がるサービスが拡充していけば、これらの層も成長していく。非常にビジネスとしては右肩上がりが読みやすい」と分析し、コンテンツ視聴の入口として「これからは“一周まわってテレビ”の時代」と語った。
■コネクテッドTV広告は今後拡大するのか?
続いて議題は、広告媒体としてのコネクテッドTVに。
調査によると、アメリカのコネクテッドTV広告市場は2019年で70億ドルの規模に達したという。
日本におけるコネクテッドTV広告は、今度どのような見通しとなるのか。
「TVerは(コネクテッドTVに対応して)やっと1年半経ったところ。(テレビデバイスを経由して)100万人ぐらい使っていただけるところまでいったが、まだまだ全体の中ではそこまで大きいボリュームではない」と須賀氏。「コネクテッドTVにも広告を配信することはできるが、積極的に『コネクテッドTVの広告商品があります』といえる状態にはない」としながらも、「ターゲティングへの対応やフリークエンシーコントロール(1ユーザーに対する広告回数の表示上限を設定し、過剰な接触を防ぐ仕組み)の導入など、いろいろ微調整をしながら備えている」と語る。
「ABEMAでは、テレビデバイスにおける広告商品は今まさに考えているところ」と山田氏。ただ、須賀氏同様、「全体ではテレビデバイスでの視聴規模はまだそんなに大きくなく、テレビデバイス配信単体で広告枠を買ってくれる広告主はまだそんなにたくさんいないのではないか」と慎重な姿勢を見せつつ、「アメリカのマーケットがこれだけ伸びているように、日本でもコネクテッドTVの広告市場は必ず伸びてはいくと思う」と期待をのぞかせる。
「ABEMAの場合、テレビデバイスで特によく見られるコンテンツは、ペイパービューのコンテンツ。音楽ライブはやっぱりテレビの大きい画面で見たいというユーザーが多い」と山田氏。「こうしたコンテンツをリアルタイムで見ているとき、例えば夜帯であれば出前サービスのCMをテレビデバイスで流せば効果が期待できる」と述べ、「コネクテッドTVと相性のいい広告主はきっといる」と期待をのぞかせた。
■テレビデバイスの視聴が広告価値を上げる
「テレビの場合、ライブコンテンツふくめ、CMの挿入タイミングがあることを前提に作られている。『ぶつ切り感』がないぶん、継続視聴や専念視聴につながりやすいのではないか」と奥氏。YouTubeなどの共有型動画に対し、テレビは一度見始めると滞在時間がきわめて長いことにも触れながら、「広告を挟みやすい環境なのは間違いない」と強調する。
さらに「コネクテッドTV広告はテレビ的なブランドリフト効果も狙える領域になっていくのではないか」と持論を展開。「この環境をうまくどう使うのか、サービス間でしのぎを削る状態になっていくだろう」と述べ、梶原氏も「テレビデバイスでの視聴が広告価値も上げていくのではないか」と同意した。
そして山田氏は「テレビデバイス=地上波という概念が変わり始めているというのは、我々の業界からするとチャンス」と語り、「外資系動画配信サービスでは、グローバルで人気なサービスのコンテンツが簡単に見られる状態でもあり、グローバルクオリティのコンテンツと競合になりうる状態にある」と危機感をつのらせながらも、「コンテンツひとつひとつのクオリティや、サービスのクオリティを仕上げていけば、世界でも戦えるものを作っていけると考えている」と意気込んだ。
■プレミアムビデオ広告の優位性を「証明できる」仕組みづくりも急務
一方で梶原氏は「SNSの動画広告、YouTubeの動画広告、コネクテッドTVの動画広告もすべて『動画広告』とひとくくりにされてしまう」と課題を認識。「広告主としても、KPIの達成を考え、それぞれの効果やリーチの比較がよりニュートラルに行われる」と指摘したうえで、プレミアムビデオ広告の優位性について投げかけた。
「コンテンツをじっくり専念視聴していただけることは武器。その場所に広告を入れられているということは非常に優位である」としつつ、「プレミアムのコンテンツに流れたら広告もプレミアムである、とはまだ言い切れていない」と須賀氏。「プレミアムだから(広告単価が)高いとか、プレミアムだから効果がある、とやみくもにアピールするのではなく、それをきちんと証明する仕掛けやデータをメディアの責任としては用意しなければいけない」と語る。
そして、「極端な話、プレミアムコンテンツを提供する事業者同士で連携してリーチを束ね、YouTubeなどの巨大サービスと戦っていくという挑戦もありえるのではないか」と語り、「バラエティとドラマに加え、報道やドキュメンタリー、スポーツといったコンテンツのプレミアム的な価値を高めることもまた挑戦」とし、「テレビそのもののDXをいかに放送局レベルで行い、未来の“テレビ”をどう作っていくか」と課題をあげた。
これに対し、「今のデジタル広告における計測の仕方では、レポート上の評価と実際の効果に乖離が出る可能性があるなど、正しい評価がしづらい環境下にある。そのようなマーケットの課題にきちんと向き合わなければならない」と山田氏。「やはり広告は視聴者に“しっかり見られる”ことが重要。TVerとも協力しながら、しっかり見られて真の効果が出せる広告をきちんと作っていきたい」と述べた。
■「関連動画の導線にコンテンツを置く」というアプローチで“グリップ力”を上げる
セッション終盤、奥氏が「カジュアル視聴」という概念を提示。「若年層におけるYouTubeの見られ方を調べていくと、(関連動画を)“横つながりで見る”というスタイルが目立つ」という。
「いまの若年層は『名場面』というくくりで動画を見る。ドラマにしても、本編に関連してメイキング映像や映画や音楽など、さまざまなジャンルの動画を横断して視聴している」と分析。「(有力な)コンテンツを持つ放送局の皆さんだからこそ、こうした視聴スタイルに合うようなコンテンツを“呼び水”として発信し、縦横斜めの視聴導線に置くことができれば、若者に対するグリップ力がさらに上がるのではないか」と提案した。
「これからも動画配信サービスの利用者は増加し、今後ますますプレミアムコンテンツの価値は上がってくる。専念視聴率や視聴完了率の高さを生かしたマーケティングを私たちも提案していきたい」と梶原氏。「CCIは『The Media Growth Partner』という言葉を経営ビジョンに掲げている。プレミアムコンテンツを守り、成長を支えていくという面で、今後広告主やメディアのみなさまにもいろんなご提案活動をしていきたい」と述べ、セッションを締めくくった。