「安全運転寿命は10年伸ばせる」東北大学加齢医学研究所・川島隆太教授が特別講演 仙台放送が提供する「運転技能向上トレーニングBTOC」の開発秘話を語る
編集部
左から)女優・玉田志織さん、東北大学・川島隆太教授、仙台放送・太田茂氏
株式会社仙台放送(以下「仙台放送」)が5月29日、東京ビッグサイトで行われた「運輸安全・物流DX EXPO 2024」の会場にて、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授による特別講演「運転技能は脳のトレーニングで向上する」を開催した。会場には仙台放送が東北大学加齢医学研究所と共同開発した運転技能向上トレーニング・アプリ「BTOC(ビートック)」が無料で体験できるブースも設置された。
「BTOC」は、「Brain Trainer On Cloud」の略で、女優の玉田志織さんがレギュラー出演する仙台放送の番組『川島隆太教授のテレビいきいき脳体操』(制作:仙台放送)の内容を元に、「交通事故ゼロ社会の実現」を目指して開発された新ソリューション。AI(人工知能)搭載の1回1分の脳のトレーニングで運転技能の維持・向上を図ることができる。
編集部では、川島教授や「BTOC」事業を担当する株式会社仙台放送 ニュービジネス事業部 部長の太田 茂氏、「BTOC」のCMに出演する玉田さんにインタビュー取材を行った。
■安全運転寿命は10年は伸ばせる
川島教授は、仙台放送と「BTOC」が生まれた背景を「もともと我々は脳トレを作っていたんですけど、その中で高齢ドライバーの安全運転寿命を伸ばすアプリを作ろうという話になったんです」と振り返り、テレビ局とタッグを組んだ意図についても「いずれは家庭用のテレビで行えるアプリにしたかったから」とその理由を明かす。
川島教授は「高齢者にとってはゲームソフトを使ったり、スマホタブレットを使ったりする操作は難しいんです。だったらお茶の間に座って、テレビを見ながらテレビのリモコンで、トレーニングができる環境を準備すれば、誰もが気軽にトレーニングを行える社会を作ることができるのではないかと。仙台放送さんならテレビ的で、アトラクティブなものをうまく作ってくれるんじゃないかなと」とその狙いも説明する。
リリース後は手応えを感じることも多かったといい、川島教授は「損害保険会社や運送会社などが取り入れてくれたんですけど、結果からいうと、使ってくれたところの反響はすごくよかったです。実際に損害保険会社では事故率が下がるというデータが出てきたり、運送会社でも交通事故が『今年度ゼロになった』というところが出てきて、その噂がじわじわっと広がって、導入を増やせる流れになってきているのかなと思います」と話す。
さらに川島教授は、「僕らは宮城県で暮らしているんですが、中心部以外は車がないと生活できない環境になっている。そこで、何歳になったら高齢者から免許を取り上げようとかいう話はやはり暴論だと思うんです」と持論を述べる。「社会全体から見ると、『高齢者が交通事故を起こしたらどうするんだ』という話になると思うんですけど、結局、様々な原因を調べていくと、ほとんどの事故の原因は脳の問題であることがわかったんです。アクセルとブレーキの踏み間違いは全体の20%もなくて、それ以外は判断と認知の問題。そこを僕らの脳トレが広がって、使えるようになっていければ、安全運転寿命を10年は伸ばせると思っています。皆さんが免許を返納するのを10年伸ばせる安全な社会を作れるという自信が僕にはあります」と今後の展望に熱を込める。
川島教授は、「『BTOC』をもっと社会に広めていかないといけないと思っています。これから5年、10年、これが有効であるということをみなさんにわかっていただいて、広く皆さんに使っていただける環境を作っていきたいと願っています」と「BTOC」の普及のために今後も積極的に活動を行なっていくと話す。
この日行われた特別講演でも、実際にグラフなどで数値を示しながら、高齢者の事故の原因や、解決法などを来場者にわかりやすく訴えかけていた。
■高まる「BTOC」の評価 東日本だけでなく、西日本にも導入が進む
川島教授の特別講演の後、第二部として、太田氏と玉田さん、仙台放送のアナウンサーの飯田菜奈さんが登壇し、「BTOC」の社会実装の事例や、今後の展開などについてのトークショーが行われた。
スクリーンには、スマートフォンで1回1分の脳トレーニングをするだけで安全運転能力を高めることができる「BTOC」の紹介VTRなどが流れ、太田氏は、「大手のタクシー会社はもちろん、地方の金融機関、物流関連の企業、引越関連の企業、飲料輸送系の企業など、幅広い分野で『BTOC』の導入が始まっています。最近は『2024年問題』を抱えるバス業界からのお問合せも増えています」と「BTOC」の導入事例や反響などを紹介した。
またBTOCが、シルバー人材センターなどの公的機関や、日本赤十字社の血液輸送部門などでも導入が始まっていることに触れ、「私たちが想像していたより幅広い業種で活用が進んでいます」と説明。大手企業の地方の支店から活用が始まり、手応えを感じて全国規模で導入が広がった例もあるといい、現在「BTOC」が過去のバージョンも含め、全国で約230万人の利用者がいることも強調した。
トークショーに登壇した玉田さんも手応えを感じたといい、「今回参加させていただいて『BTOC』がどんどん広まっているのを感じられて嬉しかったです」と笑顔で発言。「私自身がBTOCの素晴らしさをもっともっと伝えていきたいなと思いました。『BTOC』がどんな業種の方に使ってもらえているのか、どんな効果があるのか、もっと多くの人に知ってもらえたら嬉しいです」と話していた。
■『事故ゼロ』の実現のため、業界の枠を超えた環境づくりへ
太田氏はイベント後、昨年に引き続き2度目の出展となった「運輸安全・物流DX EXPO 2024」について、「物流業界の2024年問題が注目されている時期でもあり、安全運転対策、業務効率向上に資するBTOCについて、関心の高い業界、法人様との出会いが数多くありました。またBTOCの共同開発者である東北大学の川島隆太教授の特別講演には約120人にご参加いただき、盛況のうちに終えることが出来ました。BTOCが脳科学の研究成果から生まれたエビデンスのあるトレーニングであることが、多くのご参加者に伝わったのでは、と思います」と感想を述べる。
「BTOC」についても「これまでの安全運転対策は、ドライブレコーダーなどを活用した管理者による見守りや、定期的な安全講習などが中心でした。それに対して、BTOCは一人ひとりの脳活動に合わせて、直接働きかけていく点にこそ新規性があり、関心を寄せていただけるポイントなのでは、と考えています」と評価理由を分析する。
導入企業はすでに50社を超えたとも述べ、今後、あいおいニッセイ同和損保と日本生命が、「BTOC」の普及に向けて共同で展開することも強調。「社会全体で『事故ゼロ』を実現するために、業界の枠を超えて社会実装できる環境へと近づいたように感じております」と手応えを口にしていた。
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