JOCDNが考える“放送局自らCDN事業を持つ”理由~インタビュー前編~
編集部
2016年12月、株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)と日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)は、国内向けに動画配信CDN(Content Delivery Network)サービスを提供し、放送・配信システムの構築・運用に携わる合弁会社、JOCDN株式会社(以下、JOCDN)を設立した。
同社は2017年4月には民放15社およびIIJを引受先とする第三者割当増資を実施し、日本国内の民放各社にサービスを提供している。今回は、同社に設立の経緯やサービス内容について伺った。
■IIJが持つ高い技術力と民放の動画配信サービスの融合
IIJは国内最大級のバックボーンを運営するISP事業に加え、約20年前からコンテンツ配信においてもCDNの提供を中心とした最新技術の提供に取り組んできた。
一方、日本テレビは動画配信サービスHuluを運営しているが、急速に広がりつつある動画配信市場に対して強い関心を持っていた。
「これまでは視聴者にコンテンツを届けるCDNの機能については外部のCDN事業者を利用してきましたが、放送局自身も積極的に関与していこうというねらいがありました」(JOCDN 上村明 取締役)
■民放各局も参画することでスケールメリットが生まれる
2016年12月に設立されたJOCDNは、CDNサービスの提供を打ち出し、これに対し民放各局も出資参画していった。
「CDNは非常にスケールメリットが出る事業。民放各社が集まった方が長期的な経済的メリットがあります。集まれば集まるほど効果が高くなると考えました」(上村氏)
安定した利用者が増えることで、CDNはより高品質で安価なサービスを提供できるのだ。
その結果、2017年4月に実施した第三者割当増資により、下記の通り、筆頭のIIJに加えて、在京、在阪、在名の5系列、計15の放送局が株主となった。
JOCDNは2017年3月から本格的に事業を開始。まずは日本テレビ系の配信サービス(日テレTADA、日テレNEWS24)に採用され、TVerにも利用されている。
■放送局によるCDNサービス
放送局が、自ら番組を制作し、自ら電波で視聴者にコンテンツを届けるのが地上波テレビ放送の体制だ。つまり、放送局にとっては一気通貫で管理と運用を行っていることになる。放送局が自前で設備を用意し運用しているので、信頼性のコントロールも自らの手で行える。また、電波を利用するため、送信のコストは視聴率によらず一定だ。
一方、動画配信はテレビ放送とは形が異なる。テレビ局や映画会社などのコンテンツプロバイダが動画配信事業者にコンテンツを提供し、動画配信事業者は外部のCDN事業者に委託して、視聴者(テレビ、パソコン、タブレットやスマートフォン)に届けている。CDNの設備・運用については外部業者に委託しており、放送のように自ら信頼性をコントロールするといったことはできない。また、電波と異なり、コストは流量(視聴量)に比例して増減する。
「動画配信の比重が高まるにつれて、ここにも放送局が関わって、放送と同様にソフト・ハードの一体運営をしていかなくてはいけないという考えが強まりました」(上村氏)
放送局にとって、動画配信の重要な機能のCDNを外部に依存し続けるのはひとつのリスクである。高品質で安定的、かつリーズナブルな価格で利用するために、放送局が自らCDN事業を運営するという判断に辿り着いた。
■電波塔のようにコンテンツを届けたい――JOCDNの社名に込められた想い
JOCDNの会社名の「JO」は放送局のコールサインのうち、日本の放送局に共通する最初の2文字。この「JO」とサービス名称である「CDN」を組み合わせた。この名前には、「放送局の、放送局による、放送局のためのCDN会社を目指す」という意味合いが込められている。
また、会社のロゴマークにもこだわりが。「JO」と「CDN」で色分けをし、普通のフォントロゴによる「JOCD」に続いて「N」の先が細くなり、上に赤い丸がひとつ乗せられている。これは、電波塔をデザインしているとのことだ。
「我々はCDNサービスを提供する会社ですが、電波塔のようにみなさまにコンテンツを届ける役割として活躍したいという想いを込めました。赤い丸は電波塔の頂上にあるアンテナ。アンテナに相当するCDNの技術はIIJの知見を利用する、という意味でIIJのロゴにある赤い丸を持ってきました」(上村氏)
民放各社の出資を得たJOCDNが、今後本格的に日本の動画配信を支えるCDN事業者となり活躍できるかどうか、注目していきたいところだ。後編では、CDNサービスの詳細と、将来の展望についてレポートする。