中国の若者にも人気『四月一日さん家の』、テレ東・五箇公貴Pが語るVチューバードラマの可能性(後編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
現在、放送中のドラマ『四月一日さん家の(わたぬきさんちの)』(テレビ東京ほか、毎週金曜24:52〜)は、3DCG空間上でバーチャルYouTuber(以下、Vチューバー)がシチュエーションコメディを展開するもの。地上波で新たなVRエンターテイメントを実践する試みが注目されている。同時配信されている中国でも人気を得ているという。VRコンテンツの可能性は今後、どのように広がっていくのか。前編に続き、番組を企画するテレビ東京コンテンツ事業局コンテンツビジネス部副部長/プロデューサーの五箇公貴氏に話を聞いた。
■中国ビリビリ動画で約70万回再生、中国や日本でイベント展開も計画中
メインユーザーは10代、日本のアニメ好きが集まる中国の動画配信サービス「ビリビリ動画」でもドラマ『四月一日さん家の』が4月から同時配信されている。
当初から中国の若者も意識した作りで制作が進められたのだろうか。
「このドラマに関しては中国市場を考えた作りにはしていません。日本テイストのままの方がいいと思ったからです。中国のセンサーシップに対応する必要はあるので、台本上で直した部分はありました。でも、本質は変わらない内容です。もともと過激な企画を進めようとは思っていなかったので、『四月一日さん家の』に関してはプラスの作業はさほど生じませんでした。強いて言えば、同時配信が条件とされていたので、昨年夏に立ち上げた企画を1月中旬には中国に全話納品するためにスケジュール調整することだけが大変ではありました」。
中国でもVチューバーが増えているという。そんななかで得た『四月一日さん家の』の反響をどのように受け止めているのか。
「中国における4話までの視聴回数は69.3万回。テレビ東京がビリビリ動画に提供している作品の中でもハイペースに見られています。この反響に勢いに乗って、中国で『四月一日シスターズ』として公演なども実現できたらと、今考えているところです。シーズン2、3と続くことができるように、もちろん中国に限らず、日本で歌やお芝居、漫才なども展開することを計画したいと思っています。放送外のマネタイズが成功しないと、次の展開に持っていくことが難しいからです」。
放送番組をコンテンツビジネスとして捉え、ひとつのコンテンツをロングランで走らせていくことが今、求められている。ドラマ『四月一日さん家の』も当初からこうした考えをもとに企画されたのか。
「はい、そうです。実写ドラマをアウトプットするチャンネルはアニメに比べると、そう多くはありませんが、Vチューバードラマはいろいろと仕掛けることができそうです。ただし、『四月一日さん家の』はテレビ東京の深夜ドラマのビジネススキームで進めたもの。だから回収できる仕組みになりましたが、Vチューバーの方が同じようにドラマを作ることが難しいのが現状です。Vチューバードラマを企画した身として責任を感じ、Vチューバーの方の誰もがトライでき、マネタイズできるビジネスモデルを確立していくことも考えていきたいと思っています。そうしないと、広がっていかないからです。盛り上げていき、Vチューバー全体の底上げに繋げることも今後の課題です」。
■「今やる意味を常に考える」五箇氏のドラマ企画のこだわり
五箇氏にとって、Vチューバーコンテンツに魅力を感じる部分とは何だろうか?
「Vチューバーは技術的に予算上のハードルもありますが、とにかくフットワークは軽いことが魅力だと思います。今回、『四月一日さん家の』の制作を進めていく上で、何よりも感じたのは若い人材が揃っているということ。技術チームは20代前半から上でも30代前半ぐらい。テレビ業界と比べて平均年齢は半分ほどです。やりとりも異常なぐらいに早い。ファイルはビジネスチャットで共有して、いちいち会って話しません。熟練メンバーが揃った実写の技術チームから受けた技術を反映し、吸収する能力も高い。Vチューバーも常に自分たちで全てをこなしているから不具合を直し、解決していく能力が優れています。レスポンスも早く、『次にこれをやります』と伝えると、1週間ぐらいで『できます』と答えが返ってきます。一般の芸能の世界では1か月ぐらい返事がかかるものなので、早さを感じます。でもその反面、答えを出した後に『やっぱりできない』と、芸能界のロジックでは考えられないような展開もあり得る。これは良し悪しでもあり、Vチューバー業界は今、黎明期だからです。
でも、新しくチャレンジしようと思うVチューバーの方が多いことに可能性を抱きます。実写ドラマを作り始めた頃に目の輝きを持った若手と出会った時のことを思い出させます。こだわりがある方も多く、新鮮味を感じます。テレビはもうやり尽くしてしまったと思っていたのですが、まだ誰もやっていない番組を作れる感覚にもさせてくれました。『四月一日さん家の』を中核にVチューバーの世界を広げていきたいと思っていますので、新プロジェクトの発表をお待ちいただければと思います」。
五箇氏はこの『四月一日さん家の』のほか、現在放送中の『電影少女2019』(主演・山下美月・乃木坂46)もプロデュースし、7月クールでは『コップのフチ子』の企画・原案で知られるタナカカツキの漫画をドラマ化した『サ道』(主演・原田泰造)も担当する。次々と注目作をプロデュースする五箇氏にドラマ企画に対するこだわりについても聞いた。
「誰もやっていないことをやりたい。それを基本に企画を考えます。今あるものと別のものを掛け合わせた企画にもこだわっています。『四月一日さん家の』の場合は実写とVチューバーのテクノロジーを掛け合わせ、『電影少女』はリブートといった具合です。テレビ東京は人気原作を獲得できない場合が多いので、過去に遡って手がつけられていないものを今っぽくアップデートするのもよくやる手口です。また監督などスタッフ選びにも必ずこだわります。それによって細かいディティールに違いが生まれるからです。旬な人やネタも大事にしていることのひとつです。7月クールに始まる『サ道』も今だなと。
もともと僕自身がサウナ好きなのですが、働き方改革によってライフスタイルも変わり、『スカイスパ』や『コワーキングスパ』『ミーティングスパ』といった時代に対応したサウナが登場しているので、今っぽいドラマになると思い、企画したものです。今やる意味を常に考えることも自分の中のこだわりだと思います」。
話を聞いていくうちに、物珍しさだけに終わらないVRコンテンツとしてのVチューバードラマの可能性を見出していることがわかった。次の展開が待たれるところだ。その前に『四月一日さん家の』(#9 6月14日放送)で、四月一日三姉妹による「漫才」が再度投入されるようである。エンターテイメントの掛け合わせを最後まで楽しませてくれるドラマである。