【MIPCOMカンヌ2023プレ特集①】業界トレンドにある今年のMIP注目シリーズ「FAST」とは何か
ジャーナリスト 長谷川朋子
MIPTV/MIPCOM統括ディレクターのルーシー・スミス氏
今年10月にフランス現地で開催予定の世界最大級TVコンテンツ国際取引マーケット「MIPCOMカンヌ2023」の目玉企画が発表された。テレビ広告のゲームチェンジャーと言われる「FAST」をテーマにした集中プログラムがその1つにある。なぜ今、「FAST」が業界トレンドにあるのか。今回はその理由と共に、今年の「MIPCOMカンヌ2023」の企画ポイントを解説する。
■クラウドテクノロジーのAmagiがプレゼンティングパートナー
今年で39回目の開催を迎える「MIPCOMカンヌ2023」は10月16日(月)~19日(木)の4日間にわたり開催される。主催するRXフランス(本社・パリ)によると、現在、40カ国以上から250以上の出展が決定しているという。ウォルト・ディズニー・カンパニーやNBCユニーバサル・インターナショナル、FOXエンターテインメント・グローバル、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー、Amazon MGMスタジオズ・ディストリビューションといったアメリカ巨大メディアをはじめ、欧州・中東の大手メディアや日本を含むアジア勢から出展を見込む。
番組取引マーケットとしての機能はそのままに、コロナ禍以降、春のMIPTV、秋のMIPCOMが力を入れているのがマーケット内で提供される「持続性のある企画」にある。MIPTV/MIPCOM統括ディレクターのルーシー・スミス氏が前回春のMIPTVのプレスカンファレンスで「今、MIPは再び成長期を迎えています。MIPに参加する多くの方がテレビエンターテインメント業界最大のマーケットであるMIPの価値を再認識し、一過性に終わらない活用を求めているのではないでしょうか」と、話していたように持続可能な企画からビジネスチャンスを生み出そうとする意識が高まっている。
そんななか企画されるのが、欧米メディアを中心にトッププレイヤーとアナリストが登壇する「FAST&グローバルサミット」にある。春の「MIPTVカンヌ2023」で好評を得たことから、再びカンヌで「FAST」の集中プログラムが組まれる。今回は10月17日(火)午後と18日(水)午前の2日間にわたり、ラウンドテーブル・ミーティングや講演を予定する。
前回の同サミットでFASTチャンネル開設の短縮化を図る新しいプラットフォーム「Amagi Connect」を発表したクラウドテクノロジーのパイオニアであるAmagiがプレゼンティングパートナーとして既に契約し、さらに多くのスポンサーが近日中に発表される。また2023年のMIP注目シリーズとして、今年11月にメキシコ・カンクンで開催される「MIP CANCUN」で「FAST &グローバルサミット」は完結する計画という。
■2027年までに世界全体で約1兆6,611億円規模に成長
ここで、前回の春のMIPTVで開催された第1回「FAST&グローバルサミット」について簡単に報告する。まず前提として「FAST」とは「Free Ad-Supported Streaming TV=広告モデルのストリーミングTV」の略である。リニアTVやAVOD、多チャンネルTVの進化系とも言われることから、従来のメディアにとって、主軸としてきた広告モデルやチャンネル展開で蓄積してきたノウハウを活かせるものにある。またオンラインを中心の新興メディアにとっても多様化するビジネスモデルの1つとして考えられている。
一方で、収益性に対する懸念があることから慎重な見方もあった。言い換えれば、情報収集の段階にある。そこで、企画されたのが「FAST&グローバルサミット」だ。先行する欧米を中心にプラットフォーマーからディストリビューター、ソリューション企業、アナリストまで、主力プレイヤーが一堂に会する場は業界初の試みとなり、会場は立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。
OTTの王者がNetflixであれば、FASTの王者はパラマウント・メディアグループのPluto TVであり、登壇したPluto TVの EVP & インターナショナルGM、オリヴァー・ジェレット氏の発言には注目が集まった。
ジェレット氏は「FAST収益の一部は、明らかに従来の広告主からシフトしたものにあります。FASTはテレビ広告のインパクトを取り戻すゲームチェンジャーになる可能性が高い。テレビ業界の課題にある視聴率の低下と視聴者層の高齢化、そして若者慣れを解決していくものになるはずです」と、FASTの可能性を言い当てていた。
また登壇したイギリスの調査会社Omdiaのトップアナリスト、マリア・アグエテ氏の説明によると、Pluto TVのグローバル月間アクティブユーザー数は2019年時点で2020万人だったが、2022年には7040万人に伸び、2027年には8840万人を見込むという。高い成長率はPlutoTVに限らず、収益ベースではFASTチャンネル全体で2019年から2022年にかけて約20倍に成長したことが報告された。2027年までに世界全体で120億ドル(約1兆6,611億円)規模に成長することが予測されている。
こうしたマーケティングデータから見たFAST市場の将来性や課題をはじめ、FASTチャンネルにおけるローカライゼーションの重要性やシングルIPの重要性なども語られ、FASTノウハウが集約された内容によって好評を得ていた。次回秋のMIPCOMにおいても引き続き注目プログラムとして人気を集めそうだ。
■新企画の集中プログラムのテーマは「AIの解放」
「MIPCOMカンヌ2023」では、新たな集中プログラムも予定されている。AI時代に合わせて、国際コンテンツ・ビジネスにおけるAIの活用とその有望性を明らかにする「UNLOCKING AIサミット」が10月17日(火)午前中に開催される。サミット名称はAIの「解放」を意味し、現時点でみたAI活用の長所ばかりでなく、短所についても指摘しながら、持続可能で安全な枠組みを構築するために倫理的、法的観点から探る内容という。
アメリカではアメリカ脚本家組合(WGA)と俳優組合(SAG-AFTRA)によるストライキが続いており、争点の1つにあるのがAI活用の保護にある。MIPCOM参加者はメディア所属者やプロデューサーが中心となるが、秋のカンヌにおいて中立的な視点で議論が深まることが期待される。
MIPTV/MIPCOM統括ディレクターのスミス氏は「スタジオやディストリビューターは今、新たな収益の流れを積極的に追求しています。実際に放送、ケーブル、ストリーミング、FASTと、あらゆるビジネスモデルを受け入れています。私たち主催者はこれまで以上にテクノロジーがイノベーションを促進すると信じており、MIPCOM カンヌでFASTとAIに焦点を当てることで、新しいコンテンツや既存のコンテンツを国際的に収益化する手段をさらに増やすことを目指していきます」と、語っている。
AIサミットについても継続プログラムとしてスタートする可能性もあるだろう。提供社やプログラムの詳細については情報がアップデートされ次第、レポートする。また注目の国際共同制作を促進するハブ機能などについては次回のMIPCOMプレ特集で業界トレンド解説と共にお届けする。