TVer、組織改編でコネクテッドTV専門チームを立ち上げた狙い
編集部
左から菅野一樹氏、柴崎孝仁氏、雨谷祐輔氏、若林紘大氏、川原隆弘氏
2022年7月、株式会社TVer(以降、TVer社)では組織改編を実施。コネクテッドTV(インターネットに結線されたテレビ)への対応に特化した専門チーム「サービス事業本部内 コネクテッドTVタスク」が誕生した。
株式会社インテージが、2025年には日本で稼働するテレビの4割を占める見込みと発表するなど、視聴環境として急速に浸透しつつあるコネクテッドTV。これまでもスマートデバイスと並んでテレビアプリの開発も進めてきたTVer社だが、今回コネクテッドTVに特化した専門チームを立ち上げた経緯とは何か。
今回、同社 サービス事業本部 コネクテッドTVタスクの柴崎孝仁氏(タスクマネジャー)、雨谷祐輔氏、菅野一樹氏、若林紘大氏、川原隆弘氏にインタビュー。さまざまな出自を持つメンバーの横顔から、チームとして目指すミッションまでを聞いた。
■2025年にはテレビの4割がコネクテッドTVに。“一大領域”として対応するための専門チーム設置
――今回専門部署として立ち上がった「コネクテッドTVタスク」ですが、誕生にあたってはどのような背景があったのでしょうか。
柴崎氏:背景として第一にあったのは、なんといっても昨今のコネクテッドTVの急速な普及です。インテージによると現在テレビ受像機の3割がコネクテッドTV、2025年にはさらに4割へと成長する見込みという調査結果が出ています。また、TVerが行った調査によると、15‐69歳の男女の内42.4%がコネクテッドTVで視聴しているという調査結果が出ています。
コネクテッドTVの普及率の増加も伴い、テレビ業界のビジネスをより発展させていく中で、これからは配信にも力を入れていく必要があり、スマートフォン・タブレットやPCとは別に、コネクテッドTVを独立した領域として切り出し、専門的に対応していこうと、チームが立ち上がりました。
雨谷氏:専門チームとして独立したことにより、よりスムーズに事業を進めていけるようチームの方である程度判断できる権限が得られるようになりました。普及のスピードを速めていくコネクテッドTVに対し、開発のスピード感をより高めていくということも、チーム立ち上げにあたっての大きな狙いとなっています。
――いま現在、TVerにおけるコネクテッドTVの利用比率はどのくらいなのでしょうか。
柴崎氏:現在、全再生数の中の約3割をコネクテッドTVが占めています。デバイスの比率では、2022年9月の時点でPC11.2%、スマートフォン・タブレット59.6%に対してコネクテッドTVは29.2%とPCの3倍近くにのぼり、大きな存在感を発揮しています。
TVerでは2019年4月のFireTV対応を皮切りに、SONYを始めとしたテレビへの実装など対応端末の拡充を進めており、「コネクテッドTVでTVerを見る」方々が今後も加速度的に増加していくものと考えられます。
■TVerなら「チューナーレステレビ」にも地上波コンテンツを届けられる
――「コネクテッドTVタスク」が部署として掲げる目標は何でしょうか。
柴崎氏:コネクテッドTVにおけるTVerの“出面”を増やすことです。再生数を上げることはもちろん、テレビ受像機メーカーと提携し、リモコンにTVerへのアクセスボタンを設置してもらうなど、視聴者の方々が最短距離でTVerにアクセスできるようにするための導線作りにも積極的に取り組んでいます。
――ネット動画配信サービスなど「テレビで見るもの」の選択肢も格段に増えたなか、TVerを選んでもらうための施策を進めているのですね。
柴崎氏:コロナ禍が始まった2020年3月、外出自粛の広まりもあって地上波の視聴率は爆発的に伸びましたが、同時にテレビへの接し方もこれまでとは違った形へと変化しました。地上波を楽しむこと以外に、配信サービスでコンテンツを視聴するなどの選択肢も増えてきたことで、コンテンツそのものも「見たいときに見たいものを見る」形へと変化しました。いま、いかに“この選択肢”の中に、TVerというサービスを選んでいただけるかが重要になっています。
中には、コネクテッドTVの登場によって、地上波から配信へと視聴者が完全に切り替わるイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際にはテレビコンテンツを配信で見るといった方が積み重なって、視聴者層全体は大きく広がり続けている状態です。これからは視聴時間において配信で視聴する割合が増えていくと予想されるため、ここをマネタイズにつなげられるよう、コネクテッドTVでの視聴者や再生数を伸ばしていきたいと考えています。
――コネクテッドTVの領域におけるTVerの“強み”とは何だと思いますか?
菅野氏:最近、地上波の受信機能を持たない「チューナーレステレビ」が登場し、話題となりましたが、このように「物理的に地上波が見られない環境にある」方々に向けてもTVerはコンテンツを届けることができます。ある意味、「いろんなものを“テレビ”にできる」という点がTVerの大きな強みではないでしょうか。
雨谷氏:長年地上波で積み重ねてきたコンテンツ資産をそのまま活かせるという点は、大きな強みであると思います。放送局に近いサービスとして、TVerにしかできないことがたくさんあるはずです。
菅野氏: TVerによってテレビの新たな見られ方も生まれています。TBSテレビの朝のバラエティ番組『ラヴィット!』(毎週月曜〜金曜 8:00〜)では、その日生放送されたものをTVerで見逃し配信していますが、「生放送を好きな時間に見る」という楽しみ方は想像以上にニーズがあり、私の周りでも「あえて夜に見る」という人が見かけられます。
この番組では生放送の時間帯に限らず1日を通してSNSでのつぶやきが盛んです。視聴者は、テレビを見ながらスマートフォンを片手にコミュニケーションをとる「共視聴」を楽しんでいると言えるでしょう。そういった意味でも共時性が高く、大画面での視聴を前提に作られた地上波コンテンツをいつでも好きなときに見られるTVerはコネクテッドTVと相性が良く、大きな強みを持っています。
■クロスデバイスでCMコンバージョンを計測。共視聴者から“隠れ購買層“発掘も
川原氏:TVerに流れる広告は、地上波での放映を前提としたクオリティで制作されています。考査も地上波に準じた厳正なものとなっており、巷のネット広告のようにきわどいCMが流れることはありません。コンテンツにおいても同様であり、広告主のみなさまには安心して出稿をいただくことができます。
――コネクテッドTVにおける広告媒体として、TVerにはどんな可能性を感じますか?
川原氏:TVer IDの導入により、異なる視聴デバイス間でもユーザーデータを連携できるようになりました。今後は、視聴者がコネクテッドTVで広告を見たあとにスマートフォンで検索した割合など、広告に対するより具体的なコンバージョンをとることも可能になるでしょう。
【関連記事】TVer、「TVer ID」の開始で広告体験とコンテンツ体験を最適化
柴崎氏:「男性用シャンプーのCMを見た方が家族やパートナーのために商品を購入する」など、実際のターゲット層とは異なる、コネクテッドTVが持つ共視聴環境ならではの“隠れ購買層”が浮かびあがることも考えられます。これまで地上波が強味としていたリビングデバイスの特性に加え、ターゲティングの精度も高めたマーケティングが行えるようになるという点で、コネクテッドTVは放送局としても大きなビジネスチャンスの場になっていくのではないでしょうか。
■各局から集結した技術者が高速でTVerを進化させる「刺激的な環境」
――さまざまな放送局から技術のプロフェッショナルが集結しているという点でも、「コネクテッドTVタスク」は非常に特徴的なチームです。実際に日々業務に取り組むなかで感じていることがあれば、教えてください。
雨谷氏:TVer社へ各局から技術のプロフェッショナルが集まっているという環境はとても刺激的で、「他の局さんはこのようにやっているんだ」という発見にあふれています。この先出向が終わって局に戻っても、この関係性はずっと続いていきそうです。
菅野氏:これまで基本的に現場に張り付く仕事でしたが、TVer社に出向してからはリモートワークが中心となりました。一緒にお仕事をしているベンダーの担当者さんの中にはリアルでまだ一度もお会いしたことのない方も多いのですが、それでも何の問題もなく業務が回っているのはとても新鮮な気分です。それぞれの業務領域がしっかりと明文化されており、それぞれ自分たちの業務に専念できる体制が整っていることも大きいと思います。
川原氏:それぞれメンバーが担当する業務を尊重し合う風土がある点も、非常に働きやすさを感じるポイントです。TVerにはお互いを“褒め合う”文化があるので、ふと考えたアイデアも気軽に出しやすく、それが新たな機能やサービスにもつながっていると感じます。
若林氏:「TVerをどう成長させていこう」という前向きな空気が全社に満ちているのが素敵ですね。これまで所属していた組織では機能を一つ追加するのに年単位の時間が掛かることもめずらしくありませんでしたが、いまはささいなアイデアひとつでも「まずはやってみよう」と驚異的なスピードでサービスに反映され、フィードバックが得られるので、とてもやりがいを感じます。
■あらゆるデバイスで「見たいテレビ番組をすぐ見られる」環境を
――今後、コネクテッドTVをどのように進化させていきたいですか。
川原氏:共視聴の魅力を体験できる仕組み作りを進めて行きたいです。みんなで集まって楽しめるライブイベントをもっと進化させて、「みんなで集まらないと見られない」コンテンツを生み出すことができれば、よりコネクテッドTVの楽しみ方が広がると思います。
柴崎氏:放送と配信の今後を見据えつつ、最終的には、コネクテッドTVにおけるTVerのポジションがいまの地上波と同じような存在になることが理想です。現在のテレビ視聴者数を1.1億人とすると、今後結線率が50%に達すれば、5000万人以上がコネクテッドTVを楽しめることになります。リモコンのボタンを押したり、音声認識等でも、いつでも見たい番組にアクセスでき、生活者の一部にTVerがある未来を作りたいのです。
もっと極端なことを言えば、いつかはコネクテッドTVすらも「これまでのテレビの見られ方」として過去のものになる日が来るかもしれません。生活者が「見たいときに見るコンテンツ」の選択肢にTVerがあがり続けるためにも、コネクテッドTVに限らず、テレビ以外のあらゆるデバイスにテレビコンテンツを届けていくという視野を持って取り組んでいきたいと思います。
■視聴者に応援され続け、テレビ業界全体の底上げにつながるサービスでありたい
――最後に、みなさんがTVerにかける思いをお一人ずつ聞かせてください。
雨谷氏:放送業界を盛り上げるツールとして、TVerを盛り上げていきたいです。技術の力で、メディアとしてのテレビをサポートしていきたいと思います。
柴崎氏:少しでもテレビコンテンツの魅力を伝えられる環境を整えることが、目下のミッションと考えており、ユーザーや広告主様からTVerを選んでいただけるサービスにしたいと思います。
菅野氏:巷では若者のテレビコンテンツ離れなど囁かれることもありますが、動画共有サービスなどで、いま人気を博しているコンテンツの多くは、かつてテレビでやっていたようなことが多いので、テレビコンテンツそのもののパワーは然程変わっていないように思います。それをいかに届けていくかが重要で、そのためにも使いやすさを阻む障壁を少しでも技術の力で減らしていきたいと思います。
若林氏:これまで放送局が個別に展開していた見逃し配信を一つの枠組みに束ねたという意味で、TVerが果たした役割は大きいと思います。今後、TVerの成長は、放送局全体の底上げになっていくはずです。いま、TVerで番組が配信されると、SNSには「配信してくれてありがとう」という声が多く寄せられます。これまで番組を見られることが“当たり前”とされてきた地上波の人間としては、配信そのものを喜んでいただけることが驚きであり、大きなやりがいを感じます。TVerは、ユーザーのみなさんに応援され続けるサービスでありたい。いただく期待を裏切らないためにも、UIを整備し、いかに使っていただきやすくするかを考え続けていきたいと思います。
川原氏: チューナーレステレビでも番組が視聴できるように、「放送波が届かないところにもテレビコンテンツを届けられる」ことがTVerの強みであると考えています。解決しなければならない問題は多いですが、いずれは海外へもコンテンツを届けられる日が来るのではないでしょうか。このような大きい取り組みを実現するためにも、各局の人間で構成されたチームの絆を業界全体に広げ、放送局同士の強い絆へと育てて行けたらと思います。
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