“未来”と“過去”の両方にニーズ、番組データをリッチ化する意義 〜IPG「Gガイド運用連絡会議」レポート(後編)
編集部
松本氏、長井氏
全国の放送局から寄せられた番組情報(SI:Service Information)や配信情報を始めとする、エンターテイメントに関わるコンテンツのデータを集約し、電子番組表サービス「Gガイド」の運用や各種事業を展開している株式会社IPG。1999年の設立以来、視聴環境やニーズの多様化にあわせてサービスの拡充を続けており、番組情報を軸に出演者情報、番組広報情報、VOD・映画情報などの付加価値データを紐付け、各種サービスに提供するプラットフォーマーとして大きな役割を果たしている。本記事では、同社が年に2回、Gガイドを始めとした各種サービスの運用状況を全国の放送局に向けて報告する「Gガイド運用連絡会議」を前・後編にわたってレポート。
後編となる今回はIPG周辺のメタデータ整備・活用の取り組みとして、一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB )、Google による講演の模様とIPG社によるデータ運用報告とともに、会議の振り返りとして株式会社IPG広報担当者へのインタビューをお送りする。
■「共通メタデータ」で番組検索のリッチ化を模索するA-PABの取り組み
放送サービス高度化推進協会は、放送事業者、受信機メーカーなど282社から成る社団法人。2021年度より「次世代スマートテレビ検討分科会」を立ち上げ、2022年度には「次世代スマートテレビ検討会」、2023年度は「コネクテッドTV検討部会」として、放送と通信にまたがった視聴連携に関する放送運用規程の改定や共通メタデータの検討を実施している。
2023年2月に「共通メタデータコンセプト」と題した技術ドキュメントを作成。配信サービスごとにアプリが異なり、個別の対応が求められる現状への解決策として提示した。
ここでいう「共通メタデータ」とは、放送事業者、番組提供者からのメタデータと受信機へ入力されるメタデータとの中間に位置するもの。共通メタデータが存在すれば、サービスごとの違いを意識することなく目当てのタイトルへたどり着けると講演の中では語られていた。
タイトルや出演者、放送日時に加えた新たな検索軸を設けることで、思いもよらぬコンテンツと出会う機会を提供できる。主題歌からコンテンツを探したり、ドラマの『名ゼリフ』からコンテンツを見つけたりと、さまざまなニーズを考えてよりよいメタデータの構造を検討しているという。
実現に向けての課題として、テレビ受信機での安全性や知財権など、仕組みを維持していく体制づくりが必要だという。IPGの協力を得つつ、実証実験等から得られる知見なども踏まえ、放送コンテンツの“再価値化”に取り組んでいく。
■検索結果から番組情報・見逃し配信へ誘導、 IPGのデータを活用するGoogleの取り組み
Googleの講演では、GoogleがIPGのメタデータを活用して展開するテレビ番組に関する検索の機能について紹介した。日本のユーザーは、世界的に見てもテレビ番組の検索が多く、 特に出演者に関する検索、番組放映後のタイミングでの検索数が多いと講演の中では語られていた。
GoogleではIPGより提供を受ける番組情報に関するデータを活用し、番組名での検索時、この先約1週間分の放映予定情報を検索結果に表示する機能を提供。さらに過去1週間の番組情報をもとに当該番組のTVer等の見逃し配信リンク表示にも対応している。関連機能では、 出演者名で検索時、1週間先までの出演番組情報を表示している。
今後の課題として、コンテンツを一意に識別する全世界統一IDへの対応を掲げていた。国際的に流通するコンテンツでは付与されているのが一般的だが、日本のコンテンツには付与されていないケースが多く、テレビ局をはじめとする国内のコンテンツ事業者にとっては喫緊の課題だという。リメイク含め、過去複数回ドラマ化された作品などの場合、統一IDが付与されていないと、「タイトルは同じだが、出演者や内容が異なるシリーズ」を判別することが難しい。
今後海外へのコンテンツ輸出が想定されるいま、テレビ局の番組情報データは、多くのグローバルプラットフォームが求めており、 全世界統一ID取得の普及に向け、テレビ局やコンテンツ事業者と協調していきたいと述べた。
■異なるフォーマットの番組データ群を統一ルールで紐づけ。人物軸での柔軟な検索に対応
IPG社によるデータ運用報告では、同社が展開する3種類のデータに関する概要説明、ならびに放送局向けに提供する「番組コンテンツ登録システム」の機能紹介が行われた。
同社では、番組情報データをシリーズ、シーズン、エピソードの3種類に分類。放送局や視聴方法によってフォーマットが異なる番組情報をコンテンツごとに統一のIDで紐づけて運用することにより、検索精度の向上やGoogleの検索結果への番組情報表示、各種配信サービスへの遷移を促すOTTリンクの実現などの機能を実現している。
このうち出演人物データの運用については、番組情報から関連する人物を抽出し、番組情報にIPG社が保有する「人物マスターデータ」を紐付け。これにより、出演者名で番組を検索するユーザーに対して、放送局や視聴形態の制限なく番組情報を提供することが可能となっている。さらに2023年からは、出演者と非出演者の切り分け運用を実施。より柔軟な形で番組への導線を設ける取り組みが行われている。
■見逃し配信を見越した「放送後の番組情報修正」にも対応予定
またIPG社では、放送局サイドで番組情報に独自の広報データを付与できる「SIリッチコンテンツ登録システム」を無償提供している。同システムでは番組情報のテキストデータに加え、シーンカットや広報動画、関連サイトなどの追加登録が可能となっており、登録されたデータは番組ロゴや代表カット(キービジュアル)とあわせ、同一シーズン内の番組に毎回表示させることが可能だ。
2024年春頃には未来の放送予定に加え、過去の番組情報の編集機能も提供予定。放送が終了した番組のタイトル、概要、ジャンル、出演者の更新に対応。見逃し配信を見越し、突然の編成変更にともなうデータの修正もカバーする。編集したデータはGガイドのほか、スマートフォン向けサービス「Gガイドモバイル」、WEB向けサービス「Gガイドブラウザ」、自社サイト番組表ページ生成システム「minds番組表キット」とも自動連携される。
■“未来”と“過去”の両面に広がるニーズ。データのリッチ化で番組の力を加速させたい
1999年の創立以来、30年近くにわたって番組情報データを管理し続けてきたIPG。今回で37回目となった「Gガイド運用連絡会議」を通じて、データ活用に関する業界内ムード変化をどのように感じているのか。そして今後に向けた展望は──。記事の締めくくりは、株式会社IPG コーポレート本部 人事広報部 部長 長井氏、同人事・広報チーム 松本氏へのインタビューをお届けする。
──今回37回目を数えた「Gガイド運用連絡会議」ですが、開催を振り返ってどのようなことを感じられましたか。
長井氏:これまでの「Gガイド運用連絡会議」は、放送局のみなさまからデータをお預かりして管理し、その運用結果をご報告するという性格の強い会議でした。しかし今回の開催を振り返ってみると、放送局のみなさまはもちろん、Googleをはじめとするプラットフォーマーのみなさんも含め、タッチポイントを増やすための共有財産として番組データをとらえ、一丸となって広く活用していこうというムードの高まりを強く感じました。
松本氏:放送と配信が同じ線上にある、ということが、世の中のムードとして実感できるようになってきたと感じます。視聴環境が多様化する中、視聴者の方々にコンテンツをいかに知っていただき、ご覧いただくためのガイドとして、番組データの存在感は日増しに大きくなっています。今回は特に「番組データによってどのような新しい世界をお見せできるようになっていくか」という未来の部分が大きくクローズアップされたと思います。
──今回の会議を踏まえ、今後のデータ運用に向けた展望をお聞かせください。
松本氏:IPGの運用するデータが放送局のみなさまのご協力によってリッチになり、情報として視聴者の方々の目に留まりやすくなりました。結果、インターネットを含めたタッチポイントが増えており、それに対する実感や理解も高まってきていると感じています。さらに見逃し配信の浸透によって、従来の「未来の情報」に加えた「過去の情報」に対するニーズも大きなポイントとして浮かび上がってきました。
長井氏:講演の中で、世界規模でコンテンツの一意性を担保する「コンテンツID」の話題が挙がったように、デジタルで広まっていた仕組みをテレビに輸入していく流れが加速している点も見逃せません。これまでデジタル分野は“未知のもの”と捉えられてきた節がありましたが、放送局のみなさまから寄せられた参加アンケートを拝見している限り、活用すべきものだという目線が揃ってきたように思います。
松本氏:「IPGを通してデータをやり取りすればインターネットにも出面を増やすことができ、各局との調整もスムーズに行うことができる」という認識が広まったことで、IPGの存在意義がより明確になってきたと感じています。これからいかにデータの価値を上げ、新たな楽しみ方を花開かせていけるか、番組コンテンツの力をより加速させていくというIPGの役割をさらにお伝えできたら幸いです。
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