民放キー局5社初の“協争”イベントでサントリーが語った「今、あらためて、テレビメディア」の価値とは【TVCテレビカンファレンス2023レポート前編】
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビの民放キー局5社初の合同カンファレンス「TVC テレビカンファレンス2023」が2023年11月22日に恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール&ルームで行われた。「今、あらためて、テレビ」をテーマに掲げ、広告主を代表してサントリーホールディングスによる基調講演から5局各局の報道、ドラマ、バラエティ番組等のプロデューサー陣によるセッション、各局の広告商品や事例を紹介するブースまで多面的に展開した。競合5局による“協争”イベントとして、広告主に向けて何を伝えたのか。前中後編にわたってレポートする。
■サントリー堀田晶子宣伝部部長の基調講演からスタート
民放キー局5社が初めて合同開催した「TVC テレビカンファレンス2023」は、基本に立ち返った「今、あらためて、テレビ」というテーマの通り、現在のテレビの力と魅力を広告主に向けてできる限りオープンに伝える内容が用意されていた。目玉の講演パートは約3時間にわたり7つの講演が組まれ、広告主の目線からテレビメディアの価値を語る基調講演からスタートした。レポート前編はこの基調講演を中心に伝えていく。
登壇したサントリーホールディングス株式会社コミュニケーションデザイン本部宣伝部部長(公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 テレビ・ラジオメディア委員会副委員長)堀田晶子氏は冒頭、同イベントの企画そのものについて「新しい風が吹いていることに期待しています」と語り、エールを送る言葉から始まった。
続いて、堀田氏は講演テーマの「今、あらためて、広告主が考えるテレビメディアの価値」に沿って、まずはテレビを取り巻く環境が大きく変化している現状について率直な意見を伝えた。
「これまでの広告出稿はテレビを基本に考えてきましたが、今の時代、情報が多すぎて広くリーチするテレビだけでは情報が届きにくくなっていると感じています。またデジタルサービスが普及したことによって、広告スキップや広告が入らない有料サービスが当たり前となり、結果的に広告回避が高まっている現状があります。広告主泣かせの環境とも言えます」
環境の変化によって生まれたこうした課題は決して見過ごせない。そんななか、堀田氏は改善策を挙げていく。
「テレビ出稿の考え方を変え、商品に共感してもらう取り組みを積極的に実践しています。具体的には、“広く告げる広告”と“絆を創る広告”の2つの活動に注力しているところです。ベースの活動となる“広く告げる広告”では、効率的に情報を到達させ、商品認知とトライアルを促しています。そして、深さを重視した“絆を創る広告”では、接点を重ねて商品への共感を獲得し、ファン化を目指しています」
強調されたのは“好きに繋げるコミュニケーション”であり、コミュニケーションと捉えた新たな広告活動にあった。
■テレビを軸にしたコミュニケーションがベースになる
堀田氏は新たな取り組みを重ねるなかで気づきがあったという。それこそテレビ広告価値の再発見だった。
「テレビの広告があるからゆえに、他のメディアの広告効果が高まることがわかりました。つまり、テレビを軸にしたコミュニケーションがベースとなって、商品への共感を獲得でき、ファン化を目指すことができるということに気づいたのです」
さらに深く掘り下げ、「テレビ番組の視聴質が重要な指標になる」と、堀田氏は指摘した。
「コモディティ化が進み、商品の差別化が難しくなっている今、課題解決にはファンを作ることでライフタイムバリューをあげていくことが大事だと考えています。例えば、インフォマーシャルがSNSで盛り上がるように設計したり、商品をリアルに体験できるイベントを実施したりしています。番組の最後にながれる提供クレジットを舞台に話題となる施策をおこない、店頭でも活用しました。あらゆるものをコンテンツとして捉えることで、視聴者から“これは面白いね”“自分でもやってみよう”など、自分ゴト化した発話がなされ、拡散されていくのです。ですから、コンテンツホルダーのみなさまが面白がって前向きに関わってくださることがとても大事で、それができたコラボ施策は、自走しながら拡散していくのだと感じています」
最後に改めて広告主から見たテレビメディアの価値について堀田氏がまとめた。
「お客様は本当によくみてくださっています。テレビとの面白い取り組みに対して、『ありがとう』と、感謝された時は、絆づくりの手ごたえを感じる瞬間でもあります。テレビはリアルタイムで一斉に熱量が集まりやすく、家族やお友達と共視聴されて話題にされやすい。これらはテレビならではの強みです。デジタルターゲティングの時代こそ偶然の出会いを起こせるマスが大事であり、広告が届きにくい時代であるからこそ、エンタメ文化をつくりあげてきた放送局の皆様のお力をお借りしながら広告主の活動がますます進化していくことにワクワクしています。広告は人生の応援歌でなくてはならないと信じています。人々に感動してもらい、豊かになってもらいたいという点において、テレビ局と同じ方向を向いていることも確信しています」
15分間の講演の中でテレビメディアの現状と課題、そして期待される役割について共有され、全体のテーマである「今、あらためて、テレビ」を語る意味が再確認される内容だった。
■民放キー5社の最新コミュニケーション施策を紹介
堀田氏の基調講演後は主催した民放キー局各局が登壇したセッションが続いた。ビジネスセッションでは、各局営業局員によるコミュニケーション施策と事例を紹介するショートプレゼンテーションが横並びで行われた。
日本テレビ営業局担当局次長兼総合営業センター長の井田佳男氏は土曜放送のサッポロビール提供番組『満点青空レストラン』を事例に取り組み内容を紹介し、「愚直なまでにものづくりにこだわる姿勢」を番組テーマとするなか、サッポロビールの流通店舗と連動した最新施策の効果として350ml缶で前年比107%、500ml缶で同121%を達成したことを報告した。
テレビ朝日ビジネスソリューション本部セールスプロモーション局オンラインビジネス部長萱沼崇英氏は「番組連動CM+地上波CM×ABEMA」施策を紹介した。具体例ではスポーツくじ「WINNER」と番組『しくじり先生』でのインフォマーシャルによって「サービス紹介と内容理解促進」を図り、「テレビCMによるリーチ獲得」と「ABEMAでの配信を交えて潜在コア層へ訴求」できた効果を説明した。
TBSテレビ営業推進センター長兼営業推進部長伊藤健二氏は一社提供番組によるブランドと番組のマッチング効果を紹介し、アサヒビール提供の街歩きグルメ番組『ベスコングルメ』で行ったAIを活用した視聴者反応予測サービスによって、「親和性のないコンテンツで流れた時よりも飲みたい気持ち」が1.5倍に増えた効果を説明。「タイム提供は視聴者のエンゲージメントに大きく寄与」していることを強調した。
テレビ東京営業局営業部担当部長の守隨頼信氏は「ミニ番組“風”180秒CM素材」について紹介した。「WBS」直後の枠を活用することで、経営層や富裕層、ビジネスマンを中心とした視聴者層に対して3分という長尺で企業メッセージを発信でき、さらに企業のYouTubeアカウントに素材を格納するなど、放送1回だけで完結せず、二次利用も柔軟であることも付け加えた。
最後に登壇したフジテレビ営業局首都圏営業室首都圏営業部の鈴木聖未氏は2023年8月に実施した視聴者の体感に寄りそうテレビ広告サービス「マルチスタンバイCM&ダイナミックボーダーフレーム」について説明した。当日の天気予報にあわせて広告素材を選ぶことができたり、お天気コーナーで天候関連商材を訴求できたりするもので、気象情報コーナー「ソラよみ」でデータ放送技術を利用した日本コカ・コーラ社の事例を紹介した。
会場内にはこれら各局の広告商品や事例を確認できるブースも展開され、進化するテレビ広告の価値を発表する場となっていた。中編は報道と帯番組セッションを中心に、後編はドラマとバラエティセッションを中心に引き続きレポートしていく。
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