「テレビ出稿と近い効果を実現」ファミリーマートがTVer出稿を増やす理由〜日経デジタルフォーラム レポート(その5)
編集部
左から)株式会社TVer・蜷川新治郎氏、株式会社ファミリーマート・足立光氏
2024年2月6日、日経デジタルフォーラム「映像プラットフォームにおけるマーケティングの過去・現在・未来」が大手町・日経ホールにて開催。マーケティングや映像制作の一線で活躍するキーマンが登壇し、それぞれの事例を踏まえながら、デジタルマーケティングにおける顧客コミュニケーションのヒントを提起した。5回にわたるレポートのうち、本記事ではクロージング対談「イメージを覆すマーケティング」の模様をお伝えする。
登壇者は株式会社ファミリーマート エグゼクティブディレクターCMO 兼 マーケティング本部長・足立光氏と株式会社TVer常務取締役COO・蜷川新治郎氏。コンビニエンスストアとテレビ、それぞれパブリックイメージの定着した業界でファンを獲得するマーケティングの道筋について、両者の経験談を軸に議論する。
■28ヶ月連続売上増、快進撃の秘訣は「“定番”を伸ばすこと」
2023年12月末時点で、28ヶ月連続で日商が前年超えを継続するなど好調のファミリーマート。足立氏いわく、その秘訣は「定番商品、定番企画を伸ばす」ことにあるという。
「コンビニは新商品のイメージが強いが、売上の大半は定番品。定番品が強くなるほど顧客の満足度は上がり、欠品も減る。結果、サプライチェーンの効率化や原価の低減につながり、収益の拡大につながっている」(足立氏)
ファミリーマートが現在力を入れているのが「定番キャンペーン」の展開。値段を据え置いて中身を40%増量するキャンペーンのほか、春季キャンペーン「ファミマのいちご狩り」を4年連続で実施。「同じ企画を、毎年中身を改善しながら、繰り返し行うことで、お客様から支持される定番キャンペーンをつくることができる」と、足立氏はその意図を語る。
さらに同チェーンが取り組むのが「来店目的の拡大施策」。デザイン性をもたせた下着や日用品を「コンビニエンスウェア」として販売するほか、店内のマルチコピー機「ファミマプリント」で、人気芸能人やスポーツ選手のオリジナルブロマイドを出力できるサービスを展開。さらに人気アニメ・ゲーム作品とのコラボ施策など、顧客にとって来店するきっかけをより多く作る取り組みに力を入れているという。
■「テレビ出稿と近い効果を実現」ファミリーマートがTVer出稿を増やす理由
広報面ではメディア露出を強化し、2022〜2023年の1年間で前年比1.5倍に増加。従来のプレスリリース発信に加え、メディア関係者を招待しての試食会やX(旧:Twitter)を中心としたSNS展開に注力。「新商品とキャンペーンの数は変えず、その代わりに1つ1つのニュースの露出を増やすようにしてきた」と足立氏はいい、「値引き件数が他社と比べて多いなど、もともと『ちょっとおトク』であるファミリーマートの特長を継続的に訴求している」と語る。
「ブランドイメージは『おちゃめなクラスの人気者』。コミュニケーションのトンマナ(トーン&マナー)は『人気者がやりそうなこと』で揃え、広告やキャンペーンにおいても「『ちょっとおもしろく、最後にオチがある』ことを重視している」(足立氏)
一方、広告展開においてはTVerへの出稿を増やしているという。足立氏は「一度に多くのリーチを得られるマス媒体は、リーチ効率がよい」としたうえで「TVerは『テレビの延長』として捉えている」とコメント。「出稿先の番組を指定でき、テレビ出稿と近い効果を実現できる」とメリットを語る。
「日本のマス広告に対する信頼は絶大だ。その証拠にNetflixなどの外資系がテレビ広告やTVerに広告出稿している。海外のテレビメディアでは日本のようにGAFA(Google、Apple、Facebook=Meta、Amazon)の広告は流れない。裏を返すとこれらの企業は『日本ではマス広告によるリーチが有効だ』と考えているということ。これを踏まえても、デジタル媒体でありつつマスへのアプローチに強いTVerは、広告媒体として非常に重宝する存在だ」(足立氏)
■「マス媒体の強さは揺るがない」“基本”を見据え続ける足立氏が送るエール
パブリックイメージの定着した業界でのマーケティングに大切なことは何か。「大事なのは『基本と独自性と俯瞰』」と足立氏はいい、「トレンドに惑わされず、『誰に何を売るか』という基本からブレてはいけない」と強調する。
「『何を誰に伝えるのが最適か』を考えたら、おのずと解がでてくるはず。デジタルとマスの領域や担当を分けるのはナンセンスだ。お客様から見ればテレビで知るのもXで知るのも同じこと。マスだけ、デジタルだけに偏るのではなく、メディア全体を俯瞰して最適化することが肝要だ」(足立氏)
「周りの人が楽しんでくれることが自分にとっての幸せ。企画や戦略を考えるときにはかつて感じた『嬉しかった』ことを思い出し、つなげて“仮説”を立ててから臨んできた」と足立氏。現在の仕事を踏まえながら「取引先や顧客など、多くの“関係者”がいるビジネスは『いろんな人をちょっと幸せにできる』から楽しい」とやりがいを語る。
これを受けて蜷川氏は「TVerも『みなさんをちょっとずつ幸せにできるサービス』でありたい」とコメント。「多くの人が同じコンテンツを見て共感したり、いろんなことを思ったりする、という基本を大事にしつつ、危機感も持ちながら発展していきたい」と語る。
「デジタル媒体の発展ばかりが取り沙汰されるが、広告媒体としてのマスの強さは揺るがない」と、最後に足立氏は強調。「マス媒体の方々は自信を強く持ってほしい」とし、「その上で、より魅力に磨きをかけていくことをやめないでほしい」とエールで締めくくった。
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