情報のデジタル化から生活のデジタル化へ~メディアイノベーションフォーラム2017(後編)
編集部
博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所が、11月9日に恵比寿ガーデンプレイスのザ・ガーデンホールにおいて「メディアイノベーションフォーラム2017」を開催。
前編では、メディアイノベーション調査や実態取材の結果を軸に“アシスタンスメディア”という言葉の提言について紹介したが、後編では新しい生活環境におけるメディアの役割やビジネスチャンスについてのパネルディスカッション「THINK NEXT ACTION~メディアは生活イノベーションにどう向き合っていくのか」のレポートをお届けする。
■パネルディスカッション・パネラー
ベンチャーキャピタル投資ならびにパートナー企業のビジネス開発を手がける。2013年10月より大企業とベンチャーをつなぐチェンジエージェントWorld Innovation Lab(WiL)へ。
2014年6月から朝日放送に出向し、CVC「ABCドリームベンチャーズ」の設立から投資、ベンチャーとの協業まで経験。2016年5月に新聞社に戻り、新規事業立ち上げの総合プロデュース室 価値創造チーム イノベーションユニット 兼 メディアラボへ。
2016年4月からWiLに出向し、パートナー企業とのジョイントベンチャー を立ち上げ。現在は博報堂DYメディアパートナーズ 投資戦略局 戦略企画グループ。
■情報のデジタル化から生活のデジタル化に向けて
パネルディスカッションは、モデレーターを務めたメディア環境研究所の主席研究員・加藤薫氏の「情報のデジタル化から生活のデジタル化に向けて、この変化をどう捉えていますか?」という質問からスタート。
朝日新聞社の梅田氏は、生活のデジタル化で生活者が便利になっていくと、メディアは細分化され、個別にカスタマイズされ提供されるのではないかという見方を提示。加えて、生活者がどんどん受動的になっていき、自分で物事が決められなくなるという危惧があることを説明した。
また一方で梅田氏は、メディアはそれぞれの出発以降これまで何も変わっていないとし、「メディアのビジネス業界はまだまだブルーオーシャンで、生活者のデジタル化はピンチと思われているが、まだまだチャンスがある」と語った。
WiLの難波氏はAIの音声デバイスを例に挙げ、「数年前にLINEはリスクを取って参入を決めた。参入しなかった人には怖い市場に見えるだろうが、参入している人には大きなビジネスチャンス」と、各社がチャンスとリスクをどう考え、どのようにしてうまく折り合いを付けていくかが大切だとした。
博報堂DYメディアパートナーズの田上氏は、フォーラム前編で行われたアシスタンスメディアの登場により、「メディアとサービスの垣根がなくなると実感した。顧客理解が進んでいくと、外部の広告が入る隙がなくなるのではないかという不安がある」と率直な感想を述べた。
■ABCドリームベンチャーズの取り組み
続いてパネルディスカッションのテーマ「THINK NEXT ACTION」に絡め、ABCドリームベンチャーズの取り組みを例に挙げて、梅田氏が携わったCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の紹介が行われた。
梅田氏がABCドリームベンチャーズの立ち上げに参加したのは2014年。当時はまだフジテレビのフジ・スタートアップ・ベンチャーズ、TBSのTBSイノベーション・パートナーズしかなかった頃で、放送局のCVCとしては同社が3社目だったという。
設立の背景は、メディア環境と生活環境が変化している時代に、「さまざまなベンチャーへの投資を通じて外部の血を入れ、メディアの将来を先回りして研究開発を行っていきたいという意向があった」と梅田氏は説明する。
ABCドリームベンチャーズは2015年に設立され、現在は10社に投資が行われていて、投資先の業界は幅広い。この点について梅田氏は、「まずメディア業界の先を行く北米の知見を追った形で放送領域に近いところから始めて、これから来ると見込まれるさまざまな生活・技術領域の、将来的にシナジーが期待される先に投資を行っている」と明かした。
一見放送とはかけ離れている業界への投資に関して、「参入するタイミング次第なので、実際に組んでみて勝てる可能性は大いにある」と難波氏。また田上氏は博報堂DYメディアパートナーズのアクションとして、大企業との新規事業開発に豊富な実績を有するWiLと連携し、メディアコンテンツ企業との事業共創を推進していく構想があることを説明。「リスク分散を図りながら一つの共同事業ができれば良いと考え、新しいチャレンジに踏み出すところ」と、ビジネスの枠組みを用意していることを明らかにした。
そのときモデレーターの加藤主席研究員が「スマートスピーカーもほとんど普及していない日本ではまだその覇権が決定していませんし、動けるチャンスはあると考えている」と発言。これを受けて難波氏は「ここにいる参加者のみなさんでスマートスピーカーを作ったら絶対に面白そうですよね」と、新しいビジネスへの期待の高さが示された。
■メディアコンテンツ産業にとって、チャンスはあるのか?
最後に「この生活環境のデジタル化が進む時代に、メディアコンテンツ産業にはチャンスがあるのか?」という質問がパネラーに投げ掛けられた。
難波氏は「僕らの業界では、リスクを取らないことがリスク。マーケットがまだ見えないから不安かもしれないですけど、正しく一歩を踏み出せば、チャンスは広がっています。チャレンジする人が増えて、世界で戦えるようになれば」と力強く回答。
また梅田氏は、日本のメディアはユーザーや読者に良いコンテンツを提供するために、時代の流れをしっかりと捉える力があるとしたうえで、「その感覚を持ち、外部の企業と組んでいくべきだと思う。未来の姿の仮説を持って、人とお金を投資していくことが重要」とした。
田上氏は「メディアや広告の環境が激変する中で、メディアコンテンツ企業のパートナーとして、これからはチャレンジしていかないといけない」と今後の事業展開を見据える。
このように、メディアの定義や産業構造が変わるという大きな変化の時代であっても、チャンスは存在している。「アクションを起こす時間はまだある。みなさまと一緒に次のアクションを起こし、一緒にチャンスにつなげていきたい」と加藤主席研究員がまとめ、パネルディスカッションは終了した。
メディアの定義が大きく変化する時代において、“アシスタンスメディア”という新しい概念が示され、ビジネスの枠組みについては領域を問わず共同する姿勢が重要だと考えされられたメディアイノベーションフォーラム2017。今後も、日本のメディア業界の新たな挑戦に注目が集まる。