テレビ視聴ログデータに着目した経緯とは~博報堂DYグループのテレビCM効果最大化ソリューション「Atma」担当者に聞く<vol.1>
編集部
近年、テレビ受像機をインターネット結線して使う生活者が増え、それにより取得できるようになったテレビ視聴ログデータの分析と、DMPとの連携による活用が話題だ。「テレビCM効果の可視化」が注目され、インターネット、とりわけデジタル広告とテレビCMを統合的にプランニングする手法も重要視され注目されている。
本シリーズでは、テレビ視聴ログデータの活用を行っている広告会社・メディア事業会社にその“今と未来”について取材した。今回、話を伺ったのは株式会社博報堂DYメディアパートナーズ データビジネス開発局 ビジネス開発部(兼)グローバルビジネス局 戦略企画グループ 増澤晃氏。同社にて2014年以降においては事業開発部門にて、媒体社・広告主とのデータマーケティング推進や、グローバル・データカンパニーとの業務提携等も担当し、ビジネス開発業務を行っている。また、テレビ視聴ログデータを活用し、テレビCMの効果を最大化するソリューション「Atma」の開発も担っており、前編では、その開発の経緯とソリューションの概要について話を伺った。
■「生活者DMP」構想の中でのソリューションの一つ
――まずはAtma開発の経緯について伺えますか?
博報堂DYグループでは、2013年より「生活者DMP」という構想を掲げて、パネルデータ・検索データ・購買データなど様々なデータを用いたソリューションを生み出してきました。2014-2015年には大規模なパネルベースの意識データとWeb上のオンライン行動データ(AudienceOne)を統合したQueridaというソリューションも含め、生活者DMPは200社以上の広告主にご活用いただいています。さらに200万台規模のテレビ視聴ログデータを加えるという概念でソリューションのアップデートを行いました。Atmaは、生活者DMP構想の中でのソリューションの一つの位置付けになります。
――テレビ視聴ログデータについては、生活者DMP構想を立ち上げた頃からニーズがあったのでしょうか?
当時からテレビ視聴ログデータというものは存在していましたし、パーソナルデータとしての視点も含めて、どう活用していくかの指針・ディスカッションが増え始めていました。そんな背景もあり、いよいよ大規模にテレビ視聴ログデータを活用するためのソリューションを提供し始めたというのがこのタイミングです。
――テレビの結線率は30%を超えているということですが、この動きは近年顕著なのでしょうか?
テレビ視聴ログデータが取得可能なネット結線テレビの台数は増加が予想され、2020年には1,000万台を超える可能性があると言われています。弊社の調査でも37インチ以上の大型テレビを購入した人の50%以上がネット結線しているであろうという結果が出ています。
■「パネルデータ」と「ログデータ」の違い
――パネルデータ(調査データ)とログデータ(全数系データ)の違いや、それぞれの特徴について教えてください。
我々の開発チームとしては、ログデータだけで全てがわかると捉えていません。どちらの特徴も正しく把握して、ビジネスを作っていこうというスタンスです。パネルデータ=調査データとログデータ=全数系データの特徴は異なるものです。調査データは、いわゆる人口統計を含め計画的に集めて調べるデータ。Atmaのような全数系データはインターネットを使って機器から収集するデータです。規模の面でも、前者は数千・後者は数百万から数千万、範囲も前者はエリア限定・後者は全エリア、時間に関しても前者は毎分・後者は毎秒という違いがあります。
もう一つの特徴としては、パネルデータでは世帯・個人を調査していますが、(テレビ視聴)ログデータはあくまでテレビの台数が基準です。同じ世帯の中で複数のテレビがあるようなことももちろんありますし、いずれのデータの特徴も踏まえてビジネスを考えていくべきだと思っています。
この中で重要なのが、パネルデータは数自体が数千のため、(購入の動向など)効果を調べるには(絞り込まれるので)母数が足りないという点です。パネルデータは視聴の動向を大まかに把握できますが、そこから先、検索や購入などの動向を見る時に母数の数が少ないと言えます。逆にログデータでは母数が大きいので、より「最後のところ」がわかってくることが価値です。CMでの接触後のより詳細な成果分析がパネルデータでは難しかったという中で、ログデータで数百万大規模で分析することで可能になるのではないかという期待があり注目されています。ただ先ほどの話の通り、あくまで「テレビ一台」ずつのカウントなので、世帯の動向から「世の中がどうなっているんだろう」ということを捉えるのは難しいため、今までのパネルのデータを取って代わるのではなく、どちらも見ていくものとして考えています。
後編では、活用の事例と、データ活用の現状について話を伺っていく。