基調講演~リニア配信と放送~(後編)【Inter BEE 2024レポート】
株式会社IPG
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が主催するイベント「Inter BEE 2024」が、2024年11月13〜15日に開催。今年も、幕張メッセとオンラインのハイブリッド形式で行われた。本記事では、11月14日に開催された「INTER BEE FORUM 基調講演」の中の「IPTVforum規格:知っておきたい!放送を取り巻くCTVの最新技術動向」の模様を<前編・後編>にわけて紹介する。
講演では、IPTVフォーラム技術委員会で副主査を務める株式会社フジテレビジョンの伊藤正史氏の司会進行のもと、パネリストとして総務省 情報流通行政局 情報通信作品振興課 専門職の岩井義和氏、一般財団法人マルチメディア振興センター 調査研究部 研究主幹の飯塚留美氏、NHK放送技術研究所 ネットサービス基盤研究部 部長の松村欣司氏、株式会社IPG COOの木戸直喜氏が登壇。<後編>では「リニア配信と放送」という観点から、CTV(コネクテッドTV)の技術動向について議論された様子をレポート。
「リニア配信」とは、従来のテレビ放送のように、番組表に従ってリアルタイムで放送コンテンツをインターネットで配信すること。CTVが普及していく中、アメリカを中心に広告型の無料リニア配信サービスが急増しており、利用者も増えてきている。
CTVの中には、リニア配信サービスごとにアプリを立ち上げることなく、ホーム画面上でサービスが統合され、まるでテレビ放送のように配信コンテンツを見ることができるようになってきているものもある。
世界的にもリニア配信について検討が進んでいる状況であり、まずは松村氏が、海外で展開されている従来の「テレビ」の視聴スタイルを維持したリニア配信視聴環境について、技術面を含めたヨーロッパの事例を紹介した。
■ヨーロッパのリニア配信
リニア配信と従来の放送を一体化させたサービスにする仕組み作りが進められていることが紹介された。
ドイツで行われたサービスのパイロット実験でのテレビ画面の紹介では、リモコン操作で表示させるチャンネルリストに、配信チャンネルと放送チャンネルが混在した状態で表示されていた。視聴者がザッピングをしている間に、ネットと放送が気づかないうちに切り替わり、放送と配信が一体化したサービスとして提供されている様子が分かった。
このような検討が進む背景には、テレビのアンテナ接続をしていない人や、アンテナ接続をしていてもネット視聴が主流の世代が増加していることから、放送局が同時配信を行っても、そのアプリ自体に気づいてもらえないという課題感があることが述べられた。
こうした取り組みを踏まえ、今後は放送とネットの違いを意識させないサービスの提供が重要になると述べられた。また、同様の技術である「コンテンツ発見技術」 を研究開発していることも紹介された。
■リニア配信サービス「Freely」
続いて飯塚氏が、海外のリニア配信のサービスとして、イギリスのFreely(アプリ)を紹介した。
Freelyは、イギリスの公共サービス放送事業者が共同運営しているサービスであり、地上波のライブ放送の視聴環境をブロードバンド上で完全に再現する目的で立ち上げられたことなど、その開発背景についても語られた。
この開発により、これまで個別の既存配信アプリに遷移してコンテンツを視聴していた状態から、1つのプラットフォームに統合され、さらに包括的な電子番組表を置くことで、サービスを横断してシームレスにライブ配信中のコンテンツを見つけられるようになっているといった事例が紹介された。
対応デバイスの開発も進んでおり、共同運営する公共サービス放送事業者が、このアプリを搭載したCTVの消費者への周知活動に力を入れているとのこと。
■Gガイドで展開している事例紹介
Freelyのような放送コンテンツを推すような画面は日本で考えられているのか、IPGで展開するGガイドでの一例を木戸氏が紹介。
IPGが運営する電子番組表Gガイドでは、以前より放送局様と共に検討をすすめている構想があり、先行して今年の11月にWebブラウザ版Gガイドのホーム画面をリニューアルして、展開を進めている状況を紹介した。
「番組表.Gガイド」ホーム画面をリニューアル!見逃し配信・VOD情報も充実、新しいコンテンツとの出会いを提供
続いて、リニューアルをしたGガイドの画面構成について解説。
ユーザーの目線から見たときに、放送・配信関係なくミックスされたUIを実現していきたいとした上で、テレビ番組表として存在するサービスであるため、まずは放送コンテンツが上段にあり、今何が放送されていて、次にどんな放送があるのかといった情報が横並びになることで、ある種ザッピングに近い動きがなされ、ユーザーが直感的に番組を選択することを可能にしていると紹介した。
そして放送コンテンツの下には、見逃し配信コンテンツを表示しており、次回のテレビ放送周知に繋がる意図で配置しているといった、放送コンテンツを起点とした新たなカラム構成について解説をした。
今後はこれを段階的により改善することで、放送・配信関係なくコンテンツを起点としたパーソナライズ表示が実現できたり、サービスを横断した検索が可能になったり、視聴行動をより促進させることができるのではないかと提言した。
■グローバルIDの登録について
また、司会の伊藤氏から個別のユニークIDの管理はどのようなことをしているのかと質問が。
IPGでは、IPG独自の識別IDをコンテンツに付与して管理をしており、また一意性を担保できるグローバルIDのEIDRに登録し、世界的にも共通性や検索性が高いデータにしていると話をした。
視聴コンテンツ流通活性化のため、 グローバルID(EIDR)の登録運用を開始
国内では、まだグローバルIDの必要性は大きく問われていないが、いざ必要となった時に、国内のコンテンツが乗り遅れることがないように、IPGが準備できることを先手を打って行っている状況を紹介した。
また、現状はサービスごとにコンテンツIDが存在している状況であり、データの整備やデータの構造化など、コンテンツデータに関することで、各サービス事業者様が個別に対応する作業が少なくなるよう、今後も引き続きIPGがなにかできないかと模索・検討をしていきたいと締めくった。
■日本のリニア配信サービスと行政の向き合い方
そして岩井氏より、リニア配信サービスの状況について、行政はどのように向きあっているかといった話があった。
チューナーレス端末に向けて、放送事業者等が提供する動画配信サービスで、放送同時配信を行う検証環境を構築するといった内容について語られた。
今後チューナレステレビの普及により、テレビ受信機離れが進む見通しであることから、自分の好きなものを選んで見ることができるデバイスに対しても、その時々で見るべきコンテンツを届けることが求められているといった説明がなされ、そうしなければ、フィルターバブルなどの課題が大きくなる可能性があることを示唆した。
放送同時配信を国内で進めるにあたっては、民放キー局の全国ネット番組とローカル局の地域番組の総体が、放送が担ってきた多様な情報を届けることに繋がるため、それぞれの関係性を念頭に整理・検討を深めていかなければならないと、今後の課題についても語られた。
まとめ
講演を振り返り、ヨーロッパの社会実装へのスピードが速い点を感じた。飯塚氏からはその理由の一つとして、イギリスでは地上波デジタル放送が開始の時点で、公共放送と商業放送が協力をして、地上波の全国放送カバレッジを実現しようと取り組んだ経緯があり、インターネットでの地上波番組の配信においても、そのような協力体制が引き継がれているためといった話が語られた。
まさにヨーロッパでは放送と配信とを一体として捉え、互いに相乗効果を図る取り組みがなされている実態を知ることができた。
またスピード感を持って放送・配信を一体化させたサービスを提供していく中では、標準規格化をしなくても、大きなプラットフォーマーなどでは実装ができる現状もある。としたときに、標準化のあり方とはどうあるべきなのか、ビジネスの視点ではどのように考えているのかが問われた。
木戸氏は、オールジャパンの課題としてどういった要件でまとめると良いのかを検討し、その上で業界状況を知る者が公平な立ち位置で作るのが良いのではと述べた。
松村氏からは、これからの標準化で求められるものという観点で語られた。ヨーロッパの取り組み方から、CTVにおいての標準化では、今後の放送サービスでネットをどのような技術仕様の上で活用していくかという点がポイントとなると語られた。放送サービスの機能を個々の事業者で向上させていくのは難しく、放送業界全体で使える資産となる標準化の必要性が述べられた。
そして最後に、ネットを使って放送に似たサービスができる時代において、「放送のアイデンティティは何なのか」という疑問が生まれるといった指摘があり、行政では新しい時代の放送についてどのように考えているのか質問がされた。
岩井氏は、放送のアイデンティティとして、放送法に基づき適切な番組制作を行っていたり、娯楽や報道をバランスよく編成して届けることで「公衆を形成する社会基盤」としての役割があるとして、そうした放送の価値が電波だけでは届きにくくなってきている現状について述べた。
今後の放送制度についても、電波だけではなく、配信の世界でも同様の役割を果たすものが放送なのだといった考えになってくるのでは、と語った。
電波を使って情報を届けるルールとして放送法があるという関係性だったが、ネットの世界にはそのような規律はなく、その中でも進んで放送の役割を果たそうとしているサービスに関しては、プロミネンス制度(放送コンテンツの目立たせ方)などの後押しがあってもよいのではないかとして、今後も議論を深めていきたいといった話がされた。
締めくくりに、テレビデバイスが大きな転換を迎えている中で、放送の価値を見つめ直して、放送事業者やメーカーなど様々なステークホルダーを含めて、業界のあらゆる方々とともに、CTVというデバイスと向き合い、課題に対して全体で取り組むことが必要になってきていると話され、ディスカッションが終了した。
基調講演~CTV上での放送コンテンツの存在感とは~(前編)【Inter BEE 2024レポート】
<IPG 木戸氏コメント>
この度は「Inter BEE 2024」で基調講演を担当させていただけたことを、大変光栄に感じています。業界が過渡期にある中で、メタデータ整備の重要性を改めて実感しました。IPGでは、放送局様やOTT事業者様からお預かりしたデータを整備し、視聴者の変容や技術進化に柔軟に対応可能な基盤構築を進めています。これからも業界全体の発展に向け、持続可能なデータエコシステムの創造に微力ながら貢献できればと考えております。放送や配信に関するデータ課題については、ぜひご相談ください。
株式会社IPG
年間約4億以上の公式番組情報のメタデータ運用を行うデータベースカンパニー。テレビ、ラジオ、VODなどの視聴コンテンツのメタデータを収集し、整備・運用することで、電子番組表「Gガイド」の運営をはじめ、番組公式情報提供サービスやソリューションサービスなど各種事業を展開しています。
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