Vチューバードラマ『四月一日さん家の』テレ東・五箇公貴Pが語る「制約の中で作る面白さ」(前編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
今期放送中の連続ドラマの中で異彩を放つ『四月一日さん家の(わたぬきさんちの)』(テレビ東京ほか、毎週金曜24:52〜)。バーチャルYouTuber(以下、Vチューバー)を起用し、実写でもアニメでもない新感覚のエンターテインメントを展開している。注目すべきは、テレビ東京らしい攻め方でクリエイティブと技術を結集させているということ。史上初の試みをどのように実現させていったのか。ドラマ『電影少女』シリーズなどエッジの効いた作品を数多くプロデュースするテレビ東京コンテンツ事業局コンテンツビジネス部副部長/プロデューサーの五箇公貴氏に話を聞いた。
■キャラクターと生身の人間が一体となったVチューバーに新しさを感じた
ドラマ『四月一日さん家の』に出演するのはときのそら、猿楽町双葉、響木アオの3人のVチューバーのみ。YouTube上で活動するCGキャラクターであるVチューバーを役者として仕立て、3DCG空間のセットの中で長女・一花(ときの)、次女・二葉(猿楽町)、三女・三樹(響)を演じている。
どのような経緯から企画を立ち上げることになったのか。
「放送作家の酒井健作さんとの雑談から実は思いついたアイデアでした。その時はVチューバーについて詳しいわけでもなかったのですが、話を聞いているうちに、アニメでもなく、キャラクターと生身の人間が一体となったVチューバーそのものにこれまでにない新しさを感じました。ここのところ比較的、安定志向の企画が自分の中で多かったこともあって、面白いドラマの企画を立ち上げたいという想いもありました。Vチューバーの基本的なスタイルは、固定された空間の中で、一人称でカメラに語りかけるものが多い。ワンシチュエーションの設定で2、3人だけが登場するドラマの企画だったら成立するんじゃないかと思ったんです。でも、その時点では勘だけが頼り。具体的に成立するのかどうか、最新映像技術を扱うハローの赤津慧さんに早速相談しました。『カメラ4、5台を使って、3人のVチューバーの女の子がフル3DCGスタジオで掛け合う様子を30分12本のドラマにすることが技術的に成立できるものかどうか』と聞いたところ、答えは『物理的には可能ですよ』と。確信が持てたところで、社内(テレビ東京)に企画を出すと、『誰もやったことがないものをやれるのであれば、やってみたら』となり、進んでいったわけです」。
酒井健作氏は、(『勇者ヨシヒコ』『ゲームセンターCX』『電影少女-VIDEO GIRL Al2018-』)企画・構成を、赤井慧氏は五箇氏と主にプロデューサーとして参加した。さらに脚本家陣にふじきみつ彦氏(『バイプレイヤーズ』、じろう氏(シソンヌ)、土屋亮一氏(『ウレロ★』シリーズ)ら、監督陣に住田崇氏(『架空OK日記』)、湯浅弘章氏(『探偵が早すぎる』)、渡辺武氏(『猫侍』)、太田勇氏(『YOUは何しに日本へ』)ら、スタイリストに伊賀大介氏(『モテキ』『怪奇恋愛作戦』)を迎え入れた。映画やドラマで実績のある布陣を揃え、体制は十分といったところだが、制作工程上で実写ドラマと違いが生じることも想定される。
「実写と比べてできる、できないといった制約が当然ながらありました。食事をしながら話すことができないといったVチューバー特有の制約が増えても、脚本でどう面白くさせるか。通常の深夜ドラマと同等の予算の中で技術的にどう成立させることができるのか。これらが最大の課題にありました。当然ながら、実写とバーチャルの掛け合わせによって、制作工程が多くなってしまいがちです。例えば、衣装決めひとつとっても時間を要しました。今回、YouTube上でもともと使われているユニフォームとは変え、ドラマの設定に合わせて女の子が日常で着るような服を着てもらっています。その衣装決めの際、スタイリストの井田大介さんが用意してくれた服の中からひとつに選んだ後も、作業が続きます。技術チームが衣装をただ単にCG上に張り付けるわけではなく、3Dモデリングする必要があるからです。
セットに関しても実写のセットチームがデザインを起こし、それをまたCGグラフィックチームが作成していくといった工程を踏む必要があります。撮影に入ると、実写のドラマの場合はスタッフも多く、それはそれで調整作業が増えますが、今回は言語が異なる技術班と制作班の話をまとめる苦労もありました。自分が現場に立ち会えばなんとかなるといったエラーではなかったことが多かったです。ひたすら撮影の裏で全体設計を行う役回りでした」。
ドラマの登場する3姉妹のうち次女の四月一日二葉(ふたば)役は、実際に行ったオーディションで選び、新人Vチューバーの猿楽町双葉が演じている。長女の一花(いちか)役のときのそら、三女の三樹(みつき)役の響木アオは既に活躍しているVチューバーだが、演技は今回が初。そこで演技指導についても聞いた。
「3人共に演技は初めてでしたが、Vチューバーの活動そのものが演技に近い。ちょっとだけ役作りしてもらっただけで、ハマっていました。思っている以上にスキルも高かった。毎日のように視聴者に向けて発信し、場合によってはコメントを拾ってレスポンスしているので鍛えられているのでしょう。演技以上に大変だったのは、何もない空間で演技をしてもらいながら、それを3DCGセットに組み合わせることでした。セットがあれば、机にぶつかる場面もCG画面上ではのめり込んでいるようにみえてしまう。4面のマルチモニターをみながら、立ち位置をシーンごとに細かく伝えながら、演技してもらう必要がありました。4台の4Kカメラ位置から本番で撮影したものをピクチャールックして、MAし、編集上で不具合を直せるものは直すということを繰り返す。編集の直し作業は今でも続いています」。
■「味を面白がってもらいたい」3DSゲームの愛され方に当てはまる
4月から放送が始まり、初のVチューバードラマとあって注目度は高い。反響をどのように受けとめているのだろうか。
「3人のVチューバーをはじめ、スタッフの頑張りもあって、思った以上のものができ上がりました。反響も想像以上でした。笑い声を挿入した演出には当初、賛否両論の意見もありましたが、徐々に好意的に受け止めてくれる意見が増えているのかと思います。『きのう何食べた?』(主演:西島秀俊・内野聖陽、毎週金曜24:15〜)に続く放送枠ということもあって、いろいろな層も取り込めています。CGやアニメのルックは女性に毛嫌いされる傾向にありますが、今回はあくまでもドラマということもあって、男性視聴者層を意識したセクシーなコスチュームにしなかったことも功を奏したかもしれません。ストーリーも例えば『三女が急に蛇になっちゃいました』ということも物理的にも可能です。その話だけ蛇の姿かたちのまましゃべることもできるのですが、人間の日常的なストーリーにこだわりました。アニメよりも実写のドラマ寄りの読後感を味わってもらえるよう目指しました」。
では、Vチューバードラマだからこそできることは何か。実現させたところで改めて気づいた点も教えてもらった。
「実はアドリブで芝居をしてもらっている部分もあります。これはアニメではできないことです。動きと声が紐づいているVチューバードラマだからできること。それによって生っぽい感じが演出できます。なめらかではない独特の動きも味だと思っています。バージョンアップすると、カクカク感を取り除くこともできますが、そこは目指すべき方向ではないと思いました。3DSとPS4のゲームの違いで言うと、『四月一日さん家の』は3DSゲームの愛され方に当てはまる。超ハイスペックなPS4のゲームだけがヒットするわけではなく、3DSも爆発的にヒットします。だから、味を面白がってもらうのがVチューバードラマの良さなのではないかと思っています」。
企画立ち上げから制作まで、ひとつひとつにVチューバードラマならではの狙いがあることがわかった。そんなドラマ『四月一日さん家』は中国でも同時配信されている。中国市場での反響やVチューバードラマの可能性も気になるところ。後編も引き続き五箇プロデューサーに聞いた話をお伝えする。