JOCDNが見据えるCDN事業の現状と未来~インタビュー後編~
編集部
2016年12月、株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)と日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)は、国内向けに動画配信CDN(Content Delivery Network)サービスを提供する合弁会社、JOCDN株式会社(以下、JOCDN)を設立した。
前編(JOCDNが考える“放送局自らCDN事業を持つ”理由)では同社設立の経緯や目的についてレポートしたが、後編ではCDN事業の現状と未来の展望について担当者に話を聞いた。
■放送局が関わるCDNサービスが複数事業者による運営の問題を解決する
JOCDNは、IIJの大規模配信に関する高い技術力をベースに、高品質かつ安定した動画配信を実現するCDNサービスを提供することを目的として設立された。
では、「放送局が関わるCDNサービス」とはいったいどのようなものなのか。JOCDNの福田一則取締役に概要を伺った。
「CDNとは、実際には“ネットワーク”ではなく、多数の配信サーバをインターネット内に配置し、エンドユーザーに効率的にデータをお届けする技術です」(JOCDN福田一則 取締役)
インターネットは、様々な事業者が運営するネットワークの集合体として構成されている。
インターネットでのデータのやりとりは一般的には、サーバから複数のISP(Internet Service Provider:インターネット接続事業者)を介して、ユーザー・視聴者に届けられる。
「通信の中で経由するISP各社それぞれでネットワーク内のトラフィック状況が異なるので、場合によっては通信の遅延などが起こる場合もありますね」(福田氏)
再生するまでに時間がかかったり、再生していても途中で切れたりすることが動画配信の課題だった。それを解決するのがCDNの役割だ。
■長い実績と経験を活かしたサービスを提供するJOCDN
CDNは通信距離の短縮を図るために、ユーザー・視聴者になるべく近いネットワークにキャッシュサーバを設置して構成される。
「配信サーバからデータを一時保存するサーバを、できるだけクライアントに近い位置に置くことで、経由するネットワークの影響を極小化します。サーバからクライアントまでのネットワーク的な距離が近いので、再生ボタンを押したらすぐに動画が始まり、途切れることなく動画視聴が可能になるのです」(福田氏)
それでも、見逃し配信などのテレビ放送局によるコンテンツ配信では、通常の動画配信にはない視聴のピークが立つことがある。そんな時、サーバを急遽増やすのは難しいといえるだろう。どのように対処するのだろうか。
「そういった対処はCDN事業者の使命ですね。」(福田氏)
IIJはコンテンツ配信事業において、約20年の長い実績と経験があり、最新技術の知見についても国内随一だ。JOCDNはその財産を受け継いでスタートする。
JOCDNは国内最大級のIIJバックボーン内に、大規模CDN設備(東京・大阪)を設置。災害発生時等においても安定した映像配信の実現を目指している。
「今後も需要に合わせたシステム増強や機能強化を実施し、高品質で安定したコンテンツ配信を目指していきます」(福田氏)
■さまざまな課題を乗り越え、快適な動画視聴環境の実現へ
放送局の動画配信が注目されているが、課題はたくさん残っている。例えば、放送局にとってCDNのコストは大きな負担だ。
「JOCDNは、放送局が動画配信事業を安定的に成長させられるよう、長期的にリーズナブルな価格のCDNを提供していきたい」(JOCDN 上村明 取締役)
また、在京キー局は動画配信について既に何らかの行動を起こしているが、在阪、在名、地方局については、これから本格的に始めるという放送局も多いという。
「放送技術者にとって動画配信は未知の領域で、いざ始めようと思っても技術的なハードルは高い。そのような放送局様に対してはパートナー企業様の技術と弊社のサービスをワンパッケージでご提案させていただくなど、動画配信ビジネスを始められる際のお力添えができればと考えています」(上村氏)