新時代のメディア接触と変わりゆく「テレビ」の価値~民教協 東京大会レポート②~
編集部
前回に引き続き、9月9日にEXシアター六本木にて行われた民間放送教育協会の東京大会をレポート。今回は、第二部・パネルディスカッションの前編をお届けする。テーマは、「どうなる?ネット時代のマスメディア」で、各界著名人がパネラーとして参加。研究者の立場からは、上智大学教授でメディア論などを専門とする音好宏氏。コンテンツ制作者の代表として、放送作家の鈴木おさむ氏。プラットフォーマーとしては、第一部から引き続き株式会社サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏。広告代理店サイドからは、株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ統括責任者の奥律哉氏と、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所所長の吉川昌孝氏が参加した。
不確かと知りつつも、頼らざるを得ないネット
ネット時代と言われて久しい昨今。テレビから離れているという若年層は、実際にはどのように各メディアを認識して、接してしているのだろうか。
上智大学の音氏の分析によると、90年代以降の多チャンネル化、デジタル化、マルチメディア化によってオーディエンスは分散し、好きなもの・心地よいものに接するようになった。しかし、情報過多が進み、好きなものの分布が見えなくなってきているという。そんななか、情報のよりどころとして頼っているのがネットだ。もちろん、情報リテラシーが上がっているため、ネットには偽情報が多いことも若者は知っている。しかし、依存度が高まっているのが、現状といえる。
「Chain Viewing」と「Simul Viewing」
博報堂DYメディアパートナーズの吉川氏は、20代の若者がどのようにメディアに接しているのかを具体的に調査した結果を発表した。なかでも、特にメディアとの接触時間が長かった20代男女2人にフォーカス。1日のなかで、最もメディアと接触する就寝前の様子を定点カメラで録画し、その映像を見ながら自分が何をしていたのか振り返ってもらった。
女性はYoutubeで気になる動画を縦画面で見ながら、メイン動画の下に表示されるオススメ動画をスクロールし、次々と動画を視聴。さらにSNS、メールと、ありとあらゆるものにどんどん接していく様子が見て取れた。
また、男性は手元のスマホでTwitterを見ながら、タブレットとテレビでドラマを視聴。タブレットとテレビでは別々のドラマを見ていたが、両方ともストーリーの筋はわかるという。つまり、トリプルスクリーンでそれぞれ別のコンテンツを流していたのだ。どのスクリーンも眺めてはいるが、どれにも集中していない様子が見られた。
彼らの様子から、動画の視聴やSNSへの接触について、次から次へと移動する「Chain Viewing」という傾向と、すべて“従”で“主”がない「Simul Viewing」という傾向があると紹介した。
時間があってもテレビが選択されにくい時代に
電通総研の奥氏は、テレビの視聴実態に関する調査結果を紹介。内容は、空き時間が15分、30分、1時間あったとき、テレビを視聴するかどうかというもの。また、視聴する場合を「他の用事をしながら」「他の用事がない」の2種類に分けた。すると、時間があっても、用事がないときはテレビを視聴しない傾向が浮き彫りになった。
具体的に20代でみてみると、1時間の空き時間があったとき、男性は「他の用事をしながら」が48.9%だが、「他の用事がない」ときは39.2%に低下。女性でも、「他の用事をしながら」の60%が、「他の用事がない」と43.5%に落ち込む。これを受けて奥氏は「地上波は、背景映像には選ばれるが、じっくり見るときには選ばれない」と語る。では、テレビを視聴しない人は何を選んでいるかというと、録画動画や無料動画へ流出していることがデータで明らかになった。
その一方で、ネット結線し、テレビでネット動画を視聴している人も約10%いることを指摘。「今後、テレビのコンテンツをネットに置いていくという選択肢も必要では?」と示唆した。
「ながら視聴」は、テレビを見ていることになるのか?
それらの調査結果を受けて、サイバーエージェント藤田氏は、「視聴習慣を身に付けてもらう必要がある」と。AbemaTVは、スマホの視聴時間が短く、タブレット、PC、テレビと画面が大きくなるほど、視聴時間が延びる傾向にあるとのこと。テレビが現在、いわゆる「ながら視聴」になりがちなのは、スマホでTwitterやFacebookを手癖で開いてしまい、飽きたらテレビにいくという視聴習慣となっているからではないかと推測する。
ここで放送作家の鈴木氏が、「このような視聴実態で、テレビとの“接触”、つまり“テレビを見ている人”とは何か?」というテーマに切り込んだ。鈴木氏は、視聴率と、ネットでの盛り上がりとの間にギャップを感じているという。
若者の視聴率
続けて鈴木氏は、視聴率に対する現場での捉え方が少しずつ変わってきていることも指摘し、「若い人が見ているなら、世帯視聴率が多少低い数値でも評価したい現場もある」とのこと。
それに対し、奥氏は、「若い世代の視聴率は、今、非常に取りにくくなっている。マーケティングの観点からはコストが高くなる」と回答。博報堂DYメディアパートナーズの吉川氏も、企業側の立場から、「企業としては、若いうちからブランド体験をさせたい。だからマーケティングコストがかかっても有用と考えられている」と補足した。
テレビとネットの訴求力
鈴木氏は、ネットでの訴求力の数値化も、放送局や作り手は求めていると語った。これに対して、奥氏は、「ネットの訴求力に関しては、SNSなどの拡散状況を視覚化できるようになってきた。いずれは、テレビとネットをシングルソース化して見ていく時代になる」と説明した。吉川氏も、「企業も、率だけでなく、実数を求める傾向にある。視聴率とネットの実数を合わせ、ブランドがどれだけリフトしたのかがKPIになってきている」と語った。
視聴率の意味合いが変化?テレビビジネス変革のとき
音氏は、これまでのディスカッションを通じて、従来の視聴率に裏打ちされてきたテレビビジネスが見直すべき時期にきていることを示唆。視聴の仕方の変化から、さまざまな問題点が浮き彫りになったとした。
このほか、ウェブメディアの指標をどのようにするべきか、ウェブとテレビのコンテンツの差異とそれぞれに視聴者が求めるものなど、追求すべき問題が山積していると指摘する。また、そもそも今の課題がコンテンツなのか、プラットフォームなのか、という点も重要であると考えられる。特にVODプラットフォームは競争が激化し、この先数年で淘汰が予測されるともいう。
このような状況で、藤田氏は「テレビは、広告収入モデルだけでなく、トータルで収益を求める必要がある」と。今は、広告収入が厳しいなか、リターンを求めるためにリスクを抑えた番組をつくるケースが往々にあるように思える。それが原因でコンテンツの質にも影響が出る可能性があるのではないかと懸念しており、。「このままではジリ貧になる。一度、変革を起こさなくてはならない。これは、新聞社や出版社が通った道。その時期が、テレビにも来たのでは」と現状を分析した。
コンテンツの迫力を生むこと伝えること
その一方で藤田氏は、視聴率が作り手にとって重要な指標であることも言及。「無料視聴できるAbemaTVは、質の高いコンテンツがないと日々見てもらえない。だから、現場は一生懸命。その作り手の気概が視聴率につながるのを体感している。視聴率は、クオリティが高いものを見せようとするために優れた“共通指標”だと思う」と語った。
鈴木氏も、作り手や演者に迫力があるものが視聴率につながると感じており、。「AbemaTVの『亀田興毅に勝ったら1000万円』の迫力は、テレビの人間として悔しかった。勝ち残っていくためには、つくる上での迫力が年々必要になっていると思う」と述べた。
吉川氏は、「その迫力ある番組を、わかってもらう道筋をどうつけるかに腐心しなければならない」と。
また、奥氏は、テレビの視聴率が回復するという希望を持っている。注目したのは、生活者の在宅時間だ。専業主婦が多かった昔に比べて、現在は大幅に減少している。かつては在宅時間の4割を占めていたテレビの視聴時間が、近年のティーン層、F1層では2割まで低下しているというのだ。「家でテレビを見る機会が少なくなった人に対して、たとえば家の外やネットなど、接触の面積を広げると、ニーズが戻る可能性もある」と実感値を語った。
“ネット時代のテレビ”にまつわるさまざまな問題をあぶり出すディスカッション。次回は、後編をレポートする。話題は、マスメディアの責任とされてきた「ジャーナリズム」について。ネット上にはいつも虚偽の情報が飛び交っているのが現状で、それに心を動かされる人もいる時代だ。今後、テレビはどうあるべきで、果たすべき役割はあるのだろうか? 引き続き、意見を交わしていく。
[前編]AbemaTVが生き残るための「10年計画」~民教協 東京大会レポート①~