テレビ視聴ログデータ活用の現在と未来~電通の統合マーケティングプラットフォーム「STADIA」担当者に聞く~<vol. 2>
編集部
テレビ受像機がインターネット結線されことにより、従来の量の調査だけではなく質の調査を深堀り出来るようになった。テレビのインターネットへの結線率はまだ30%程度だが、その視聴ログデータには多くの可能性が秘められている。
前編に引き続き、話を伺ったのは株式会社電通のデータ・テクノロジーセンター オンオフ統合データソリューション部の前川駿氏。前回は、「STADIA」開発へと至った経緯からサービスの概要までを語ってもらったが、今回は、「STADIA」の最新動向と今後のテレビとデータをどう捉えて統合を進めていくのか、その理想像について伺った。
■時代の変化とともに「STADIA」のコンセプトも変わる
――STADIAは新たな展開に入っていますね。
ブランドの広告キャンペーンの中で、具体的にどう活用すると成果が出るか、システム開発よりは運用の課題が中心となっていますね。
例えば、分析の中身や頻度といった質を高め、オンオフ統合の分析やプランニングの業務をより効率的に回せるようにしていくことに注力しております。一見、テレビCMやデジタル広告に接触したことがきっかけでサイトに来訪しているように思える因果関係も、たまたま来訪していた人に広告が当たっていたという相関関係であったりすることもあるので、こういった因果関係と相関関係を区別するために統計的なアプローチを使うこともあります。このようなデータサイエンスのところは、広告の領域での経験がたとえ少なくても、それよりは、より統計に強いメンバーがリードし、新たな視点を常に取り込んでいけるようチーム一丸となってプロジェクトを進めています。
開発の面では、純粋なシステム開発というよりは、「STADIA」というモノを他の会社のどういうシステムやデータと組み合わせると「オンオフでメディアの価値を高める」ということに繋がっていくかを模索する、というパートナーシップが中心となっています。そのうちのひとつとして、最近ではテレビ×ネットにOOH(Out of Home=屋外・交通)広告を加えた、「STADIA OOHプラス(β版)」の開発を2018年4月に発表しました。
これまでは、OOHもテレビと同様に、どうやってそのメディアの効果や影響力を可視化するか、ということが長年の課題でした。そもそも何人の人にOOH広告が到達していて、広告に到達した人は、ブランドに興味を持ってもらえたのか、といったことがはっきりしてきませんでした。さらにOOH広告と他のメディアの組み合わせの効果も、もちろん同様です。テレビCMに加えた駅周辺のOOH広告によるリーチやフリークエンシーの補完効果、デジタル広告とOOH広告の重複接触によるリーセンシー効果などを具体的なデータに基づいてプランニングしたり、効果検証を行ったりすることはなかなか難しい状況でした。
しかし、「GroundTruth社」とのパートナーシップによって、日本で初めてOOH広告に接触した人々の実行動データ分析が可能となりました。カギとなるデータは、位置情報です。スマートフォンから利用者の位置情報を取得し、そこからSTADIAが実施してきた技術を応用することで、OOH広告の接触とテレビやデジタルの統合的な分析が可能となったのです。「GroundTruth社」とは、位置情報マーケティングで世界をリードする会社で、電通は2018年3月に資本業務提携を行っています。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0314-009486.html
まだβ版ではありますが、実験的な活用を行いたいという多くの問い合わせを頂いています。
――STADIAの可能性がさらに広がりましたね。
テレビ、インターネット、OOHの3つの媒体をどう組み合わせると商品について興味を持ってもらえるか、とか、今度お店でチェックしてみようと思ってもらえるか、はそれぞれのメディアの役割次第で何通りも考えられます。テレビで興味を持ってもらったと思われる人にお店の近くでOOH広告やデジタル広告に当ててみようという考え方もあるでしょうし、テレビで到達しにくい、例えば情報収集のネット利用の割合の大きい一人暮らしの人や忙しくてなかなかテレビを見る時間の取れない社会人に対し、デジタルやOOHで広告を効率的に届けるということもあります。ここはブランドの課題に応じて、それぞれメディアにどう役割を持たせるかというメディアプランニングの知恵の絞りどころだと思います。
そのようなプランニングをサポートするために、STADIAを活用しテレビ、インターネット、OOHをつないだ複数の媒体を活用したリーチ、認知、態度変容からサイトへの来訪、実店舗への来店、購買に至るまでのフルファネルでのKPI分析や効果検証を実現させつつあります。
メディア接触や購買行動が多様化するにつれて、どういうメディアにどういう役割をもたせて、どういう風に組み合わせるかという方法も多様化しているので、その統合的な視点、統合的な管理は必要になってくると思います。広告主の方々が持つ様々なブランドの課題に柔軟に応えるために、テレビとデジタルに加え、OOH、ラジオ、新聞、雑誌と広げていき、オフラインのメディア接触とデジタル広告の組み合わせ、オフライン広告同士の組み合わせについて対応できるようにしていきたいと考えています。
■テレビvsデジタルではなく、テレビwithデジタルに
――時代の変化とともに、テレビとデータの関係性はどう変化すると考えますか?
かつては「視聴率」のデータだけを見ていれば、十分だったと思います。リーチフリークエンシーという広告主にとってのテレビCMの効果・効率を表しますし、放送局にとってのCM在庫の量ということも表します。さらには、視聴率XX%という数字が世の中の人々の浸透度を広く表す指標としても、三方にとって同じ物差しで十分でした。
しかしながら、人々のメディア接触行動も変化し、購買行動も多様化しています。広告がついたコンテンツもテレビ以外のデバイスでも見られることも増えています。可処分時間もどんどん細分化されていく中で、広告主にとって、放送局にとって、人々にとって、あるいはコンテンツの権利の所有者にとってのデータの指標は1つでは難しくなってきていると考えています。
現状、STADIAが説明しているテレビの「質」は、あくまでブランドのマーケティング視点の広告の物差しです。人々がテレビコンテンツについて共感したのか、ということを表すことはできません。世の中への浸透という意味では、ソーシャルネットワーク上でいかに話題にされているのかが重要かも知れません。また番組の見られ方という意味では、機械式に専念視聴を取得する方法も出てきており、テレビ番組やCMの”ビューアビリティ”という考え方も浸透してきていると思います。これだけ多様化・細分化した現在においては、一つの物差しという考え方自体がそぐわないのではないかと感じ始めています。
ひとつひとつの物差しはもちろんそれぞれが関係しあっていますが、それぞれ異なる物差しが時にはひっぱりあっている中で、ひとつのエコシステムを作るところに、今は人の知恵や工夫の余地がまだ残っていると思っています。
――テレビCMとデジタル広告の統合にはどのような課題があると考えていますか?
そもそも、テレビの世界の指標の母数はテレビ普及可能世帯に対する%で表現されることに対し、デジタルのリーチは一般的に”人数”としてカウントされるので、単純に足すことはできません。
テレビCMとデジタル広告の「接触した・見た」という集計方法を合わせることも必要です。例えば、テレビの「見た」のは一般的に”人”単位ですが、デジタルでは人の数ではなく、ブラウザ(Cookie)の数で計測されているケースもあります。Cookieで計測されたリーチと人単位で計測されたリーチとでは、約30%程かい離があるという結果もあります。
またデジタル広告は、テレビCMよりも、その大きさ、掲載されるデバイスや場所、本編記事や映像との関係など、非常に多様になっています。スマートフォンを縦にしてみる広告も注目を集めています。このように様々なメニュー・フォーマットを持つデジタル広告について、「見た」という定義を、そもそもデジタルの中でどう合わせるのか、ましてやテレビとどう合わせるかも、一般的な方法があるわけではありません。
テレビwithデジタルという考え方で、統合的な指標を作っていくということにも取り組んでいますが、テレビとデジタルの基準を合わせることの残された議論はまだたくさんあります。実際のキャンペーン効果計測を行いながら、自問自答の中で、解決策をひとつひとつ重ねていくしかないと思っています。
――今後、テレビとデジタルのデータ統合はどうなると考えていますか?
テレビとデジタルの統合ということは、簡単ではないですが、広く議論する必要があると思います。
STADIAは広告会社の1つのプロジェクトですが、一つ一つ様々なステークホルダーの課題解決に貢献すること、皆のテレビとデジタルの統合についての
コンセンサスを作っていくことに貢献できればと、個人的には強く感じています。
――最後に、テレビとデジタルの理想像をお聞かせください。
広告会社の人間として、広告が届くという体験が、「人々にとって今よりも楽しく、発見があり、行動したくなるようなものを目指す」ことは最大の関心です。
そこにチャレンジし続けたいですね。広告会社がこだわり続けるべきミッションは、「人を動かす」ということだと思っています。最終的には、届く人にとって、テレビとデジタルが連動して届くこと、視聴ログデータを自分たちが提供することって嬉しいんだっけ?役に立つんだっけ?ということに応えていないと広がっていかないと思います。
そのようになることを見通して、テレビCMとデジタル広告の今よりももっといい関係というのを作っていきたいと思います。