地上波アニメを時差なく配信~グローバル化がもたらすもの
編集部
“クールジャパン”の呼び声も高い日本のアニメーション。メディアミックスのほか、子ども向けのおもちゃ、ゲームのみならず、ファッション、インテリアなど、幅広い商品展開が行われており、ビジネスとしても多様な展開を見せている。
今回は、そんな日本のアニメーションの現状とこれからを、前半・後半に分けてお届け。取材にご協力いただいたのは、テレビ東京 アニメ局アニメ事業部 部長 廣部琢之氏。『NARUTO-ナルト-』『ポケットモンスター』など、息の長い人気アニメコンテンツを持つ同局は、アニメ業界を一体どのように見ているのだろうか。
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ヒット作を生むのは地上波
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テレビ東京は、アニメ制作、事業、配信、海外展開などを集中して行うアニメ局があり、アニメに非常に力を入れている。放送枠は週30以上。これは、地上波の放送局としては異例の多さだ。しかも、他局が撤退していったゴールデンタイムのほか、深夜、平日18時台、土日午前中と、さまざまな放送枠を用意している。「テレビ東京なら、ニーズをとらえ幅広いターゲットのファンにリーチできる」とのことで、業界からの期待も高いと廣部氏は話す。
一方、この10年のうちにアニメの視聴環境は変化してきている。インターネット上での配信環境も整備され、地上波でアニメを放送する意味を問う声もあるのが現状だ。しかし、地上波のニーズはいまだに高いと廣部氏は感じているという。なぜなら、配信だけでヒットした作品というのは限られているためだ。アニメが生活者の身近な存在となるためには、やはり地上波に求められる役割は大きいと言える。
「アニメ局の人間としては、いろいろな視聴の仕方はあるものの、地上波でリラックスして見たいというニーズに応えたいですね」と廣部氏は語っている。
人気アニメを、いち早く楽しみたい海外ファン
また、グローバル化も、近年のアニメ業界の大きな変化のひとつだ。テレビ東京でもその動きは10~20年ほど前からあったという。
なかでも大きかったのが、2009年1月より、日本アニメを海外向けに配信するCrunchyroll(クランチロール)社とタッグを組んだこと。これにより、当時放映中だった『NARUTO-ナルト-』をはじめとした人気アニメの供給を開始した。以来、地上波の放送終了後1時間以内に、字幕をつけて多くの国や地域に配信している。Crunchyroll社の発表によると、有料会員数は急速に増え続けており、2014年末には50万人だったが、2016年末時点で100万人を突破したという。
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それまで、アニメコンテンツを海外で展開するにあたっては、放送枠の確保、吹替版制作、字幕制作に時間がかかってしまうだけでなく、そもそも日本で人気が出てから展開するなど、どうしても日本での放送と時差があった。そんななかでは、海外のファンは違法動画で満足せざるをえない状況だったという。しかしやはり、質の高い正規の放送を時差なく楽しみたいというファンが多かった。「それが同サービスの躍進につながった!」と廣部氏は見ている。
時差のない配信は、周辺ビジネスも加速させる
当初、英語字幕のみだったが、現在は言語も増え、展開が拡大。コンテンツに応じて、北米、中南米、中国、ヨーロッパと幅広く配信している。このグローバル感とスピード感で、関連商品のビジネスも大きく影響を受けている。
たとえば、『NARUTO-ナルト-』のゲームソフトを海外で展開するにあたり、以前は現地の放送でまだ登場しないキャラクターを削除するなど、作り直しが発生していたという。しかし、放送後すぐ配信することによって時間差の短縮に成功し、全世界同時発売で商品を展開できるようになった。
「世界中が、アニメのコンテンツや商品について同じタイミングで話し合えて、楽しめる環境が整備された。これは、ファンにとってもビジネスにとっても喜ばしいことです」と廣部氏は語る。
世界中にファンがいる。だから、日本のアニメは強い
日本のアニメの映像技術は、進化が目覚ましい。表現や演出の幅は格段に広がっており、同局の『スナックワールド』のように、毎週ゴールデンタイムの30分枠にてフルCGで制作、放送できるまでになっている。ハイクオリティの作品を提供する日本のアニメ制作会社は、海外からもオファーが寄せられているという。今後、海外からの需要は、ますます高まっていくだろう。
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しかし、海外展開にまったく課題がないわけではない。エリアによっては表現の規制が入る場合もあり、その際は配信用にカスタマイズする必要がある。商品展開でも調整が必要なこともあるという。さらに、これらの規制は恒久的なものではなく、その国や地域の事情によるので、常に流動的でもある。送り出す先の環境の変化に、不安がないとは言い切れないのだ。
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その一方で、廣部氏は明るい未来を見据えている。「キャンペーンなどで声優や制作陣とともに各地を回ると、熱烈に歓迎される。世界中のファンが日本のアニメを待っていると感じます。だから、私たちはこれからも良質なコンテンツを送り出すことが大切なんです。そして、応援してくれるファンをどんどん増やし、受け入れられる環境を整えていきます」と言葉に力を込めた。
テレビ東京は、どのようにして長年愛されるアニメや『おそ松さん』などのミラクルヒットを生んできたのか。次回は、その取り組みとこれからのテレビアニメ、ひいてはテレビ局に求められることについて、引き続き廣部氏にお話を伺う。