地区全体の“視聴率底上げ”目指しタッグ 〜石川・民放テレビ4局共同キャンペーン「#WAKUをこえろ!」インタビュー(前編)
編集部
左から佐藤政治氏、北尾美和氏、金子美奈氏、園山智之氏、畝村健一氏
石川地区の民放テレビ4局(KTKテレビ金沢、HAB北陸朝日放送、MRO北陸放送、ITC石川テレビ)の共同キャンペーン「#WAKUをこえろ!」。公式SNS同士の連携に始まり、同時生中継や番組同士の相互乗り入れなど、文字通り局や系列の“枠を超えた”取り組みが注目されている。
ローカル局としては異例の規模となるコラボ企画。はたして、どのようなきっかけから誕生したのか。そして気になる中身と反響は──。本記事では2回にわたり、企画の中心メンバーにインタビューする。
前編となる今回は、企画立ち上げの経緯から実施の内容までにフォーカス。株式会社テレビ金沢 常務取締役 編成局長・佐藤政治氏、同編成局 編成部長・北尾美和氏、北陸朝日放送株式会社 編成局 総合編成部長・金子美奈氏、北陸放送株式会社 編成業務局 テレビ編成業務部長・園山智之氏、石川テレビ放送株式会社 編成業務局次長兼編成部部長・畝村健一氏にお話を伺う。
■「石川地区全体のPUT(総個人視聴率)を上げたい」危機感から生まれた4局タッグ
──「#WAKUをこえろ!」の概要について教えてください。
北尾氏:「#WAKUをこえろ!」は、石川県内の民放テレビ4局がお互いの局の垣根を越えて展開するコラボキャンペーンです。各局のアナウンサーがそれぞれ自社以外の局の番組に出演するほか、共通テーマによる番組の同時放送、またMROさんではラジオへの出演、SNS展開など、テレビの枠すらも超えて盛り上げる企画となっています。
──4局の大々的なコラボは今回初とのことですが、どのような経緯から企画が生まれたのでしょうか?
佐藤氏:大本のきっかけとなったのは、私がテレビ金沢の編成局長に就任後に行わせて頂いた“ご挨拶”からでした。
2021年の6月に日本テレビからテレビ金沢に出向となり、編成局長を担当させて頂くことになったのですが、日本テレビでは視聴データを扱う部署にいたことから、まず手始めに石川県内のテレビ視聴率データを精査するところから始めました。すると、県内のPUT(総個人視聴率)が他の地域に比べて低いことがわかったのです。
これは何らかの形で底上げを図っていかなければいけない、と。そのためには一局だけの取り組みではいけないと思い、MROさん、HABさん、石川テレビさんへご挨拶に伺わせていただき、何か一緒に取り組みが行えないかと呼びかけをさせていただきました。
金子氏:最初は勉強会という形で、なぜ石川地区のPUTが低いのかをみんなで研究するというところからのスタートでしたが、そこから自然に「ここからどうするか」という話になり、「力を合わせて何か一緒に企画ができないか」というムードが高まっていきました。
まずはお互いの社内を説得する材料となるデータを集め、PUTの全国順位など、目標となる数字を設定しました。そのうえでディスカッションを繰り返しながらイメージを積み上げ、「まずはSNS同士のコラボから実績を作っていこう」と、ひとつずつ歩みを進めていきました。
畝村氏:各局の担当者が最初に一堂に会したのが2021年の6月、そこからさまざまな準備や調整を経てSNS企画が動き出したのが2022年4月、その後しばらく期間をおいて12月に番組上でのコラボ企画がスタートしました。
■有名“ご当地体操”を4局異なる演出で同時放送、ラテ兼営を活かした企画も
──実施された主な企画について教えて下さい。
畝村氏:最初に実施したSNS企画では、4月21日の民放の日にあわせて「#WAKUをこえろ!」の前段となる合同企画のスタートを各局のSNSで告知し、お互いの会社紹介やアナウンサーによるリレー朗読、「絵しりとり」などの企画を公開しました。
園山氏:その後、12月1日に地上波での合同企画のキックオフとなる番組を4局で一斉に放送しました。18時30分頃に各局がそれぞれの番組内で「#WAKUをこえろ!」の告知を行い、その後、18時31分から一斉に、金沢市民なら誰でも知っている集団演技「若い力」を各局のアナウンサーが披露するVTRを放送しました。
大事なことは何度でも……ちゃんと言いますっ‼️
— テレビ金沢【公式】📺 (@tv_kanazawa) December 1, 2022
◤#WAKUをこえろ◢
ついに、地上波で始動!
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📣いよいよこのあと午後6時30分から
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石川地区民放テレビ4局が同時生放送✨
チャンネルを変えながらお楽しみください📺#テレビ金沢 #HAB #MRO北陸放送 #石川テレビ https://t.co/2Z5ezbjc4I
──同じ内容が4局一斉に放送されたのですか?
園山氏:同じ踊りですが、演出は各局ごとに趣向をこらしたものを放送しました。舞台となる場所も、たとえばMROは局のロビー、テレビ金沢さんはスタジオから、HABさんは局の屋上から、石川テレビさんはドローンを使用し上空からといったように。どのチャンネルからも同じ「若い力」の音楽が流れているのですが、見せ方がすべて違う、というように、テレビの枠を超えた楽しみ方をお届けしました。
その同時生放送から熱が冷めないうちに、今度は12月6日、MROラジオのスタジオに4局のアナウンサーが集合し、昼ワイド番組「おいね★どいね」(毎週火〜金曜13:00〜)に生出演して、再度「#WAKUをこえろ!」の企画告知を行いました。
──普段テレビで見かけるアナウンサーたちのトークをラジオでも楽しめるというのはユニークな企画ですね。
園山氏:ラジオでの放送でしたが、当日はスタジオにテレビカメラを入れて出演の模様を収録し、MROが幹事となって他の3局さんに映像素材を配布しました。素材はそれぞれの番組で自由に使って頂ける形にし、各局さんではそれぞれニュースとして取り上げていただくなど、PRに活用していただきました。
■新聞ラテ欄を4局同じ文言で統一、人気番組間の“相互乗り入れ”も
──他にはどのような企画が行われましたか?
北尾氏:今年3月29日に4局同時生放送企画として、景勝地として知られる兼六園のそばにある桜の名所「石川橋」の風景を各局のニュース番組内で同時に中継するという企画を行いました。
この同時間帯、各局のラテ欄をすべて「石川4局同時生放送」という文言で揃えました。文字のみならず、行数もすべて一緒。本当に細かなこだわりですが、こうした取り組みも企画の一つとして視聴者のみなさんに面白がっていただき、「なにやら石川のテレビ局が合同で何かやるらしいぞ」と興味を持っていただくきっかけになればと考えました。
園山氏:各局のワイド番組、ニュース番組を中心として「番組間コラボ」にも取り組みました。MROでゴールデンタイムに放送しているバラエティ番組『絶好調W(ダブル)』(毎週水曜19:00〜)に各局のアナウンサーのみなさんをお招きして「どの局がもっとも食レポが上手いか」を競う対決を行いました。当日の放送のために事前のロケにも参加いただきました。
畝村氏:「それぞれの局の看板番組に相互乗り入れしよう」という趣旨で、ゴールデンタイム・デイタイムのさまざまな番組に各局のアナウンサーが出演しました。石川テレビでは平日朝のワイド番組『石川さん情報Live リフレッシュ』(毎週月〜金曜9:50〜)の「電話で買いまshow!」という人気コーナーで各局の皆さんと生コラボ企画を行いました。
このコーナーは、番組に参加した視聴者の方が中継先の「バイヤー役」アナウンサーに電話で買い物を指示し、購入金額が8,000円以上10,000円以下に収まれば購入した商品をプレゼントするという内容でHABさんとのコラボでは視聴者の方に代わってHAB・下田武史アナウンサーが参加しました。見事的中させて視聴者の方に商品がプレゼントされました。番組としても非常に盛り上がり、通常回に比べて非常に高い視聴率を記録しました。
同時生放送によって局ごとのカラーを浮き立たせつつ、各局の人気番組間の“乗り入れ”で双方の視聴者を送り合うなど、インパクトに満ちた試みで石川エリアのテレビ全体を大きく盛り上げた「#WAKUをこえろ!」キャンペーン。続く後編では、系列やカラーの異なる局同士による一斉コラボ実現までの課題、そして実施によって得られた反響、効果について掘り下げる。
データに現れた「これまでにない視聴習慣」 〜石川・民放テレビ4局共同キャンペーン「#WAKUをこえろ!」インタビュー(後編)