テレビ視聴ログ活用事例と今後の展開~博報堂DYグループのテレビCM効果最大化ソリューション「Atma」担当者に聞く<vol.2>
編集部
テレビ受像機をインターネット結線して使う生活者が増えたことにより、取得できるようになったテレビ視聴ログデータの分析と、DMPとの連携による活用が注目を集めている。「テレビCM効果の可視化」においても、インターネット、とりわけデジタル広告とテレビCMを統合的にプランニングする手法が重要視されていることから、前編では、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ データビジネス開発局 ビジネス開発部(兼)グローバルビジネス局 戦略企画グループ 増澤晃氏を取材。テレビ視聴ログデータを活用し、テレビCMの効果を最大化するソリューション「Atma」開発の経緯や、ソリューションの概要について話を伺った。後編では、活用の事例と、データ活用の現状についてお話いただいた。
■「Atma」活用の事例
――Atmaを使用することで、どのような分析ができるのでしょうか?
大規模テレビ視聴ログデータと、生活者DMPの各種オンライン/オフラインデータを統合した広告配信・効果検証が可能になります。具体的には「テレビの視聴セグメントによるデジタル広告配信」「マスとデジタルの最適な出稿計画」「テレビ施策のCV効果の可視」「テレビ番組提供効果の向上と可視化」ができます。
――活用の事例についてもお聞かせください。
テレビ視聴上でのセグメントに関して、(デジタルでのデータと組み合わせることで)どういったデジタルでのクリエイティブを訴求するかを検討することができます。例えば、子育て世帯・子どもを持っている世帯へのマーケティングと一口にいっても、ライフステージは細かく分かれてきています。(子どもの年齢によって)『幼児向けキャラクター番組』を見ている世代、『戦隊ヒーロー番組』を見ている世代、もう少し学習系のコンテンツを見ている世代などと、テレビで見ているコンテンツは異なっています。また、昼間にテレビが付いているか付いていないかで、共働きかそうでないか、ということも想定できます。こういった視聴傾向からライフスタイルを推測して、それに合わせてデジタルでのクリエイティブの開発を進めていくことができます。共働き世帯であれば「時短」を訴求し、ずっと昼間もテレビがついている世帯であればもう少し子育てに寄り添ったクリエイティブの開発など、といったことですね。
2つめの事例は、前提としてパネルの調査の中でわかってきていることとして、世帯の中でCMに多く接触したとしても、(世帯の中の)世代別で切ってみると特定の世代にはほとんど当たっていないというケースが顕著に現れています。これはテレビマーケティングの課題として顕在化してきていることとして捉えています。そこをデジタル側で補完することや、逆にテレビでよく接触している世帯に関して、デジタルで具体的な商品理解を訴求するなどといった事例があります。昔から言われている「若い人だからデジタルだよね」ということに限らず、CMの接触量からどう考えていくかということです。
3つめとしては、提供番組の広告主に対してのマーケティング施策支援です。結線されている200万台の中で、例えばドラマであれば何話を見たか、途中から見始めたか、録画で見たのか、そしてそういう時にCMに接触しているかということがわかります。こういう動向を元に継続的に出稿いただく広告主に番組に対する効果を考えていくということも始めています。実際に、一つの番組を好きになり(CMなどで)広告主への接触が増えていくと、検索しよう・サイトで商品のことを見ようという行動が実際に起こることもわかってきています。
CMを見たあと、例えば自動車広告主でいうと、サイトにキャンペーンで入ってきたのか、車種を検索して入ってきたのか、「RV」のようなワードで入ってきているか、他のサイト回遊をしたのかなどの動向を元に分析しています。
また、CMを見た後に購買するか、来店するかというところもソリューションとして用意しています。ここに関しては単に位置情報データを扱うだけでは難しい面があります。例えば駅前にある店舗であれば、来店したのか、単に駅を通ったのかなど、精度が難しいところがあります。購買に関しても、CMを見たから買ったかというところは、スーパーで買うのかドラッグストアで買うのか、さらに自販機も含めて、購買動向自体が全数で全てわかるということは困難だととらえていますので、実際に買った人のテレビ動向を踏まえてプランニングするという逆上がりをする形でご提案しています。実際にその商品を買った人がみているテレビ番組のランキング、一般的に世の中で見られているテレビ番組のランキングを比較して、「あの商品を買う人はどんな番組を見る傾向にあるのか」という分析をします。単にテレビ→購買という矢印ではなく、(生活者DMPで得る様々なデータを元に)購買した人たちの動向をより分析して、テレビ視聴側の傾向を照らし合わせていくという形です。
インフォマーシャルの分析も増え始めています。まだ認知率・利用意向が低い広告主や商品に関しては、実はデジタル上だけ高めることは難しくなってきています。デジタルでの投下量が多くなければ認知されづらくなってきているので、ちゃんとテレビCMで認知率を高め、そこにさらにインフォマーシャルという形を加えて番組に対する好意度を活かしたり、タレントさんに使ってもらったりすることで、シンプルにデジタルだけで施策を行うことより利用意向がリフトするということがあります。そのようなテレビ広告とデジタル広告をどちらも複合接触させていく効果の分析も行い始めています。
■データ活用の現状と、今後の見通し
――取り組みの現状についてはどのように捉えていらっしゃいますか?
データ領域のビジネス開発においては、「可視化」「価値付け」「ビジネス課題への貢献」という3ステップが必要と思っています。現状の「Atma」は「データの可視化、価値付けのトライアル」フェーズだと捉えています。データがどういう状況でどうとれているのかを可視化して、どう価値付けをしていくか。これがようやくトライアルを終えた段階なので、今後は単価の向上であったり、広告主にとってビジネス課題の解決へのインパクトを大きくしたりするというフェーズに入っていくでしょう。データを可視化して価値付けし、どうビジネスに活用していくかを放送局や広告主と共に考えていきたいというところです。
一方、開発チームとしてはこれだけ多くのデータを広告会社・メディア事業会社が分析することがなかったというフェーズに入ってきています。開発面でのマネジメントであったり、プロダクト開発の視点、そして社内でデータサイエンティストの存在であったりと、そういった面の重要性が上がっていくと思います。
――テレビとデータの現状についてはどのようにお考えですか?
これも同じく、全数データをどう扱うか、我々や放送局がどう定義するか、まだまだ様々なことを考えていくフェーズだと思います。それを広告主に説明し理解してもらった上で、それをトライしたいという企業とご一緒させていただいているところです。ネット結線率がますます上がっていく中で、量だけを追求するのではなく、データを見ながらどういう環境にあるテレビなのか、それがどう使われているか、そのような点を考えながらやっていく必要があります。
データの件数が増えていく中で、データを扱うためのコストがかかるようにもなってきています。システム環境を維持するためのコストも必要ですし、データサイエンティストのコストもかかります。日本のテレビ広告市場自体は横ばい・微増になってきている中で、データへのコストがかかる点についてどうマネタイズしていくか、というところは(業界全体として)考えなければいけない点です。
――データ活用のニーズは今後も高まっていくのでしょうか?
テレビの視聴データを分析して活用することは急激に進むと思っています。それは広告主からの要望としても大きく、また「テレビだけ」の効果を求めていません。テレビやネット、さらに新聞・雑誌・ラジオなども含めた「マスとデジタル」全体の中での展開をどうしていくか。その中で、マスメディアの効果をどう捉えるかという考え方が進んでいくと考えています。