カンヌで絶賛されたWOWOW『華麗なる一族』、海外バイヤーは日本ドラマの何に注目したのか?
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
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世界最大級のコンテンツ見本市MIPCOM2021(主催RXフランス)の開催地であるフランス・カンヌ現地で国際ドラマフェスティバルin TOKYOが10月12日に主催した「MIPCOM Buyers’ Award for Japanese Drama」授賞式に約80名の海外バイヤーが参加し、日本のドラマに関心が集まった。グランプリは『連続ドラマW 華麗なる一族』(WOWOW)、奨励賞は『イチケイのカラス』(フジテレビ)が受賞し、ノミネート作品を含めたそれぞれの作品に対して海外バイヤーはどう評価したのか。現地で取材した内容をレポートする。
■世界各国のバイヤー約80名が出席、会場は満席状態
例年フランス・カンヌで開催されている世界最大級のテレビコンテンツ見本市MIPCOMが2年ぶりに現地で開催され、12回目を数える恒例企画「MIPCOM Buyers’ Award for Japanese Drama」授賞式も現地で復活した。このイベントは日本の放送コンテンツの海外展開を推進する組織である国際ドラマフェスティバルin TOKYOがMIPCOMとの連携事業のひとつとして実施、国際ビジネスコンテンツマーケットで日本のドラマの認知度向上を図ることを目的に開催されている。
MIPCOM2021期間中、10月12日に開催された今年の「MIPCOM Buyers’ Award for Japanese Drama」はホテル・バリエール・ル・マジェスティック・カンヌを会場に朝食付きイベントとして展開し、世界各国のバイヤーやプロデューサー、関係者など約80名が出席した。コロナ禍の影響を受けて、世界各国で海外渡航が困難を有するなか、MIPCOM全体の参加者数は4,500人、バイヤー数1,200人と例年より半数以上縮小したが、「MIPCOM Buyers’ Award for Japanese Drama」の会場は満席状態。当初予想の参加者人数よりも大幅に増え、活気を見せた。
メインイベントの授賞式にはRXフランスのマーケット開発ディレクターのテッド・バラコス氏をはじめ、実際に番組を視聴審査した海外バイヤーも数名出席した。審査した海外バイヤーはMIPCOM参加者の中から見本市主催者のRXフランスが推薦した全13名。スイスのリサーチ会社THE WITやTVメディアからはフランスのM6 METROPOLE TELEVISION、アメリカのRED BARRE MEDIA、トルコのKANAL 7、ノルウェーのNRK、ディストリビュー大手のスウェーデンEccho Rightsなどが含まれた。
■「リメイクを含めて海外展開の可能性が十分にある」と講評
ノミネート作品はNHK『岸部露伴は動かない』、日本テレビ『コントが始まる』、テレビ朝日『7人の秘書』、TBSテレビ『TOKYO MER』、テレビ東京『アノニマス』、フジテレビ『イチケイのカラス』、WOWOW『連続ドラマW 華麗なる一族』、朝日放送テレビ『結婚できないにはワケがある。』、関西テレビ放送『大豆田とわ子と三人の元夫』、読売テレビ放送『ボクの殺意が恋をした』の10本。
海外バイヤーが事前に審査視聴し、「自分で買いたい」「自分のマーケットで紹介したい」という基準で選んだ結果、グランプリは『連続ドラマW 華麗なる一族』(WOWOW)、奨励賞は『イチケイのカラス』(フジテレビ)が受賞した。
審査員を代表し、オーストラリアのNINE NETWORK AUSTRALIA編成ディレクター兼バイヤー(イギリスおよびヨーロッパ担当)のGeraldine Easter氏は会場で受賞作をはじめ、ノミネート作品に対してこのように講評した。
「審査するのが難しいほど、素晴らしい作品が揃っていました。コロナパンデミック以降、心温まるコメディ作品は世界的なトレンドにあるなか、ノミネート作品にはコメディ作品も多く含まれていました。日本のドラマはウィットに富み、リメイクを含めて海外展開の可能性が十分にあります。受賞した『イチケイのカラス』は登場人物のキャラクターが印象的で、力強いメッセージがありました。『華麗なる一族』は著名な原作をドラマ化したもので、素晴らしいストーリーで推薦したい作品です」。
■字幕付きドラマの需要増、ダイナミックに変化する市場
Easter氏に日本のドラマ全般に対する海外展開の可能性について尋ねると「今は英語作品だけでなく、字幕付きのドラマを探している国が増え、ユニーバサルな物語はますます求められていくと思います」と答えた。これと同様の意見はイベント参加者から他にも寄せられた。
イギリスのSensethefuture Pictures社CEO&創業者のTeresa Potocka氏は「以前であれば外国語作品は吹替え版がマストでしたが、今は字幕作品にも需要があり、ダイナミックに変化しています。役者もストーリーも国を問わない傾向が高まっています。受賞した『華麗なる一族』は『サクセッション』(米HBO)と世界観が似ていますから、展開次第で海外市場で十分に受け入れられる作品だと思いました」と、日本のドラマの海外展開の可能性について具体的に語った。
また会場には日本の放送局と国際共同制作を計画するプロデューサーも参加していた。ルクセンブルクのZeilt productionsプロデューサーのEmmanuelle Vincent氏はその1人。「ルクセンブルクと中国が共同制作するケースも生まれ、アジア作品に興味を持ち始めました。日本のドラマはクオリティが高く、Netflixで日本の作品もチェックしています。どのように日本と共同制作ビジネスを進めることができるのか探っていきたいです」と話していた。このように日本の取引のきっかけを探る参加者も増えている。
イベントは約1時間半にわたり、10本のノミネート作品それぞれの紹介映像から始まり、授賞式に至るまで、その前後には参加者同士のネットワーキングの場としても活用されていた。以前は夕刻時間に立食スタイルで出入り自由の形式で開催されており、それと比べると着席スタイルで行われた今回は作品紹介の内容が伝わりやすい環境でもあった。途中退席者もほぼなく、熱心に作品紹介に耳を傾ける参加者の姿が多く見られた。多くの海外番組流通マーケットでオンライン開催が続くなか、こうしたリアルの場で日本のドラマをPRする機会は貴重である。