フジテレビ「FOD」、500時間のオリジナルコンテンツを制作する理由と目指す方向性
編集部
株式会社フジテレビジョン(以下、フジテレビ)が提供する総合エンターテイメントサービス「FOD(フジテレビオンデマンド)」。約80万人の会員を抱える動画配信サービスで、先日開催された『2017 FODコンテンツ発表会』では、魅力的なオリジナルコンテンツのラインナップが披露されたが、今回は、コンテンツの編成と制作を束ねるチーフに、なぜオリジナルコンテンツ制作に力を入れるのか? 配信と放送の関係についてやFODの今後の展望、将来のテレビのあり方などについて多角的に話を伺った。
■FODでオリジナルコンテンツを強化する理由
FODオリジナルコンテンツの編成・制作責任者である下川猛氏は、FODに足掛け5~6年携わっており、フジテレビ入社後は、ライツ開発部とデジタルコンテンツ部(旧フジテレビオンデマンド)、編成部などの部署を渡り歩き、FODに戻って今年で3年目を迎える。以前登場したFOD事業執行責任者である野村和生氏と共に、全オリジナルコンテンツの戦略や方向性を決定する重要な立場にある。
「FODでレギュラーのオリジナルコンテンツを作り始めたのは約1年半前。ちょうどNetflixが日本に初上陸し、『Amazonプライム・ビデオ』のサービスがスタートした時期に重なります」
FODで最初に制作したレギュラーオリジナルコンテンツは、2015年10月スタート(配信は2015年12月~)の『有吉ベース』だ。当時のFODは地上波の有料見逃し配信がメインだったが、さらに新しい会員を獲得するため、この1年半ほどでオリジナルコンテンツの制作に力を入れ始めたそうだ。オリジナルコンテンツのターゲットは、10代、20代の若者層、趣味性の高い分野に趣味を持つ人たち、特定の出演者を支持しているファン層などを想定している。
「FODのオリジナルコンテンツを強化するに伴い、番組本数や目玉作品も増えたため、この辺で現状のラインナップを発表する場をつくろうということになったのが、先日の発表会開催の経緯」と語る。動画配信サービスが続々と誕生している昨今、他サービスとの差別化を図るため、オリジナルコンテンツによる競い合いはますます激化している。そんな背景の中、先日の発表会では、フジテレビコンテンツ事業局長の山口真氏が「オリジナルコンテンツで淘汰の時代を勝ち抜く」とコメント。これについて下川氏は、
「4年前にFODのチーフを務めていたころは、無料キャッチアップ(見逃し配信)サービスやSVOD(Subscribe Video On Demandの略)サービスはありませんでした。TVOD(Transactional Video On Demandの略)、いわゆる有料の都度課金サービスのみでしたが、早期にスマホに対応したのも当時のFODでしたので、民放でNo.1のVODサービスであったと自負しています」
しかし、現在は各局でもキャッチアップサービスが始まっており、オリジナルコンテンツの制作にも力を入れ始めている。日本テレビはHuluとの共同制作で、テレビ東京は独自にアニメ配信(『あにてれ』)をスタートさせ、オリジナルコンテンツを強化。テレビ朝日はAbemaTVでいわゆるオリジナルコンテンツをストリーミング配信するなど、それぞれにサービスの独自性を際立たせており、
「山口が話したように、まさに淘汰の時代、オリジナルコンテンツで差別化を図る時代に入ったといえるでしょう」と下川氏。
■オリジナルコンテンツの役割と目指す方向性
そんな中、FODでは、特に若者向けのオリジナルコンテンツの制作・配信を重要視している。配信サービスが群雄割拠する中で、今後FODオリジナルコンテンツの役割や、目指す方向性はどのようなものなのか。
「発表会でも紹介した通り、特に若者向けのコンテンツ配信に手ごたえを感じています。地上波の番組を見たいだけでなく、オリジナル番組を見たいと思っている層が確実に存在しています。制作予算は豊富にあるわけではないですが、なるべくオリジナルにも投資をしていこうということで、昨年くらいから積極的になり、今期2017年度の制作時間は前年比約3倍の500時間を目指す予定です」
以前Screensでも紹介した「番組別プラスセブン視聴者属性」の資料から、FODは若者から支持されていることが分かっている。ほかにも、若者向けのオリジナルコンテンツ配信に手ごたえを感じた理由や根拠はあるのだろうか。
「『有吉ベース』をはじめ、オリジナルバラエティの新作を配信すれば必ずランキングの上位に入ります。オリジナルフェイクドキュメンタリー『VIRGINS』を初めて作った時の反響も高かったし、月9『好きこと(好きな人がいること)』との連動スピンオフ企画の反響も上々でした。オリジナルコンテンツの配信でいくつか結果が出ていることから、FODのオリジナルコンテンツにはニーズがあることが明らかになりましたし、手ごたえを感じています」
視聴率や視聴者の反響以外についても、
「この2年ほどで、オリジナルコンテンツを作るために、直接出版社や芸能・音楽事務所の方とご相談する機会が増えました。FODの番組に、直接タレントのご案内やレコード会社の方が “主題歌に使ってください”と音源を持ってくるなど、さばききれないほど売り込みがくるようになりました。恐らくFODが“番組制作を手掛ける部署”だと認められるようになってきたのでしょう」
先日の発表会の後にも、“FODではたくさん番組を作っている”ということが認知され、売り込みが増えたそうだ。このような状況下で、FODが将来目指す展開とはどのようなものなのか。
「私としては、今後3年をかけてFODで配信するオリジナルコンテンツの比率を50%位に引き上げていきたいと考えています。地上波テレビ番組に付随したキャッチアップサービスや、過去作品のアーカイブだけにとどまらず、FOD独自のオリジナル作品もストックして、総合配信サービスを目指したいですね」
若者向けオリジナルコンテンツで淘汰の時代を勝ち抜き、番組ラインナップを増やすことで「総合配信サービス」としての価値を高めていく方針のFOD。オリジナルコンテンツの制作時間を増やすのは、中長期的な目標を実現させるための下準備でもある。
■総合配信サービスを目指す上でのターゲット戦略とは
では、FODが総合配信サービスを目指す上で、地上波とのすみ分けや地上波との関わり方をどのように考えているのだろうか? また、ターゲット戦略はどのように策定しているのだろうか?
「世帯の視聴率を取るには、上記グラフ(我が国の人口ピラミッド)からもわかるように、人口が多い40~60代をメインターゲットに番組作りをしなければなりません。一方、若者の視聴者が多いFODでは、ネット利用の多い10~30代が好む番組を並べていけます。フジテレビ全体としては、地上波とFODを合体させると、全年齢の視聴者をたくさん取り込めることになりますよね。将来的には、総合的なメディアとして勝負できればと考えています」
FODのオリジナルコンテンツづくりにおいては、ジャンルごとにメインターゲットを想定し、制作の目的や指針を明確にしている。ドラマでは10~20代の若い女性をターゲットに、胸キュン系の恋愛ものに力を入れて、彼女たちが好きな女優・俳優を並べる。バラエティでは、主に演者に寄り添った企画でコントロールするなどだ。
「どちらかというとバラエティの視聴者は男性寄りなので、10代という年齢層に絞らず、お笑いの出演者に付いている幅広いファン層に向けて制作しています。もっと具体的に言うなら、有吉さんをキャスティングすれば30~40代、メイプル超合金ならもっと若い10~20代の視聴者から支持される番組を目指しています」
制作者の選択にも色々な狙いを持って取り組んでいると語る下川氏。FODの制作側においても同じで、『有吉ベース』などは下川氏と同年代の制作者が手がけている。一方で、10~20代では明らかに感性が違うそうで、『ゲスト メイプル超合金』などの若者向け番組は20代の制作者に任せ、彼らの感性で彼らが面白いと思うものを作っている。ほかにも、実験的な番組には制作チームに若いディレクターや放送作家を抜てきして、若い感性で制作してもらうようにしているそうだが、
「そうは言っても、作り手とターゲットとなる視聴者の年齢を、必ずしもリンクさせているわけではありません。視聴者の感覚も、それぞれの感性や生活スタイル、趣味・嗜好によって異なるので、制作側の実年齢というより感性などを重視しつつ多様性を担保しています。」
後編では、上記を踏まえ、放送と配信のこれからの関係性について語っていただいた。