ローカルエリアのテレビ投資効果向上へ向けた取り組み〜日経xTREND EXPO 2019セミナーレポート
編集部
2019年10月9日(水)から11日(金)の3日間、東京ビッグサイトにて日経BP社主催のカンファレンスイベント『日経xTREND EXPO 2019』が開催。消費トレンドを発掘・創出する第一人者たちがその最先端を語るセミナーが開催された。
今回はこの中から、最終日・11日に開催されたセミナー「ローカルエリアのテレビ投資効果向上へ向けたコカ・コーラ社の取り組み」をレポートする。
スピーカーは日本コカ・コーラ マーケティング本部 IMC コミュニケーションプランニング&メディア マネジャーの牛込貴博氏と、PTP 取締役 CRO(Chief Revenue Officer:最高売上責任者)の有吉昌康氏。多数のブランドを全国的に展開し、テレビ媒体を中心に積極的なマーケティング投資を行っているコカ・コーラ社の事例をもとに、ローカルエリアへのテレビCM投資の効果向上に向けた取り組みの内容を探る。
■「どの地域がどれくらい効くのか」放送エリアごとにCM効果を測定
前半では、PTPの有吉氏が今回のセミナーのキーとなるツール「SPIDER」「Madison」について説明した。
「SPIDER」は、同社が2007年より運用するテレビ番組の全録・検索ツール。「TV版Google」を標榜し、収録したデータのなかから番組・CMごとのトピックを検索できる。現在、全国各地にあるNHK・民放のうち約80%の放送局で活用されているという。
「Madison」は、同社が運営する全国エリア別CMデータベース。 日本全国で1日あたりに12,000素材のペースで放送されるCMをクラウドで集計し、内容やGRP(Gross Rating Point:のべ視聴率)・TRP(Target Rating Point:ターゲット別のべ視聴率)ベースでの投下量を、競合他社との比較とともにデータ化。WEB広告と同じ水準でCMの投下効果が見られるのが特長だ。
テレビCMの投下効果を証明しようとした場合、これまでは関東・関西エリアしか定常的なデータが存在せず、モデルとしての精度も十分ではなかった。これを改善すべく、PTP社ではマーケティング戦略の影響度を測定する統計モデルである「MMM(Marketing Mix Modeling:販売データ・マーケティング時系列データの多変量回帰などを用いた統計分析モデル)」をベースに、各エリアごとのGRPや他社との比較、気候などの環境要因など、CMの最小単位である放送エリアに粒度を揃えた「エリアMMM」を定義し、より精度の高い効果測定モデルを実現したという。
壇上で有吉氏は、従来のMMMモデルと「エリアMMMモデル」それぞれにおける予測の誤差をグラフで説明。0.054であった前者に対し、後者は0.011と約5倍の高精度を達成したという。
有吉氏「エリアごとのテレビCM影響度の違いがわかれば『どの地域がどれくらい効くのか』がわかり、CM投下量と売上の相関がもっとも高いエリアがわかる。ここからエリアごとのCM投下戦略マップを作れば、エリアにおけるテレビCMのROI(Return Of Investment:費用対効果)とブランドの成長余地をマトリクスで示すことができる」
このモデルを用いることによって、広告主はテレビCMの効果測定や競合分析をはじめ、
効果的な販促策や流通対策が打ちやすくなる。「ひいては社内外への説得力を向上させる効果もある」と有吉氏は述べ、その有用性をアピールした。
■「脱『秘伝のレシピ』」ファクトベースの定性的なCM投下が可能に
後半では、コカ・コーラの牛込氏が前述の『エリアMMMモデル』を駆使した自社ブランドCMの効果測定の事例を紹介した。
牛込氏「これまで、ローカルエリアへのCM投下量の判断は競合出稿予測に頼ったり、経験則に頼ったりとブラックボックスの状態が続いていた。多くのブランドを抱え、販売エリアも全国にわたる当社では『コーラが強い地域』もあれば、『お茶が強い地域』もあったりと、売れ筋の特性もさまざまに分かれる」
エリアによって売れ筋やマーケット、競合の出稿も違うことに加え、メディアへの接触も異なる── そんななかでローカルメディアの特性をどう把握していくかが長年の課題であったと牛込氏。
これまで競合他社のエリア別出稿予測も参考資料としてきたが「マーケットシェアとGRPのインデックスが合っていない場合があった」(牛込氏)という。
牛込氏「PTP社の『Madison』によってローカルエリアのファクトベースの情報を自社で獲得でき、かつ競合他社がどの商品(のCM)を重点的に出稿しているかがわかるようになった」
グラフを見ると、競合他社も同じカテゴリの商品に対して広告出稿に力を入れているケースもあれば、特定エリアだけ広告出稿の仕方を変えていたりと、それぞれの戦略的が可視化されているのがわかる。
牛込氏「GRPそのものが商品売上に影響する度合いも、エリアごとに異なる。これまでエリアごとの広告戦略は、商品シェアなどから効果を予測する『秘伝のレシピ』的なものであったが、ここから脱することで実際の広告出稿量に基づいた定量的・科学的なモデルを作れるようになり、これまで『(シェア的に)弱い』と見ていたエリアにも効率的な広告配分ができるようになった」
■「ローカルエリアは高ポテンシャル。データの開示が広告出稿の生命線」
セミナーの締めくくり、牛込氏は「ローカルエリアには高いポテンシャルがあるが、データ整備の遅れが足を引っ張っている側面もある。(テレビを)広告媒体として維持発展させるためにも、エリアデータの充実と開示が生命線になる」と、広告主の立場から媒体側への要望を述べた。
積極的なデータ集計・開示は「ローカルエリアならではの戦い方」を見出していく鍵となりそうだ。