【MIPCOMカンヌ2023速報レポート】来場数3年連続増加の世界最大級TVコンテンツマーケット、「国際コープロ」「配信ビジネス」活況期
ジャーナリスト 長谷川朋子
MIPCOM2023 会場のパレデフェスティバル
現地時間10月19日に閉幕した世界最大級のTVコンテンツ国際取引マーケット「MIPCOMカンヌ2023」に100か国から1万1000人以上が参加したことが主催するRXフランスから発表された。13日からスタートしたプレイベントのキッズ専門マーケット「MIPJUNIOR」を含む約1週間、フランス・カンヌの会場では「再生」が1つのキーワードとなって、FASTやAIなどトレンドワードが飛び交い、日本のドラマやバラエティ番組が注目される場面も作られた。現地取材した模様を速報としてレポートする。
■日本は昨年に引き続き、10番目に多い来場者数
カンヌの10月らしい穏やかな気候を感じながら始まった「MIPCOMカンヌ2023」ウィークは連日にわたって、日が昇り始めた朝8時台からセッション、商談ミーティング、プレスカンファレンスなどが組まれ、日が落ちた後もプロモーションやスクリーニング、ネットワーキングが続いた。テレビ・配信メディア業界が一堂に会する場をフル活用する参加者で溢れていた。
主催するRXフランスがマーケット開催中に発表した数字によると、今年で39回目を迎えたMIPCOM(期間:10月16日~19日/会場:パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ)の参加人数は昨年の規模を上回ったことがわかった。コロナ禍前の1万3000人規模にはまだ届いていないが、2021年にフィジカル開催が復活して以降、3年連続で伸びている。従来の参加者に加えて、新たな顔ぶれが加わり、市場ニーズを捉えた会場構成やプログラムが功を奏しているように思う。
MIPTV/MIPCOM統括ディレクターのルーシー・スミス氏は18日に行われたプレスカンファレンスで好調ぶりをアピールし、「業界が直面している課題は多く、変革の潮流の真っ只中にいるが、国際共同製作や配信ビジネスは間違いなく活気に満ちたタイミングにもある。これは再生する力を持った市場であることを示している」と語っていた。
具体的な来場者数は昨年の1万800人をわずかに上回り、100か国から1万1000人強を記録した。その内、バイヤー数は前年比10%増の3,500人超えだった。なかでも、注目度が高まる中東地域のバイヤーが前年比50%増と大幅に伸び、160人以上が参加したことが報告された。
国別全体の来場者数はイギリスが最も多く、これにアメリカ、フランス、ドイツ、カナダ、トルコ、スペイン、韓国、イタリアが続く。日本は昨年に引き続き、10番目に多い来場者数となり、その数は昨年より増えて、約300人が参加した。また日本に次ぐ11番目に多い参加人数となった中国は今年、主賓国を務めたこともあって、40社から300人以上が参加し、2019年以来最大規模となった。MIPJUNIORから初参加する中国のアニメスタジオのプロデューサーが一挙に増えた印象だった。
期間中、会場内に広い敷地を確保した韓国、中国、欧州各国のパビリオンの数は31か国を数え、全体の出展社数は320以上を記録した。また50の企業が今年のMIPCOMで初ブースを構えたという。日本は従来通りパビリオン出展はなく、NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ、読売テレビ、朝日放送、関西テレビ、東映アニメーションらが個別にブースを設置し、世界に向けて売り込み中の番組ボスターを華やかに掲げたスペースで商談を進めていた。
■ドラマ『VIVANT』、『ブラッシュアップライフ』の受賞
プレイベントのキッズ専門マーケットMIPJUNIOR(10月13日~15日/JWマリオットを会場)は今年、金曜日午後からスタートする試みが導入され、来場者数は63か国から1200人以上を記録した。1300人が参加した昨年の来場者数より若干下回ったものの、中国テンセントビデオのキッズオリジナル担当プロデューサーのセッションなど立ち見が出るほど人気のプログラムもあり、10月14日の夜にホテル・バリエール・ル・マジェスティック・カンヌで開催されたパラマウント提供の「MIPJUNIORオープニングパーティー」には600人近くが参加し、賑わいをみせた。
映像業界の先端ビジネスを展開するキッズ市場の注目度は依然として高い。イギリス拠点のテックカンパニーBoltによるソーシャルメディアと組み合わせたFASTビジネスから、老舗クレヨンメーカーのCrayolaがIP開発から映像製作まで担う「Crayolaスタジオ」を立ち上げたことまで、話題も豊富にそろった。
本編のMIPCOMにおいても業界注目の話題を共有する場がテーマ別のベニューごとに連日にわたり展開され、活気に満ちた場面も多かった。今年で2年目の設置となったシービュー・プロデューサーズ・ハブでは市場で最も重要視されている国際共同製作をテーマにしたセッションが集中的に組まれ、またMIPラボでは第2回目のFAST&グローバル・サミットや初企画のAIサミットが行われた。なかでも「メディア・ユニバース・マップ」で知られるプロデューサーのEvan Shapiro氏がFASTビジネスの現状を捉えたメディア・マップの解説は見どころの1つにあった。
本命のトピックは、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが先陣を切った。国際プレジデントGerhard Zeiler氏による初日の基調講演でリニューアル版の動画配信サービス「Max」が2024年春にヨーロッパから本格稼働することがその場で発表され、話題を作っていた。Zeiler氏が「配信は我々のビジネスの未来」と語る一方で、「リニアの役割も変わらず重要だ」と強調していたことは世界のメディア業界の現状を象徴しているようで、可能性を求めた「再生」は今年のMIPCOMの共通キーワードにあったように思う。実際に「リニア視聴はまだ息絶えていない」ことを確かめながら、次に来るコンテンツビジネスのトレンドを決定づけていく会話が多く行き交った。
また今夏はアメリカで脚本家組合(WGA)と俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキが同時に行われたこともあり、その影響について懸念される声もあった。リサーチ会社のOmdiaの解説によれば、「影響期間は予想よりも短いが、アメリカTVネットワークの制作本数の衰退は今後も続く」という。
速報レポートの最後は、日本の明るい話題で締めたい。日本の国際ドラマフェスティバル in TOKYO 実行委員会が主催する恒例の「MIPCOM BUYERS’AWARD for Japanese Dram」受賞式は各国のバイヤーが駆け付けるなか、審査の上、『VIVANT』(TBSテレビ)がグランプリ、『フェンス』(WOWOW)が奨励賞を受賞し、盛況に終わった。
また多様性の時代を象徴するMIPCOM公式プログラムの「第7回ダイバーシティTVアワード」授賞式では、LGBTQIA+部門でNHKドラマ『作りたい女と食べたい女』がファイナリストに選ばれ、惜しくも受賞は逃したが、世界各国の強力作と並ぶ機会を得た。
さらに、最大手イギリス業界誌TBIが主催する「第9回Content Innovation Awards」では日本テレビが快挙を果たした。ドラマ『ブラッシュアップライフ』がBest New Scripted Series Non-English Language部門で受賞し、日本で唯一の同アワード受賞となった。
これら今年のMIPCOMカンヌで話題になったトピックや注目トレンド、日本勢の活躍の詳細については、後日掲載予定の解説付き現地取材レポートで改めて報告する。