民放5局とTVerが取り組むセールス最前線 テレビカンファレンス2024レポート(中編)
編集部
2024年11月7日、東京国際フォーラムにて、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビの民放キー局5社による「テレビカンファレンス2024」が開催された。
今年で2回目となる同カンファレンスのテーマは「もっと伝えたい、テレビのこと~ビジネスを加速させるテレビマーケティング最前線~」。テレビCM、動画広告から、IP、イベント、テクノロジーなど、テレビ局が取り組む様々なソリューションが紹介された。
スペシャルステージ、サイドステージに分かれて行われたセッションのうち、本記事では前・中・後編にわたってサイドステージの模様をレポート(スペシャルステージのレポートも後日アップする)。中編にあたる今回は、在京民放キー局5局とTVerによるセールスの取り組みをまとめてお届けする。
■テレビ朝日:コンテンツ力を軸にした高付加価値の広告商品をPR
テレビ朝日は、番組連動型広告、特別広告枠、YouTube活用などの最新ソリューションを紹介。アナウンサーとして活躍し、現在はオンラインビジネス部でTVerセールスなどに従事する池谷麻依氏が進行を務め、第1ソリューション部の長見佳典氏、第2ソリューション部の坂本裕太氏、オンラインビジネス部の青山直史氏が登壇した。
長見氏は、テレビ朝日の番組連動型広告の事例として、漫画配信サービス「めちゃコミック」と土曜深夜ドラマ『青島くんはいじわる』のコラボを紹介。出演者が登場したコラボCM放送直後には「めちゃコミック」のサイト来訪者が大幅に増加したという。
「テレビCMが認知拡大だけでなく、コンバージョンを直接促す可能性を示した」と長見氏。「テレビの熱量とコンテンツ力を活かした企画が大きなインパクトを生む」とし、エンゲージメントや行動喚起の重要性を強調した。
坂本氏は、広告主や代理店のニーズに応えるプレミアム広告メニュー「ミライセールス」を紹介。その一環として、番組本編に隣接するCM枠「ポジションブレーク」を固定販売する施策を2024年8月に試験導入し、様々な反応の獲得と決定に至っているという。
「『ポジションブレーク』施策は広告主からも好評をいただいている」と坂本氏。大型イベント出稿とテレビ出稿を掛け合わせた広告効果検証パッケージなども発信した。
青山氏は、テレビ朝日の公式YouTubeチャンネル「動画、はじめてみました(通称『動はじ』)」を活用した広告展開を紹介。登録者数166万人以上(11/7時点)を誇る同チャンネルは、地上波で届きにくい若年層や特定ターゲット層へのリーチに効果的だという。
『愛車を探す』は30代〜40代男性をターゲットに車関連商品の広告に最適で、芸人2人がトークする『焚き火で語る』は、ゲストや商材に応じて幅広い層にアプローチ可能です。『やさぐれ酒場』では、広告主様の要望に応じてターゲット層を柔軟に調整できます」(青山氏)
今後の展開として「メタバースやゲーム空間など新たなデジタル領域への挑戦も視野に入れている」と青山氏。デジタルプラットフォームを活用した広告提案の可能性を強調した。
■TBSテレビ:番組収録を興行化 リアルイベントで熱量あるファンを創出
TBSテレビは、2024年5月に番組収録を有料の公開イベントとして実施した『最強スポーツ男子頂上決戦』の事例を紹介。同社コンテンツ制作局 バラエティ制作三部 プロデューサーの石原隆史氏と、スポンサーの本田技研工業株式会社 統合地域本部 日本統括部 商品ブランド部 宣伝・広報課 課長の宮島浩一氏が対談した。
石原氏いわく、従来の番組収録では「観客役」のエキストラを動員していたというが、「プロ野球や音楽ライブのように、本当にお金を払って観に来るファンは熱量が違う」と考え、番組収録を有料のファンイベントとして興行化。結果、7400人以上の観客が集まり、96%が女性ファン、70%が20代という新たな層を取り込むことに成功したという。
「ファンイベントを収録の中心に置き、収録はその補足に徹するという形式にしたことで、イベントの熱狂が新たな形の番組制作を後押しした」と石原氏。収録合間のセットチェンジもスリム化し、イベント展開としてファンを飽きさせない工夫を凝らすなど、観客目線の改善も行ったと語る。
「自社のスローガン『The Power of Dreams』に基づき、選手や視聴者が目指す夢や情熱を後押しできる場としてこの番組を選んだ」という宮島氏は、今回のイベントを振り返り、「若い女性ファンが多く集まり、ホンダがこれまで苦手としていた層へのリーチに成功した」と高く評価。
「自動車のようなリアルな接触機会が求められる製品において、リアルイベントが持つ体験の価値は増している」とし、「質の高い情報や信頼が、若い世代へのファン作りにおいてカギとなっている」と、その効果を語った。
■日テレ:デジタル基準の広告取引をテレビCMに導入する新システム「スグリー」
日本テレビは、営業局営業戦略センター アドリーチマックス部の柳田貴裕氏が登壇し、12月にリリースされる広告取引プラットフォーム「スグリー」を紹介。テレビ広告の新たな運用手法を提案した。
「テレビ広告は依然として圧倒的なリーチ力を誇っているものの、広告主様のニーズがデジタル広告に向かう現状に対して課題を認識している」と柳田氏。今回の「スグリー」には、現在のテレビ広告が抱える運用性の低さや効果測定の難しさを解消し、テレビ広告の利便性と柔軟性を飛躍的に向上させる狙いがあるという。
「スグリー」では、発注から放送まで、テレビCM出稿における全ての工程をWEB上で完結。14の属性によるターゲット指定、放送20分前までのクリエイティブ変更に対応するほか、視聴率データをもとに、インプレッション単位での課金を実現しているという。
将来的にはTVerとの在庫統合により、テレビCMとオンライン広告を一括管理できる仕組みを提供予定であると柳田氏。「地上波テレビ広告をデジタル水準にアップデートすることで、これまで以上に柔軟で効果的な広告運用を実現したい」と展望を述べた。
■テレ東:グループ内シナジーをフル活用した多方面のコンテンツ展開
テレビ東京は、営業局 営業部の冨岡洋介氏と、グループ企業・テレビ東京コミュニケーションズの井上陽介氏が登壇。テレ東グループ内のシナジーをフル活用した、多方面のコンテンツ戦略について紹介した。
まず冨岡氏が、幼児向け番組『シナぷしゅ』について紹介。日本初となる0〜2歳ターゲットの民放番組である本番組は、YouTube上でも「シナぷしゅチャンネル」を展開し、63万人を超える登録者数を記録。番組の映画化や「ぷしゅソングフェス」などのイベント展開、企業とのコラボによる商品開発にも取り組んでいる。
冨岡氏はもう一つの分野として、『サ道』『孤独のグルメ』など、特定のテーマに焦点を当てた「ライフスタイル系ドラマ」についても紹介。「視聴者の共感を得やすく、サウナブームや一人飯といった社会的現象の一翼を担った」とし、ドラマを通じてブランドや商品価値を社会に浸透させる試みを強調した。
一方、井上氏は経済動画サービス「テレ東Biz」を紹介。同サービスでは『WBS』『カンブリア宮殿』など人気番組の見逃し配信を中心に6万本以上のコンテンツを提供。YouTubeチャンネル登録者数も200万人を突破しているという。
「『テレ東Biz』は高所得層や決裁権を持つビジネス層へのリーチが可能で、BtoB商材のプロモーションにも対応できる」と井上氏。機械加工の専門商社・ミスミとのタイアップによる3D CAD(製図システム)普及を目指した番組制作などの事例を紹介した。
「テレビ東京の番組視聴者は能動的に行動する人が多い」と富岡氏。CM後の検索数が他局と比べて大きく伸びているとするデータを引用しながら、「個々人の生活に密着した多様なコンテンツを提供し続けることで、次の時代に向けた成長を目指していきたい」と語った。
■フジテレビ:ドラマ×ブランドの「共創型コミュニケーション」で視聴者の心を動かす
フジテレビは、月9ドラマ『海のはじまり』とサントリー「金麦」のコラボレーションによる、「共創型コミュニケーション」の番組連動CMについて紹介。フジテレビ 営業局 スポット営業部 主任の鈴木太介氏(施策実施時はネット営業部所属)、サントリー 宣伝部 課長の中村勇介氏が登壇し、その成果と背景について語った。
「タイムCMは、単なるリーチ効率を超えて、視聴者の興味・関心を深める力を持っている」と鈴木氏。「共創」のアプローチを取り入れることで、ドラマの世界観を尊重しながら「金麦」ブランドの価値とシームレスに結びつけ、視聴者に響く広告を目指したと語る。
「単に広告枠を提供するだけでなく、スポンサー様とともに番組を盛り上げ、視聴者に愛されるコンテンツを届けるという視点が重要。今回は作品の世界観や登場人物の心情に深いこだわりを持つ『海のはじまり』制作チームとともに、ドラマと『金麦』を融合させるアイデアを共に探り、視聴者の皆様に新しい価値をお届けすることができた」(鈴木氏)
一方、中村氏は、「メディア接触環境や価値観が多様化する中、従来型の広告だけではブランドメッセージが届きにくい生活者が出てきていると感じていた」と、課題感を語る。
これを踏まえ、「ドラマの世界観を活かしつつ『金麦』の価値を伝える方法」として、ドラマのキャラクターやストーリーと、「金麦」のブランドコンセプトである「家時間」をリンクさせたCMが企画された。
連動CMは、ドラマ本編で脚本を務める生方美久氏、プロデューサーの村瀬 健氏が手掛け、池松壮亮演じる登場人物・津野の何気ない日常の一コマを「過去」と「現在」の2パターンに分けて描く内容。ドラマの世界観に則りつつ、本編では描かれない視点でのストーリーが共感を呼び、視聴者からは「金麦のCMで泣いた」という声が寄せられたという。
「『金麦のCMで泣いた』という感想が寄せられたのは、ブランドが視聴者の感情に届いた証。テレビCMとは異なる、本企画ならではの深い共感を生み出すことができた」と中村氏。テレビCMに加えてSNSやTVerなどのデジタル媒体も活用し、立体的な広告展開を実施した。
「ドラマのファンの方々に喜んでいただき、自然に『金麦』ブランドへ興味を持っていただく流れを重視した」と中村氏。ドラマ制作チームとの対談コンテンツなど、世界観を尊重し合いながら作品とブランドを両方楽しめる仕掛けを取り入れることで、双方納得のいく結果を生むことができた」と語った。
「スポンサー様と番組が一体となって『共創』することで、広告の新たな価値を引き出せると確信した」と鈴木氏。「ブランドメッセージが視聴者に自然と届き、心に残る形にするには『共感』を重視した広告が鍵」と振り返った。
■TVer:ジャンル拡大とCTVへの普及に注力 「利用無料」の認知にも取り組む
TVerからは、取締役 サービス事業本部長の薄井大郎氏が登壇。サービスの現状と未来への展望について語った。
TVerは今年8月の時点で月間ユーザー数4100万人、月間再生数4.9億回、11月にはアプリ累計ダウンロード数8000万を突破。スマートフォン、タブレットに加え、コネクテッドTV(CTV)での視聴も全体35%を占めるなど増加傾向にある。
「全系列局の見逃し配信を提供していることは他サービスにない大きな強み」と薄井氏。「CTV環境では1台あたり平均1.7人が視聴するなど、広告価値の向上にもつながっている」と強調する。
現在TVerでは、ジャンルの拡大とCTV視聴の普及に注力している。
ジャンル拡大の取り組みでは、ドラマやバラエティに加え、スポーツ、ニュース、アニメを強化。今年夏に実施したパリ五輪の競技配信は総再生数が1.1億回を超え、視聴者のニーズに応じたライブ配信とハイライト配信が成功を収めた。
さらに野球の「日本シリーズ」でも全試合を配信し、約200万UBで再生されるなど、スポーツコンテンツが人気。さらに「ニュースタブ」の新設により、24時間ニュースの配信や選挙特番、解説コンテンツを提供し、視聴者が手軽に時事情報にアクセスできる環境を整えた。
CTVの普及について薄井氏は、テレビ画面での視聴率が右肩上がりに増加している状況を報告。「TVer専用ボタン」をリモコンに搭載したデバイスの導入を進め、視聴環境の利便性向上を図っているとした。
「TVerがこれから目指す方向性は、『習慣的利用の促進』『サービス理解の向上』『テレビ由来の信頼性を基盤とした成長』の3点。「現在、TVerは特定の番組を目的に利用されるケースが多いが、今後、24時間のライブ配信や短尺動画などの提供を検討し、日常的に利用されるサービスへ進化させることを目指す」(薄井氏)
その一方で薄井氏は、「利用者の中には、TVerを有料サービスと誤解している方も多い」とコメント。「TVerを知っている人は7割を超えるが、無料視聴できることを理解している人はその半数程度にとどまっている」とし、「この認識のギャップを埋め、サービスの強みをより多くの人に伝える必要があると述べた。
「『テレビ放送の信頼性』を最大の武器に『TVerは信頼できる情報源である』と感じていただき、利用頻度の向上と定着を図っていきたい」と薄井氏。「なくてはならない存在となるため、コンテンツの多様性や利便性をさらに進化させていく」と意気込んだ。