世界第2位の動画配信市場規模に拡大するアジアに注目~シンガポールATF2019レポート【前編】
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
シンガポールで開催されたコンテンツマーケット「ASIA TV FORUM & MARKET(アジア・TV・フォーラム&マーケット、以下ATF)」(会期:2019年12月3日~6日/主催:リード・エグジビション)を現地取材した。制作力が高まるアジア発のドラマ、バラエティ、アニメが国際取引され、会場は活況を呈した。なかでも注目されたのは世界第2位の市場規模に広がっているアジアの動画配信動向だった。
■動画配信プレイヤーが主役のアジアコンテンツマーケット
シンガポールのランドマークとして知られるマリーナベイ・サンズを会場に、ATF2019が12月に開催された。ATFはカンヌのMIPTV/MIPCOMのアジア版として位置づけられるコンテンツマーケットで、アジア地域の経済成長と共に発展し、今年で開催20周年を迎えた。今回、ATF初取材の機会を得て、熱気あふれるアジアコンテンツの国際流通現場に立ち会うことができた。
アジアのハブであるシンガポールで行われるBtoBコンテンツマーケットとあって、アジア各国のメディア企業が会場に勢ぞろい。ハリウッドメジャーをはじめ欧州の大手スタジオも足を運び、参加人数は世界60の国と地域からバイヤー、セラーなど合わせて5,713名(内バイヤー1,046名)、出展社数は783社に上った。
期間中の開催内容は他の地域の国際コンテンツマーケットと変わりなく、連日にわたって商談会やネットワーキング、プロモーション、セミナーが行われたが、何より印象的だったのは動画配信の話題に徹底フォーカスしていたこと。ATFフォーラム全体の共通テーマを「STREAMING THE FUTURE」とし、動画配信プレイヤーの登壇やコンテンツ紹介、市場調査報告セミナーが集中して行われた。
今、アジアの動画配信市場は世界第2位の規模に拡大している。会員数ベースでの動画配信の市場シェアは北米が半分以上を占めているが、これに次ぐのがアジア。全体の25%を確保している。
ATFのバイヤーにはNetflixやGoogle Play、YouTubeといったグローバル展開のデジタルプラットフォームはもちろん、中国3大メジャー動画配信サービスのアリババグループのYoukuやiQIYIも名を連ね、そしてアジア各地域で力を持つ香港のViuやフィリピンのHOOQも並んだ。ただ、今年はアジア地域でNetflixと人気を二分するマレーシアのIflixが不参加だった。その理由を巡って噂レベルに過ぎないが、話題に上るたびに動画配信プレイヤーが主役であることを実感した。
■キーノートのトップバッターは有料会員数1億人の中国iQIYI
立ち見もでき、盛況だったセッションはトップバッターを務めた中国iQIYIのファウンダー&CEOのゴン・ユウ氏のキーノートだった。ゴン・ユウ氏は今年、アジア最大規模のコンテンツマーケットである香港フィルマートでも巻頭を飾るほど、彼らの動向に注目が集まっている。
ゴン・ユウ氏は「iQIYIのビジネスモデルは北米のグローバルプレイヤーとは異なるが、NetflixやYouTubeを合わせたようなものだ」と話し、3つのコンテンツを軸に収益化していることを説明した。1つ目は主力の連続ドラマをはじめ、アニメやリアリティ、ドキュメンタリーといった幅広いジャンルを扱ったもの。2つ目はユーチューバーのようなクリエイターが独自制作するコンテンツで、「インターネットセレブリティコンテンツ」と呼んでいた。そして3つ目は短尺コンテンツからキャラクターグッズ販売に繋げるというもの。ゴン・ユウ氏は国際化計画も重視していることも強調していた。MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー数)は6億人に上り、有料会員数は1億人に達したiQIYIそのものの勢いと共に、コンテンツマーケットの国際舞台の場で中国が存在感を増していることを印象づけていた。
■2020年はハリウッドメジャーの参入によって動画配信新時代を迎える
動画配信を共通テーマにした集中セッションのなかで、イギリスの市場調査会社オーバム社がアジアの動画配信市場について報告したものも現状を知る上で参考になるものだった。同社によると、世界全体の動画配信市場は2011年から右肩上がりに拡大し、2021年には動画配信サービスの会員数は10億人に達する見込みという。これまでの10年については「グローバル展開を進めてきたNetflixやAmazonが動画配信市場をけん引し、各国・各地域で同じようなサービスを運営するローカル系の動画配信プレイヤーが多く生まれていった」とまとめた。
さらに、気になるこの先の10年については「ハリウッドメジャーの参入によって動画配信は新たな時代を迎える」と予測。これは2019年11月に開始したアップルの「Apple TV+」とディズニーの「Disney+」に続き、2020年にはワーナーグループの「HBO max」、NBCユニバーサルの「peacock」がスタートする予定があり、これらサービスのグローバル展開が今後、影響を与えていくというのだ。「Netflixがグローバル展開を本格的に広げた2016年のような変革期が2020年中に起こるのではないか」とも伝えていた。ATFの会場からは「ハリウッドメジャー系のアジア地域のローンチはいつになるのか?」といった声が聞かれ、関心を集めている様子が伝わった。
アジアの動画配信市場の状況についてもう少し触れると、アジアの中では中国が市場の6割という圧倒的なシェアを占めてトップを走り、日本は16%で2位、韓国、オーストラリアが同率の6%で3位、インドは5%で5位といった状況であることもわかった(オーバム社調べ/2019年集計/各国の動画配信トップ5プレイヤーの会員数合算値)。なお、6位以下はニュージーランド、台湾、香港、マレーシア、シンガポールと続く。アジア各国で動画配信サービスが普及しつつあり、5G時代に向かってますます増加傾向が見込まれる。また、アジアの特徴として「キャリアビリング」と言われるキャリア決済が普及を後押ししていると報告された。
数日間のマーケット取材だけでは全てを把握できないが、動画配信がアジアの重要なプレイヤーとして位置づけられている状況を理解することに十分役立った。これによって、今どのようなコンテンツが市場を動かしていくことになるのか、といった予想を立てることもできる。こうしたなか、日本のコンテンツはどのようにアジア市場を攻めているのか。後編はATFにおける日本勢の展開を伝えたい。