“愛される”未来の広告について考える!産業能率大学『AgeMi!マーケ!2030』レポート<Vol.1>
編集部
2019年3月22日、産業能率大学 自由が丘キャンパス ラーニングコモンズ(IVYホール)にて、同大学経営学部 マーケティング学科 小々馬敦教授が主導する「小々馬ゼミ」主催のカンファレンス『AgeMi!(アゲミ)マーケ!2030』が開催された。
「広告業界の最先端で活躍するパネリストを招き、10年先の未来を見据えた若者向け広告の潮流を講義形式で解説する」というコンセプトで行われたこのカンファレンス。当日は広告・PR業界、事業会社、テレビ・映像関連などの分野から300名を超える参加者が訪れ、賑わった。
今回はこのなかから、セッション『“愛される”未来の広告について考える』の模様をレポートする。パネリストとして日本テレビ放送網株式会社 日テレラボ調査研究部 主任 加藤友視氏、ゲストとして株式会社博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター 須田和博氏が登壇し、同ゼミと共同で実施したワークショップの報告をもとに、「若者に愛される新たな動画広告」のありかたについて提言がなされた。
■「CMは嫌い?」でも「好きなモノへの情報収集は惜しまない!」
冒頭で加藤氏は、日テレラボが2017年秋に行った調査の結果を紹介。テレビよりもYouTubeを積極的に視聴する習慣を持つ若者たちの視聴スタイルとしては「YouTubeは自分にとって興味のある情報が、関連動画などレコメンドにより自動的に提示され、積極的に動画を探しに行くというよりは、心地よく受動的に視聴されている」(加藤氏)という。
また、スマホのログから得られたデータでは、アプリ起動1回あたりの平均利用時間は、YouTubeが6分、SNSが2分程度。必要な情報を短時間のうちに選び取って短時間のうちに消費するのが大きな特徴で、なかでも動画の視聴時間は最大3分程度であり、この辺りが視聴しやすい動画のサイズと見て取れる。
さらに、若年層ほど動画広告で態度変容しやすい傾向にもある一方で、「自分の見たい動画の視聴前に挿入される動画広告は『不要な情報を一方的に押し付けてくる』存在」であると嫌っている人が多いことが課題となっている。一方で「自分の好きなものに関する情報収集は惜しまない志向をもつ」という実態が浮かび上がった。
■若者に“嫌われない”動画広告とは?ヒントは「共感・意味付け・参加」
調査結果を受け、日テレラボでは産業能率大学と「若者に愛される動画広告」というテーマで課題解決型授業を実施。授業に参加した約30名の学生からは、同年代の大学生の広告や動画に対する意識調査などを駆使して「思わず好きになってしまう動画広告のかたち」という軸でさまざまなアイデアが挙がった。
たとえば、「広告収益を募金すると宣言することで『広告を見ることが社会貢献になる』という意味付けとなる広告」というアイデアや、「自分がコンテンツの中に入り込める広告があると、一体感を感じられて好きになる」というポジティブな意見が挙がったという。
これらの声からは、若者たちが好感をいだく動画広告のテーマとして『共感』や『視聴に対する意味付け』『参加体験』という軸が浮かび上がった。
■「ウザいもの」だった広告を「体験できる」「役に立つ」ものに
セッション中盤から、博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 須田和博氏が参加。須田氏は次世代型の広告クリエイティブを開発する『スダラボ』を主宰している。
アプローチのひとつとして須田氏らが着目したのは「視聴者にとって『役に立つ』広告」という発想。「若年層にとって『広告は“ウザいもの”』として認識されてしまっている」現状において、須田氏は、「自分にとって『役に立つ』と思ってもらえれば、『ウザいもの』という認識ではなくなるのではないか」と、その趣旨を語った。
ここで須田氏が、過去に手がけたロッテのソフト・キャンディ「カフカ」の事例を紹介。ターゲットである若い母親層が抱える困りごとである「子供のぐずり泣き」を解決する機能を音響効果で持たせた動画『ふかふかふかのうた』をYouTubeで公開し、オリジナル動画で1467万回(2019年4月21日現在)、ユーザーによる繰り返しリミックスを含めると、のべ2億回を超える再生数を獲得することに成功したという。「ターゲットの顧客が抱える悩みや問題に寄り添い、『使ってもらえる』『お役に立てる』広告を作れば、能動的に接触してもらえるのではないか」と説明した。
須田氏は「現状は情報過多ゆえに、興味のない広告は無視される」とし、「広告を体験型に拡張することで、まず興味を持ってもらい、そこに新しい広告の役割と楽しさを生み出したい」と、今回の試みの趣旨を述べた。
■MR(複合現実)技術で「テレビ体験を最大化する」
須田氏は続いて、日テレと博報堂DYグループの共同開発による『MR(Mixed Reality:複合現実)』を用いた体験型広告の製作事例を紹介した。
MR(Mixed Reality:複合現実)とは、カメラなどによって得られる現実空間の映像に対してリアルタイムでアバターなどのコンテンツを合成する技術。体験者から実際に見えている物体や映像、ポスターといったものに対してコンテンツが「“物理的に”フィットした」形で現れるのが大きな特徴だ。たとえば「見ているテレビの画面からキャラクターが飛び出してくる」といった、空間に没入するような演出も、MRでは可能となる。
須田氏は「MRを使って映像を空間体験にすることで、プロモーションを拡張することができる」と述べ、テレビCMやウェブCMに体験要素を加えるアプローチを提案。日テレの情報番組『SENSORS』とのコラボレーション企画として「テレビのなかから登場人物が出てくる」CMを製作した。
このCMでは、MR対応デバイスを通して実際のテレビ画面を見ると、画面のコンテンツに連動したタレントやキャラクターやセールスマンなどのアバターが、現実空間に跳び出して来る。視聴者の自室空間に出現したアバターは、インタラクティブな操作に対応しており、「CMで紹介された商品について詳しく説明を聞く」など、コンテンツを入口に、さらに深い情報へと視聴者がアクセスすることができる仕組みとなっている。
CMのデモを見た産業能率大学の学生からは「見たことない新鮮さがあった」「自分が体験できるということが魅力的」といった好意的な反応が多く得られた。また、これまでの広告に対して懐疑的な見方であった層からも一定の評価を得ることが出来たこと須田氏は強調した。
これを受け、日テレの加藤氏は「体験するだけでなく、CMの登場人物と一緒に写真をとり、それをSNSでシェアしていく、というように、新たなコンテンツの活用がひろがっていくのではないか」と述べ、視聴者からの“シェア”を通じた新たな広告コミュニケーションの創造に大きな期待を寄せた。
今回のカンファレンスのテーマである「2030年代のマーケティング」について触れつつ、「このようなMR技術などを組み合わせていくことで、2030年にはテレビ体験を日常空間そのものを使うレベルにまで、最大化出来るのではないか」と述べた須田氏。現実体験を拡張する最新テクノロジーの登場によって、これからのテレビ広告はさらに大きな価値を持つようになると「予言」し、セッションは終了した。
若者たちにとって「嫌われもの」になりつつある動画広告を、「役に立つ」「参加できる」ものへ。現実を拡張する最新テクノロジーの登場によって、これまで一方的に流されるものであった広告の形は、視聴者自らが「取りに行く」「遊びに行く」ものへと変化していくのかもしれない。