VUCA時代をどう乗り切る!? テレビ広告の最新戦術〜INTAGE FORUM 2020 開催レポート
編集部
左上から:中京テレビ 山田氏、日本コカ・コーラ 池田氏、インテージ 深田氏
2020年11月17日〜20日、インテージ主催のカンファレンスイベント「INTAGE FORUM 2020 Reborn~変化のとき~ VUCAを生き抜く新しい一歩、新しいステージへの‘鍵’」がオンライン開催された。様々行われたセッションのから、11月18日に開催されたセッション「VUCA時代をどう乗り切る!? テレビ広告の最新戦術」の模様をレポートする。
「VUCA時代」の「VUCA」とは、Volatility(変動性・不安定さ)・Uncertainty(不確実性・不確定さ)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字をとった言葉。コロナ禍で文字通り、広告業界の「不確実性」は増すばかりだ。
そんな中、今回はテレビ広告を活用した新たなセールスの形について、テレビ局・広告主・調査会社3者の視点からディスカッション。
パネリストとして、中京テレビ放送株式会社 営業局営業推進部 兼 ビジネス推進局インターネット事業部 担当副部長の山田有吉氏、日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部 ICX コネクションプランニング グループマネージャーの池田哲也氏が登壇。モデレーターを株式会社インテージ 事業開発本部 メディアと生活 研究センター 副センター長の深田航志氏が務めた。
■テレビCMセールスはV字回復予想も、非都市部エリアでは楽観視できない状況
最初に深田氏が、テレビCMセールスをとりまく現状を説明。民放連研究所による「テレビ業種収入見通し」調査によると、今年上半期はコロナの影響もあり、対前年で20%下落したものの、下半期については持ち直しており、2021年についてはV字回復の見通しという。
その一方で、ネット局が配分金を得られるネットワークセールスについては「最近やや減少傾向」と深田氏。ローカル局が本社や東京支社で扱うスポットセールス分についても「非都市部に関しては減少傾向が見られる」という。
その理由について、「視聴データが東京・大阪のみにとどまるデータが多く、それ以外のエリアに関してはなかなか詳細データがない」と深田氏。「こうしたVCAM時代をふまえ、テレビ広告セールスをどう乗り切っていくか、最新の戦術が求められる」とした。
■「データに基づくターゲティングからコンバージョン分析まで」中京テレビの取り組み
続いて、中京テレビの山田氏が、自社のCMセールス事例について紹介。日テレ系準キー局である同局だが、愛知・岐阜・三重の東海3県をエリアとしたローカル局としての顔も持つ。
同局では、パネル調査データとテレビ視聴機器ログデータから推計したインテージ社の“人ベース視聴データ”である「Media Gauge Dynamic Panel (MGDP)」、全国の地上波放送局・BS局のテレビ番組を対象に都道府県や放送エリア単位のターゲット情報を提供する「AREA TV」をベースに、ビデオリサーチが提供するオンライン上の枠購入ダッシュボード「枠ファインダ」を通じ、スポンサーのニーズに合ったターゲットの枠を短期間でパッケージ化し、セールスしているという。
「スポンサー様が『うちの顧客ターゲットだと、土日の枠がよいな』というご要望をいただいたとき、実際には平日朝・昼帯の方が接触率が多いということを提示できる。コスト効率のよい提案もできるし、いわゆるフィッティングギャップの問題に関しても、データを活用して解消することができる」と山田氏。ただその一方で、「実際、それがどう購買効果に繋がっているのかを説明しづらい」といった悩みも抱えていたという。
テレビCMの効率的なターゲティングは、実際どのくらいコンバージョンに影響するのか──。これを検証するべく、中京テレビでは、デジタル放送を利用した自社ゲームコンテンツ「チュウキョ〜くんランド」のスポットCMを用いて検証を実施。5つのフェーズで出稿パターンを変え、それぞれのCMにおいてどのくらいコンテンツへの会員登録者が増加したかを比較したという。
まず「フェーズ1」では、比較的スポット需要が少ない「早朝深夜の“空き枠”」にて、36日間にわたってCMを放映。「フェーズ2」ではCMの放映枠を全日帯に拡大し、「デスクの経験に基づいて」選んだスポットに対し、14日間にわたって400GRPを投下。フェーズ1と比較的近似した結果が得られ、モデルとしての妥当性を担保したうえで、具体的なターゲティングを試行した。
続く「フェーズ3」では、「チュウキョ〜くんランド」のコアターゲットである「小学生のいる家族世帯」の接触率が高い枠に狙いを定め、14日間で300GRPを投下。その結果、「フェーズ2と比較して、新規会員数が約21%増加した」という。
「フェーズ4」では、指標を接触率から含有率に変え、「小学生のいる家族世帯」の含有率が高い枠を中心にCMを投下。今度は「実際予測したモデルよりもあまり良い結果が出なかった」という結果が出たという。
「含有率という指標に切り替えたことで結果が良くなかったのか、認知が飽和してしまったのかの区別が付かなかった」と山田氏。最後の「フェーズ5」では、「フェーズ3」と同じ条件である「『小学生のいる家族世帯』の接触率が高い枠」に再度ターゲットを設定し、効果を再度検証。その結果、「認知が飽和した」と判断し、検証を終了したという。
「今回の事例はとても単純なモデルであったので、本来であれば、さらに事例を重ねながら検証していく必要がある」と山田氏。「スポンサー様、広告会社様、調査会社様とともに、テレビ局も一緒になってこうした検証を続けていけたら」とまとめた。
■消費者に「望んで接触しよう」と思ってもらえるブランディング
続いてコカ・コーラの池田氏が、自社のマーケティングについて紹介。
同社の掲げる「コネクションプランニング」という手法では、消費者とのあらゆる接点をコンタクトポイントと定め、組み合わせることで、より最適な形でのブランドメッセージ伝達を志向しているという。「テレビCMをはじめとしたクリエイティブ開発とコネクションプランニングの両輪でキャンペーン開発に日々取り組んでいる」と池田氏は語る。
「キャンペーンを大きなものにし、セールスへの貢献を高めるという意味では3つのポイントがある」と池田氏。「ひとつはブランドのコンテンツや、その中に含まれるメッセージ。そして、いかにして消費者の方々のなかで話題となり、その製品に対する会話を創出するかという設計。そして、製品の継続的な購入やブランドに対する好感を持っていただくためのブランド体験。これらを統合的なコミュニケーションのもとに作っていくということが大事にしているポイント」という。
さらに「今の世の中では、消費者とのエンゲージメント構築が重要」と池田氏。「こちらから一方通行でブランドのメッセージを届けるよりも、ブランドの発信するメッセージへ『望んで接触しよう』と消費者に思ってもらえるよう、発想を転換しなければならない」と語る。
「いかにしてコンテンツやブランドメッセージと消費者が接するモーメントを上手に設計し、共感を上げていくか。既存のメディアであっても、新しいエンゲージメントを作っていけるような活用方法があるのではないか」と池田氏。「メディアの新しいエンゲージメント創造に加え、従来のメディアを超えた形での体験機会作りにも取り組んでいる」という。
池田氏は、コカ・コーラ社がこれまで行ってきた新機軸でのテレビCM施策を紹介。2018年の平昌オリンピックでは、リアルタイムな試合結果に連動して展開の変わるCMを放映。2019年秋には、同社のスポーツドリンク「アクエリアス」にて120秒にわたる長編CMを放映し、大きな話題を生んだ。
「どういう番組のなかで、CMをどういうタイミングで流すか、テレビ局さんとも細やかに詰めながら実施させていただいたことで、話題を創出するようなキャンペーンが作れた」と池田氏。「時代や消費者の気持ちを汲み取ったかたちでのキャンペーン作りに取り組んでいる」と語った。
■テレビCMにも「WEB的な指標」を取り入れる
後半では、3者交えてのパネルディスカッションが行われた。
山田氏による中京テレビの事例について、「すごく興味深い」と池田氏。「テレビ局がベースとしてきた視聴率という指標にくわえ、消費者のデータを活用してプランニングを行うというアプローチがとても新しい」と評価。自社コンテンツを題材に実施したコンバージョン検証においても、「統計学的な分析を用いた検証をテレビ局が自ら行い、さらにその結果に対する評価を行ったという点でも、すごく新しい試み。どんどん情報として共有いただけたりすると、より考えも広がっていく」と述べた。
これに対し、「テレビ局としては広告主さんのニーズをいただき、ターゲットの要望をいただいたうえでCMを放送させていただいているが、広告主さんは広告主さんで、その商品が売れたかどうか、いろんな指標を持って効果を測ってらっしゃるはず」と山田氏。「CMを“放送しっぱなし”のままではいけない。広告主さんに寄り添い、(コンバージョンにいたる)結果までを見通したコミュニケーションを一緒になって進めていきたい」と述べた。
続いて山田氏は、視聴データとPOS(Point Of Sale:購買記録)データを組み合わせたCM効果検証の例を提示。CM放映時に内容と連動したデータ放送画面を自動表示させ、くじ引き形式で割引クーポンを配布。視聴データと組み合わせて検証することで、それぞれのコンバージョンを計測。「インプレッション単価やクリック単価、来店購買単価なども広告の指標として出せる」という。
これらの仕組みを用いることによって、テレビCMにおいても「WEB的な指標」が出せると山田氏。「データ放送のアクションをクリックと考えると、たとえばCTR(Click Trough Rate:クリック率)としては、6%弱と結構な数字が出ている、といったように示すことが出来る」といい、「メディアをミックスするさい、他の媒体と比較できる数字として出すことができる」とアピール。
その一方で「同じような視聴率の番組同士でも、コンバージョン率に大きな差が生じるときもある」といい、「ターゲットへの接触率を基準とすれば、このあたりのコンバージョンの差が結構説明できる」と、視聴データを用いた検証に引き続き取り組んでいく考えを示した。
これに対し池田氏も「視聴率データとPOSデータを組み合わせ、行動まで捕捉するというアプローチもまた新しい」と好感触。「こういう取り組みがどんどん増えていけば」と期待を寄せた。
■効果的なターゲティングで『望まれるブランド体験』を作り、購買を後押しする
パネルディスカッションの後半、「テレビは転換期ではないか、と思う」と山田氏が発言。「今までのように見積もりをいただいて枠を出すということだけではなく、スポンサーさんと近いところでお互いに会話をさせていただきながら、テレビ広告をどう使えば売上に寄与できるのかを真剣に考えていきたい」と、今後に向けた意欲を示した。
池田氏もこれに共感。「いろいろなデータが活用できる時代になったなか、テレビ局さんの方でも視聴率以外のデータを有効活用しながら効果検証していくという取り組みは、私たち広告主としても非常に期待するところ」と述べ、「セールスに繋げていく取り組みを、一緒にチャレンジさせていただきたい」と期待を覗かせた。
「新しい商品を含め、ブランドの認知を取っていくうえで、テレビは欠かせないメディア。インフォマーシャルという形でテレビ局さんにコンテンツを制作していただき、広告として流すことにもチャレンジしている」と池田氏。「その背景には、テレビ局さんが消費者や視聴者の方々をよく理解されているという考えがある」とし、引き続き、テレビに対する大きな期待を寄せていると述べた。
最後に深田氏は、「『望まれるブランド体験へ』という言葉がとても印象的だった」と、池田氏の発言に言及。「ターゲットがいる時間帯にきちんとCMを打てるということは、まさに効果的なブランド体験を後押しすることにつながる。そうした意味でもテレビ局さんにはデータを活用していただき、広告主さんに還元していくというようないい循環、サステイナブルな世界を作っていけたら」と述べ、セッションを締めくくった。
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