大切なのはアニメが生み出す“つながり”と“ライブ感”
編集部
地上波で唯一アニメ局を持ち、さまざまなヒット作を打ち出しているテレビ東京。前回に引き続き、アニメ局アニメ事業部 部長の廣部琢之氏に、その取り組みやアニメビジネスの展開について伺った。さらに、ヒット作『おそ松さん』が生まれた背景などを通じて、地上波放送がアニメを通じてできることにも迫る。
放送を始めたら、完結するまでやり切る

今年、テレビ東京のアニメ『ポケットモンスター』が放送20周年を迎えた。同局にはこのような息の長いアニメ作品が多い。それは、アニメ局に「やり始めたものは、とことんやっていこう」というポリシーがあるためだと廣部氏は言う。冒頭で述べた『ポケットモンスター』のほか、『遊☆戯☆王』シリーズなど今も続く作品があり、『NARUTO-ナルト-』は代替わりして『BORUTO-ボルト-』が放送されている。また、2期3期と続く深夜枠のアニメもある。たとえ初速が遅くても、クチコミで広がっていく作品も多いため、続けることに意味があるのだ。やっと話題になったときに放送が終わってしまうのは、大きなチャンスロス。「やり続けることが、一番の作品力になっている」と廣部氏は語る。
おもしろいものは、圧倒的なスピードで拡散する

特に近年、『けものフレンズ』『おそ松さん』などのミラクルヒットが生まれている背景には、SNSによるクチコミの影響が大きい。注目すべきは、そのスピード感だ。“おもしろいもの”の拡散の仕方は、想像を遥かに上回るという。「私たち的にはいい環境。よい作品を作り、地道に宣伝活動を続ければ、視聴者に届くと感じている」と廣部氏。
そのため、同局は作品の放送について、間口を広く構えている。アニメ局スタッフの数人でも「おもしろい」と感じ、熱意を持ってやりたい作品があれば、企画を進めているという。「アニメは、広く浅くの作品もあれば、ファン層は狭くても熱量がすごい作品もある。また、当初はコアなファン層でもライト層にどんどん広がって一般化することもある。ストライクゾーンは広く構えて、見逃し三振をしないように。そして、やるからには続けるようにしています」と廣部氏は語る。
ファンも企業も一体となる“祭り”を作る

またSNSは、視聴者同士のつながりやライブ感を生むことにも一役買っているという。特に深夜アニメでは、ファンも一人で視聴していることが多いが、SNSによってみんなとのつながりを感じ、盛り上がることができる。テレビ局側としては、視聴者にこのような体験ができる道筋を作ることも、ひとつのキーになると廣部氏は語る。
「盛り上がるための“山”の作り方はすごく意識しています。ファンは一緒に参加したい、楽しみたいと思っているので。放送だけでなく、一連の流れの中で、みんなでいかに楽しめるかを提案しています」とのこと。
たとえば『おそ松さん』最終回は、深夜時間帯にも関わらず3%という高い視聴率を叩き出した。これは、最終回に向けて関連するメディアやコラボ商品などのメーカーも巻き込み、ファンと一緒になって作品を盛り上げていった結果だ。ある意味“祭り”の状態を作ったことが功を奏した。ファンは、スポーツを観戦するときに似た一体感やライブ感を味わいたくて、テレビの前に座ったのである。リアルタイム視聴という、テレビの特性を生かしきった好例と言えるだろう。


アニメは、ひとつの手法として認知された
このような“祭り”に、さまざまな企業を巻き込みやすくなったことも、近年の傾向だという。これは、アニメが身近なコミュニケーションツールになったためと、廣部氏は分析する。
ひと昔前までアニメと言えば、子ども向け、ファミリー向けのものだった。しかし、最近人気になった作品は、大人も楽しめるようになっている。またその逆もしかりで、深夜枠のアニメでも話題になると、子どもにも人気が出てくるのだ。
「アニメはもはや特定のファンのものではなく、ひとつの幅の広いコミュニケーション手法のひとつとして認知されている。そういう意味ではドラマやバラエティ番組が話題になることと何ら変わらないんです」と廣部氏。だから、企業とのさまざまなコラボレーションが生まれやすくなった。企業担当者が子どものころから作品のファンだ、という場合には、かなりの熱量で提案されることも少なくないという。
「この作品が好きで、応援したい、仲間に加わりたいというオファーもいただくようになりました。アニメ好きがたくさんいるのを肌で感じます」と廣部氏。そのような意味でも、テレビ東京が息の長い作品を放送し続けている功績は大きく、今年5月の決算発表(2017年3月期<2016年度>通期)で前年度よりもさらにアニメ事業が好調だったことにも繋がるのかもしれない。

チャレンジする姿勢こそが、“祭り”の原動力
アニメ局のポリシーには、もうひとつ「チャレンジしていく」というものもある。たとえば、「ギャグ作品」はマネタイズが難しいと言われている。しかし、それを『銀魂』や『おそ松さん』で打破してきた。また、『しろくまカフェ』は、既にさまざまなキャラクターを介し、商品やサービスがあふれる「動物モノ」だったが、作品の反響は高く、リアル店舗としてオープンしたカフェが大盛況となった。


テレビアニメを基盤に映画化、実写化、舞台化、イベント展開などアニメ局はとことん関わり盛り上げていこうという姿勢だ。
「私たちが挑戦することで、ファンの方も楽しめる。アニメ業界の力にもなれる。私たちも一緒に“祭り”を盛り上げ、参加していくスタンスでいたいですね。AIやVRも身近に感じる課題で、4K放送も迫っています。そういう時代のアニメコンテンツやアニメビジネスとは何か、いろいろ挑戦していかなくてはならないですね」と廣部氏は語る。
テレビ離れの風潮はあるが、コンテンツ離れはしていないと語る廣部氏は、「今後も魅力的な作品を、つながりやライブ感を持って楽しめるようにしていきたい」と語る。現在は、この10月より第2期が始まる『おそ松さん』の“祭り”を準備中とのこと。民放公式テレビポータルサイト「TVer(ティーバー)」で、第1期の一挙無料配信を開始したのもその一環だという。
