岡山放送、自動車競技ラリー最高峰「世界ラリー選手権」でリアルタイム手話実況を実施
編集部
豊田スタジアム入口
岡山放送株式会社(岡山市北区、以下OHK)は11月16~19日、愛知・岐阜県の両県で開催されたFIA世界ラリー選手権の日本ラウンド「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」(以下世界ラリー選手権)においてリアルタイム手話実況を実施した。
リアルタイム手話実況は、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(東京都文京区)が企画した2022年アイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」から誕生したもので、多様な人がレース観戦を楽しむためのアイデアとして、OHKはモータースポーツ手話実況を日本で初めて実施した。その後も同基金の助成を受けながら「OHK手話実況アカデミー」を創設し、手話実況の人材育成と技術向上を目指しさまざまな研修や実践を行っている。
こうした中、同基金がコンテストの取組を広く周知するために、世界ラリー選手権メイン会場となる豊田スタジアムを中心に広報活動を行い、その活動の一つとしてOHKの手話実況が紹介された。OHKは大会中の4日間、約8万人の来場があった同スタジアムイベント広場において2つの取組を実施した。
【取組1】手話実況体験
来場者に向けた手話実況体験プログラムを提供し、手話実況を通じてモータースポーツの魅力をさまざまな人に発信しつつ、ろう者や手話への周知や理解促進を行った。
体験プログラムはろう者が講師をつとめ、体験ブースを訪れた来場者が実際のレース映像を見ながら簡単な手話単語を使ってリアルタイムで実況する体験を行った。健常者と障がい者が一緒に体験したこの取組は、トヨタ自動車・佐藤社⾧をはじめ、4日間で約160人が体験したほか、愛知県大村知事、全日本ろうあ連盟など多くの関係者が視察した。体験者からは「スポーツに手話実況があった方が良いと思う。どんな人でも楽しめる環境はとても良い取組だと思う」との感想が寄せられた。
【取組2】国際大会でのリアルタイム手話実況
大会最終日の19日、注目を集める最終パワーステージ旭高原SS(豊田市旭八幡町)で、約1時間にわたる熱戦のリアルタイム手話実況を行った。実況MCを担当した早瀬憲太郎、⾧井恵里(ともにOHK手話実況アカデミー生でろう者)、ろう者に音声実況情報を届ける手話通訳者、そして30年継続している手話放送とスポーツ実況中継のノウハウを持つOHKが、それぞれの特性や強みを集結させ、正確かつ躍動感のある手話実況が実現した。
モータースポーツの国際大会で初となるリアルタイム手話実況は、スタジアムの大型ビジョンなどでパブリックビューイング映像として放映された。観戦に訪れていた聴覚障がい者は「今まで情報が分からないまま見ていたが、手話実況を通して聞こえる人と対等な情報を得ることができた。同じように楽しめる機会を与えてもらったことがうれしかった。『通訳』ではなく今回のような『実況』という形があることが理想。これからも広げてほしい」と話した。OHKは、2025年に日本で初めて開催されるろう者のオリンピック「デフリンピック」に向け、今後も様々なスポーツ実況に対応できる人材育成を目指すとともに、障がいの有無にかかわらず誰もがスポーツ観戦にアクセスできる環境を創出し、「情報から誰一人取り残されない社会」の実現を目指す。
手話実況岡山チームの活躍
OHK手話実況アカデミーでは、スポーツや文化などの分野で活躍するろう者や手話通訳者が全国から集まり研修や実践を積んでいる。今回の世界ラリー選手権手話実況体験プログラムでは岡山勢の活躍が目立った。生まれつき耳が聞こえないろう者の佐藤正士、手話通訳者の木村昭人、泉田絵理は岡山からの参加。佐藤は「手話を知らない方がたくさん来た。手話ではこう表現するのかという驚きや、難しいなど色々な声が上がった。一部の番組だけでなく、全ての番組に手話ワイプがあると良い」、また4日間手話通訳をした木村は「体験者が『難しかったけれど楽しかった。表情と体で表現することが分かった。
会場は車の音で音声実況が届かないことが多いが、手話実況者の動きで状況が分かる』と初めて感じた手話の魅力を話し、ろう者が『そうです。でもあなたが考えたチェッカーフラッグの手話表現はとても素晴らしかった』と返す。そんな光景を間近で見られたことに感謝するとともに、手話通訳者としてやりがいを感じた。このような取組の積み重ねが社会を変えていくことにつながると確信した」と話した。