「紙テープに打刻」から始まった 視聴率調査 ビデオリサーチ60年史インタビュー(前編)
編集部
2022年で創立60年を迎えた株式会社ビデオリサーチ。日本でカラーテレビの放送が始まって間もない1962年にテレビ視聴率の調査会社として産声を上げて以来、テレビの視聴スタイルの変化や衛星放送、ハイビジョン、地上波デジタルなど、テレビを取り巻く環境の変化への対応しながら歴史を重ねてきた。
現在、同社のコーポレートサイトでは「ビデオリサーチ60周年の歴史」と題して、創立年である1962年から2022年にかけての流行をモチーフにしつつ、各時代において取り組んできた施策の数々を紹介する特設ページを開設。同時に2022年、CIVIの刷新や組織の改革を行った。
今回は前後編に分けて、ビデオリサーチの“これまで”と“これから”に密着。前編となる今回は、株式会社ビデオリサーチ コーポレートユニット コーポレートコミュニケーショングループ グループマネージャー(取材時)の亀田憲氏へインタビューし、同社が歩んできた歴史をひもとく。
■テレビ黎明期の1962年、「国内企業による公正・中立な視聴率計測」を目指して設立
――日本のテレビとともに歴史を重ねてきたビデオリサーチですが、設立はどのような経緯からだったのでしょうか?
亀田氏:「ビデオ・リサーチ」(現ビデオリサーチ)設立のきっかけは、国内企業による第三者性を担保した視聴率調査を求める機運の高まりからでした。
1957年に外遊から帰国した当時の電通社長・吉田秀雄氏が、テレビが広告媒体としての価値を飛躍的に高めると予測して視聴率調査の機器開発を命じました。ただ、ビデオ・リサーチ(現ビデオリサーチ)設立前に、日本ですでに外資系の視聴率調査会社が日本進出していました。そこで、「日本のメディアの価値を規定する視聴率調査を外資企業のみに任せておいてはいけない」という信念のもと、特定の放送局や広告主に依らない中立・公正な視聴率調査を行う企業として、当社が設立されました。
――「中立的な立場で視聴率計測を行う機関」が第一の趣旨だったのですね。
亀田氏:ビデオリサーチの60年は、中立性と公平性を守り続けてきた60年でもあります。第三者機関だからこそできること、求められることがあるはずだ、という思いは、現在もぶれることなく受け継がれています。
その吉田氏が発起人となって設立された当社ですが、電通が自社事業としてあえて展開しなかったというところにも、その本質が現れています。
大手広告会社である電通が直接視聴率を計測すると、どうしても「自分たちの関わる番組をよく見せるのではないか」という疑念が生まれてしまう。第三者としての中立・公正な立場で視聴率を測るべく、あえて中立的な立場を持つビデオリサーチという会社を設立したのです。公正性、中立性はビデオリサーチの存在価値そのものであり、当社のDNAとして現在も根底に流れ続けています。
■当初は「週1、紙テープを回収、集計」。視聴環境とともに進化したビデオリサーチの視聴率計測
――カラーテレビから衛星放送、ハイビジョン、地上波デジタルと、60年の間にテレビを取り巻く環境はめまぐるしく変化してきました。
亀田氏:ビデオリサーチの歴史は、視聴環境やメディアの変化の歴史でもあります。メディア環境が変化するたびに、その視聴実態を測定できるようにしてきました。
――この60年で、ビデオリサーチの測定はどのように進化し続けてきたのでしょうか。その歴史を教えていただければ幸いです。
亀田氏:ビデオリサーチの視聴率計測は、紙テープを用いた機械式のものから始まりました。その機械を対象世帯に設置して、設置した世帯のテレビの視聴情報を紙テープに打刻(記録)するという方法です。そのテープを週に1度、調査員が回収し、それら対象世帯分のテープをテレビ視聴率自動集計装置と呼ばれる機械で読み込み、集計するというもので、当時は画期的な測定器であり、システムでした。そこから印刷して、毎週金曜日にその週の視聴率をまとめて発表していました。
その後、テレビがメディアとしてのメジャーになっていくにつれ、「視聴率を早く知りたい」というニーズが大きくなりました。そこで登場したのが、電話回線を用いた、つまりオンラインによる収集方法で、それに対応する機器を開発しました。これにより放送の翌日には視聴率がわかるようになり、1977年、関東地区の日報化が実現しました。また計測対象のテレビも1世帯あたり1台から3台へと拡大しました。
――計測可能なテレビの台数が増えるというとことに、テレビが家庭のものから個人のものへと変化していく流れが見て取れますね。
亀田氏:広告やマーケティングにおいて、個人データへのニーズが高まってきました。そこで、個人単位での視聴率測定器を開発しました。専用のリモコンのボタンを押すことで誰が見たのかまで測定できるようにすることで、「どの世帯で見られていたか」に加えて、「誰に見られていたか」という「個人視聴率」をも測定できるようにしました(1996年)。そのタイミングで、「1世帯に1台」から8台まで計測できるようにしています。
――2011年から2012年にかけては地上波テレビのアナログ放送が終了し、デジタル放送へ一斉に切り替わるという歴史的な大転換がありました。
亀田氏:当時6,600世帯あった対象世帯において測定方法を一斉に変えなければならず、ビデオリサーチの歴史のなかでは乗り越えないといけない局面でした。当時、パソコンによるテレビ視聴や録画再生視聴が増えてきたことで、視聴の分散が生じ始めていました。この捉えられていなかったオーディエンスを捉え、テレビの正しい価値を把握するために、「PCテレビ」や「過去一週間に録画された番組の視聴(タイムシフト)」の専用の測定器を開発して対応していきました。
――現在ではパーセンテージによる視聴率だけでなく、実際の「視聴人数」の推計値も発表されていますね。
亀田氏:これまで地区ごとに細かなバラつきのあった計測仕様を徐々に統一していき、2020年より、全32の対象地区すべてを同じ調査仕様で計測できるようになりました。
おりしもネット動画が普及し、具体的な「視聴者数」でメディアの効果が測られるようになってきた昨今、「テレビだけがなぜいまだに視聴“率”でしか測れないのか」という声も上がるようになってきました。こうした流れを受け、ビデオリサーチでは、人口規模から実際に番組を見ていた「視聴人数」の推定にも対応し、テレビ、デジタルともに同じ基準で効果測定が行える素地を築きました。
■かつては社内に「テストキッチン」も。視聴率だけでない“調査会社”としての横顔
――視聴率調査のイメージが強いビデオリサーチですが、生活者の意識や行動を網羅したマーケティングデータ「ACR」など、総合的な調査会社としての顔もあります。
亀田氏:視聴率の裏には、必ず生活者の存在があります。視聴率専門の調査会社と思われがちなビデオリサーチですが、生活者に関するマーケティング調査も事業の大きな柱となっています。
生活者の意識や購買などの行動を調査する「ACR」(現ACR/ex)は、1976年から今現在にいたるまで継続して調査を行っているもので、テレビの接触はもちろん、好きな食べ物やブランドなど、日々の生活におけるあらゆる志向や行動を調査し、メディアと消費行動、意識等の関係性を明らかにすることができます。
かつては購買データを取得するため、店舗のレジと同じバーコードスキャナーを調査世帯に配布し、購入した商品を個別にスキャンしてもらうことで、広告と購買の関係をリアルに把握できる事業も行っていました。これらのデータをテレビの視聴データと結びつけることで、「この人はテレビを見てこの商品を購入した」という広告の効果や広告による態度変容がわかるようになったのです。
――視聴率だけでなく、生活者を取り巻く多角的な調査を当初から行っていたのですね。
亀田氏:キーパットを設備した集合テストルームや、マジックミラーを備えたインタビュールーム、食品の新商品を試食するテストキッチンも社内に備えていた時代もありました。視聴率調査で培った技術を応用したものとしては、キーパットと呼ばれる調査ツールで「面白い」と感じた瞬間をボタンで計測し、生活者がコンテンツやサービスに対して魅力を感じたポイントやタイミングを把握できるようにするなど、調査会社としてのレベルや質も大幅に向上させていきました。
とくに2000年代にさしかかってからは、「テレビだけじゃないビデオリサーチ」というコンセプトを前面に押し出す展開を加速させました。インターネットが普及し始めた1999年にはネット調査に特化した「ビデオリサーチネットコム(現・ビデオリサーチインタラクティブ)」を設立したほか、2014年「ACR」を拡充して「ACR/ex」とし、サンプル増と、1万5000項目もの調査に対応するなど、生活者データの総合企業としての性格がよりいっそう強くなっています。
――スマートフォンが進化し、テレビやデジタルをすべて含めた「マルチスクリーン環境」トレンドとなっていますが、ビデオリサーチとしては今後どのような取り組みを考えていますか。
亀田氏:現在は「テレビ×デジタル」を目下のテーマに掲げています。スマートフォン片手に動画を楽しむことが一般的となってきたいま、媒体を横断して「人単位」で行動を追跡できるシングルソースデータが業界としては求められるようになりました。
現在はソフトバンクとの協業で、スマートフォンやPCなどさまざまな媒体をひとりの人単位でトラッキングできるソリューション(es XMP)を展開しているほか、ニールセン社と共同で、広告キャンペーンのテレビのみの視聴者、デジタルのみの視聴者、そして組み合わせてリーチしたクロスプラットフォームの共通視聴者数を把握することができるようになりました(TAR)。
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■“時代の空気”とともにビデオリサーチ60年の歴史を振り返る特設ページ
――今回伺ってきたビデオリサーチの“これまで”を年代別に振り返ることのできる特設ページが開設されていますが、前編の最後に、このページの見どころをぜひお聞かせ下さい。
亀田氏:現在ビデオリサーチのコーポレートサイトで公開中の特設ページ『ビデオリサーチ60年の歴史』では、創立年である1962年から2022年にかけて、メディアの歴史と我々の歴史を一緒に楽しんでいただける構成となっています。
「音・映像メディア時代の幕開け」と題した1962〜1968年から「開かれたビデオリサーチへ」と題した2012〜2022年まで6つに分けられたコンテンツは、劇画調のタイトルからファンシーグッズ風の丸文字など、それぞれの年代の空気をイメージしたフォントやデザインを盛り込んでいます。こだわったポイントの一つですので、コンテンツはもちろんのこと、ここも含めてお楽しみいただければと思います。
後編では、株式会社ビデオリサーチ 代表取締役社長執行役員 望月渡氏にインタビュー。時代のニーズに合わせて様々な成長をしてきた同社がこの先目指す姿を探る。
「VR FORUM 2022」が11月29日から開催
今年も「VR FORUM 2022」が開催。
創立60周年にあたる今回は「生活者とメディアのダイバーシティを見つめる。」をテーマに掲げ、11月29日から12月1日にかけて、過去最大規模でのオンライン開催を予定されている。