テレ東×ビリビリ対談、中国アニメビジネス最新事情 ② ~アニメビジネスの基本はファンサービス、後からおカネは付いてくる?!~
ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビ東京がどこよりも早く中国市場でアニメ作品の即日配信を開始して5年が経過した。現在取引する中国の動画配信事業社は4社に拡大、そのひとつが若者を中心に高い支持を得ているビリビリ(嗶哩嗶哩:bilibili)だ。前回に続き、テレビ東京アニメ局長の川崎由紀夫氏と、ビリビリ社長の丁寧氏のお二人に中国におけるアニメビジネス最新事情を語ってもらった。配信時代に入り、日本のアニメビジネスはますます拡大していくのかというところも気になるところ。お二人の話からそれを可能にするカギも探っていく。
■反射神経が必要?中国ビジネスのスピード感
――配信時代に入り、何が変化していると思いますか?
川崎:今は第2段階に入っていると思います。アニメ作品そのものに力があるものを作ろうと思ってはいますが、一度作った作品をいろいろなかたちでマルチ展開するビジネスがより広がりをみせています。2.5次元の舞台などはそれを象徴するものかと思います。これまでは放送を前提に、放送からどのようにマスに広げることができるかという段階を踏む必要がありました。配信の時代に入り、その考え方が変わってきています。いっせいにポンと同時進行でマルチ展開ビジネスをスタートできるようになっています。考え方を変えないとついていけないほどです。ビリビリさんもイベントに力を入れていますよね。
丁:はい。アニメ作品だけではなく、アニメ周辺の商品やゲームにも関心を持つユーザーも多いので、オフラインのつながりも重視して、毎年7月に上海でリアルイベントを開催しています。昨年は2日間で約3万人、今年は3日間(7月21・22・23日)で7万人を動員しました。日本からはアーティストのMay’nさんや声優の三森すずこさんなどが参加し、中国のアニメファンもアニソンを歌っているアーティストを注目しています。アニメを通じたもう一歩先のビジネスとして、アニメ原作のゲームを配信するオンラインゲームなども会社をひとつ支えるような収益の柱になっています。グッズ展開もオンラインだからこそ同時進行にできることは多いと思います。
川崎:今はとにかく新しいモデルが一斉にスタートしています。反射神経で判断するようなスピード感が求められています。
丁:中国は変化が早いですからね。
川崎:ダントツですね。北米よりも変化が早い。中国では固定電話よりも携帯電話の普及率が上回っているように、階段を一段一段駆け上らずに一挙飛びしていきます。今までの経験からまったく予測ができない(笑)。
丁:それでもテレビ東京さんは反射神経が早いテレビ局だと思います。
川崎:違法配信の対策で正規配信を始めたわけですが、ビジネスと両輪で走りながらガラっと現状を変えることができるのが配信の時代だと思います。実際に海をかきまぜると波が起こる。そういった具合です。海に足を入れて冷たさは感じましたがね。
丁:率先してかき回すのは簡単なことではありません。
――中国の若者は今、どのようなアニメ作品を求めているのでしょうか。
川崎:数年前は日本に対して「かっこいい」という憧れる部分がありましたが、市場が成熟するのに伴って、私の感覚では次にいっているのかと。日本側もそれを意識しないと、彼らが求めているものを捉えることができなくなり、時代遅れになってしまう。配信の時代に入り、加速度的に変化していますから。ビリビリさんには生の声が寄せられていますよね? 変化があると感じますか?
丁:ユーザーとプラットフォームのコミュニケーションツールとして、ユーザーコメントを表示する弾幕(字幕)があるので、作品に対するフィードバックは早いです。それだけでなく、クール毎にトレンドを分析しています。今は学園ものやラブコメ、バトルものに人気が集中し、昨年はビリビリだけでなく、中国でラブコメファンタジーの『リゼロ』(Re:ゼロから始める異世界生活/テレビ東京にて2016年4月クール放送)が大ヒットしました。
川崎:「リゼロ」はテレビ東京で2016年に放送し、日本でもヒットしましたが、海外人気は想像を超えるほど。アメリカでもヒットしました。ただ、ヒット分析をしているあいだに次のヒットに移っていってしまいがち。中国で求めているものを把握することは難しいです。
丁:平均1年半かけて1本の作品が制作されるので、その間にトレンドが移り変わりますね。それでも、ヒットの要素はひとつだけではないので、いくつかの要素を組み合わせることでトレンドを抑えることはできるのかもしれません。
川崎:そうですね。制作している人がファンのツボを抑え、うまく取り入れている作品はヒットしています。若い世代は、生まれた時からデジタル環境に触れている分、従来とは違うリアクションがあります。中国ではSNSアプリの「ウィーチャット(WeChat)」や中国版ツイッター「ウェイボー(微博/weibo)」を使って、作品の中身について深く仲間同士でやりとりしているのがみられます。「この作品のこういう目的でやっているのに違いない」といった深読みが多い。今の時代は、ファン自ら作品を盛り上げていく意識が高いです。
丁:日本と中国とでヒットする作品が同じ場合もあるし、違う場合もあります。『ワンピース』や『NARUTO』はどの国でもヒットしていますよね。深夜アニメの中では『坂本ですが?』が突っ込みどころの多い作品ということもあり、弾幕(字幕)も見ながら楽しめ、中国で大ヒットしました。
■信頼関係を結んだ中国と東南アジアでブラッシュアップする
――ガラパゴスと言われがちな日本のコンテンツですが、日本のアニメが生きる道はどこにあると思いますか?
丁:日本のコンテンツはガラパゴスと言われているのは確かですが、平和や正義、戦争とは何かと考えさせられるような作品は多い。普遍的な価値やメッセージをアニメというツールに乗せて、日本だけでなく、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど広く世界に世の中にひろめていくことに可能性があるのかと思います。
川崎:日本のアニメの多くは、週刊漫画連載を続ける作家先生のプレッシャーから生まれています。制限のあるなかで制作されているから、どこよりもクオリティが高いのではないでしょうか。
――中国の次の市場としてどの辺りの地域を狙っていますか?
川崎:次は東南アジアです。中国資本の企業が多く存在している東南アジアを日中で攻めていくことがポイントだと思っています。内容も含めて、文化や教育面でも日中共同制作が東南アジアの市場で活用できるはず。信頼関係を結んだ中国とさらにブラッシュアップする意味はあります。さっそく中国のカーロンアニメーションと協力して共同制作したフルCGアニメ『トレインヒーロー』を現在、ジャカルタ市内の駅構内で啓蒙活動用のキャラクターとして展開しています。「電車の中でドリアンを食べちゃいけない」といった注意事項を盛り込み、フラッシュアニメで制作しました。玩具メーカーと組んで、インドネシアで展開する計画もあります。
※「トレインヒーロー」は中国・常州テレビ系列のアニメ制作会社カーロンアニメーションと協力し、2011年に立ち上げたアニメプロジェクトから誕生したフルCGアニメーション。地球上のあらゆるところに張り巡らされた「超高速鉄道」を走るために集められたトレインヒーローたちが災害時の救助活動の任務をこなしながら成長していく物語。キャラクターデザインは北米コミック市場で活躍するパット・リーが担当。
丁:ビリビリも展開する各国で多言語化を進めています。ライセンスを獲得する際にアジアも見据え、共同制作も含めて視野を広く考えています。
川崎:視野を広げて、その次は南米でしょうか。地図を埋めていかないと、売上が上がらないですからね(笑)。
丁:南米はポテンシャルがありますよね。現地のパートナー探しのハードルが上がりますが。マーケットの入り方は早すぎると失敗する恐れもあり、遅いと利益を得ることができないケースもあります。大事なのはいかにリーディングポジションが取れるか。ただし、そこにはユーザーのニーズになるべく応えたいという気持ちがあるからこそ成功するのだと思います。ユーザーが喜んでくれるのなら、はじめは収益が上がらなくてもいいというぐらいの気概で事業を継続し、結果的に、マーケットのシェアを大きく取れればいいのだろうと思います。
川崎:共感します。アニメビジネスの基本はファンサービスですよ。「後からお金は付いてきます」だけでは会社は納得しませんが(笑)、その精神を持って接しているとファンの方が応えてくれます。稼ぐことだけ考えてしまうと、厳しい結果になりがち。見誤ると策に溺れてしまう。成功例は後付けで語られることが多いことからも裏付けることができます。ポリシーを持ってやれば、外した時でもそれを糧に次の作品に投資すれば、無駄はないと思います。声優さんとの取り組みで、違う作品の経験がなければ『おそ松さん』も生まれていないでしょうし、ヒットは突如出てくる訳ではなく、経験を線にしていく作業なのだと思います。
ありがとうございました。
~まとめ~
2回にわたって連載した「テレ東×ビリビリ対談、中国アニメビジネス最新事情」から学べたコトのひとつに中国の勢いが挙げられる。海外マーケットの取材を通じて、作品性のクオリティが上がっていることや各国とのアライアンスを積極的に取り組んでいることから、それを肌で感じる場面も多いが、最前線に立つお二人のお話から改めて実感した。テレビ東京川崎氏が違法動画対策で始めた正規即日配信が実を結び、早くも次のフェーズに突入。ビリビリ丁氏が「収益の柱になりつつある」と話すグッズ展開などアニメ周辺ビジネスが拡大しようとしている。いずれもそのカギとなるがファンサービス。いかにファンのニーズに応えるかが配信時代に入ってますます重要視されているのではないか。スピード感を好む中国をはじめとするアジア市場ではそれを的確に捉える難しさなども課題にあるが、アニメビジネスに限らず二人の言葉から市場を攻めるべきヒントはあるはずだ。
なお、ビリビリ丁社長はインタビュー後、今年7月に同社代表を退任した。今後は日中の文化交流事業に従事し、アニメを含む新たなコンテンツプロジェクトなども計画中だ。