ブランデッドエンターテイメント、今なぜ再注目?~タイアップ番組の海外最新事情~MIPTVカンヌ2024【トピックス③】
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
ブランデッドエンターテイメントがMIPTVカンヌで再び注目された。制作費が減少傾向にあるテレビ局の状況と、視聴者とのエンゲージメントを新たな手法で高めたい広告主が増えていることが背景にある。YouTubeからテレビまでフル活用しながら、ハイエンドなタイアップ番組を追求した成功例はどのように生まれているのか。今年4月に開催されたフランスのTVコンテンツ国際マーケット「MIPTVカンヌ2024」レポート/トピックス③は「ブランデッドエンターテイメント」について報告する。
■若年層から支持を得た仏ポーカーブランド番組
世界のテレビ市場トレンドが発信されるフランス・カンヌのMIPマーケットでブランデッドエンターテイメントがセッションテーマに取り上げられることはこれまでもあった。今回、再注目されたのはグローバルマーケットの潮目が変わりつつあるからだろう。アップデートしたタイアップ番組トレンドを求める声が高まっていた。
ブランデッドエンターテイメントをキーワードにしたセッションは「MIPTVカンヌ2024」(2024年4月8日~10日)およびプレイベントの「MIPFORMATS」(4月6日~7日)の開催期間中、数回にわたって企画された。
そのなかで関心を集めたのがフランス発YouTube番組「Poker Society」の成功事例だった。ポーカーゲームの訴求を目的にエンターテイメント性とトレンドを兼ね備えた番組スタイルによって、既存のポーカーゲームファンだけでなく、若年層を取り込むことに成功したという。パリに本社を置くフランスのオンラインポーカーゲーム運営会社Winamaxの提供により、フランスの制作会社Dreamspark社が制作した。
登壇したDreamspark社CEOのMoe Bennani 氏は「リスクを冒してでも、オリジナルからヒット番組を生み出したく、『Poker Society』を作った。ポーカーブランドのための番組になるが、提供社のWinamax社とはどうしたらより多くに人に番組を見てもらえるのか、そんな話し合いから始め、開発に3か月を要した。また信頼を得て、クリエイティブ面を任せてもらいながら進めることができた」と語る。
なかでも出演者の条件に拘り、ポーカー経験よりもフォロワー数の多さを重視した。「インスタグラムやTikTokで数百万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーが出演することがブランドを知ってもらうための最短の方法」と考えた。
結果、反響を得る。動画1本あたりの平均視聴時間は20分と長く、フランス国内ではYouTubeからテレビメディアへと展開も広がった。さらに、フランス以外の国に番組フォーマットをセールスする計画を進めている。番組IPを共同で所有するビジネススキームを作り、海外セールスが成立すれば、提供社のWinamaxと制作会社のDreamsparkとで利益が分配される。
「ブランデッドエンターテイメントをマインドセットし、クリエイティビティを高め、新たな資金源を手に入れたまでだ。制作プロデューサーも広告主も地上波メディアも、市場をポジティブに見て欲しい。危機的状況でもチャンスに変えることはいくらでもできる」とBennani氏は力強く語った。
■マーケティング手法の1つにあるブランデッドコンテンツ
ブランデッドエンターテイメントの可能性を追求する議論は、エミー賞にノミネート実績があるスペインのプロダクションYou First OriginalsのマネージングディレクターJavier Martinez氏らが登壇したトークセッション「FINANCE LAB: BRANDED ENTERTAINMENT - HOW BRANDS ARE BECOMING PART OF THE FUNDING STORY?」でも盛り上がりをみせた。
Martinez氏はスペイン女子サッカーを扱ったスポーツドキュメンタリー「Alexia: Labor Omnia Vincit」(Amazonプライムビデオ)を例に語った。「ブランド(広告主)は以前、コンテンツを作ることだけを考えていたが、今はコミュニティやメディアを構築し、ブランドファンを醸成している。だから、ドキュメンタリー『Alexia』でも取って付けたようにブランドを追加するのではなく、ストーリーコンテンツの中にブランドを入れたことが上手くいった」と説明した。
ブランデッドエンターテイメントを組織化するフランスの最大手配給・制作会社のBanijay開発ヘッドのCarlotta Rossi Spencer氏もこれに同意し、「ブランデッドコンテンツはマーケティング手法の1つとして作ることが大事。つまり、広告主との会話の中でブランド戦略の中心部分を落とし込んでいくことがコンテンツを作る我々にとって最善のシナリオになる。言うなれば、コンテンツの中にブランドがあるとは感じさせないハイエンドなコンテンツ。短期のモバイル広告キャンペーンよりもはるかに長い期間にわたって、ブランドのメッセージを伝えることを心掛けている」と述べた。
また商品PRとブランデッドコンテンツの違いをイギリスの広告会社House of Oddities のチーフクリエイティブオフィサーDarren Smith氏が端的に伝えていた。「たとえば、バーバリーは1100万人のフォロワーに向けて、『今週末は10%オフになる』とポストすれば、1年分のコレクションを売ることができる。しかも、そのPRコストはほぼゼロ。つまり、ブランデッドコンテンツはスカーフや車、香水を売る方法を探すものではない。一般的な広告コンテンツは限られているということも忘れてはいけない」。
これを受けて、BanijayのSpencer氏が「ブランデッドコンテンツは1年以上のスパンで費用対効果があることをブランドに納得してもらうことが大事」と補足した。
ブランデッドコンテンツのニーズの広がりは、やはりコンテンツ制作者にとって新たな収益源を広げるチャンスでもある。Martinez氏は「広告付きの動画配信プラットフォームは増えつつあり、ブランデッドコンテンツから収益を得ようと考えるプラットフォームもある。この2、3年の間に組織が強化されていくのではないか。今は変化の時にあるが、いずれプラットフォームもブランドの資金調達を第一に考えるようになると思う」とまとめた。
ここにきてYouTubeやTikTokのコンテンツバリューが同列に語られるようになり、FASTに象徴される広告モデルのストリーミングサービスが台頭し始めてもいる。また動画配信サービスの成長鈍化が取りざたされ、既存テレビ局の制作費減少傾向は多くの国で続く。良くも悪くもこうした状況によって好機も生み出される。その1つが進化したブランデッドエンターテイメントというわけだ。今回のMIPTVカンヌの会場で語られたような成功事例が着々と作られている。
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