視聴率とはそもそも何なのか? ビデオリサーチ担当者が語る「3つの役割」
編集部
株式会社ビデオリサーチ テレビ事業局 テレビ事業部 事業計画グループ 小松結子氏
テレビ番組における視聴度合いを示す数値として、業界に限らず一般社会にも認知されている「視聴率」。以前は世帯単位で計測される「リアルタイムの世帯視聴率」を指すことが多かったが、近年は録画された番組の視聴状況を計測する「タイムシフト視聴率」、個人単位で計測される「個人視聴率」などが登場し、より詳細な指標が示されるようになり、用途も広がっている。
もはや当たり前のように存在しているこの「視聴率」、そもそもどのような目的で存在し、どのように計測が行われ、どのような用途に活用されているのか。本記事では基本に立ち返り、「視聴率とは何か?」という疑問について、株式会社ビデオリサーチ テレビ事業局 テレビ事業部 事業計画グループ 小松結子氏に話を伺った。
【INDEX】
・視聴率の趣旨・用途・計測方法について
・視聴率の種類と役割(1):「誰が番組を見ているのか」を示す視聴率
・視聴率の種類と役割(2):「いつ番組が見られているのか」を示す視聴率
・「そういえば……」視聴率に関するささやかな疑問
・テレビを“何人が見ていたか”がわかる ビデオリサーチの「新視聴率」
■視聴率の趣旨・用途・計測方法について
──視聴率とは、そもそも何なのでしょうか?
小松氏:視聴率とは、テレビの番組やCMがどのくらい見られているかを示す、ひとつの指標です。視聴率データには大きく3つの役割があります。
1つめは「今どんなことが関心を集めているのか」といった世の中の動向を表す、社会調査的な役割。
2つめは「どんな番組の、どんな部分がどのくらい見られているか」を示す、番組の制作や編成の参考としての役割。
そして3つめが、広告出稿社、放送局、広告会社が広告取引を行う際の共通指標としての役割です。視聴率が上がるということは「より広告を見る人が多い」ことを意味し、テレビや放送局の媒体としての価値が上がることにつながります。
──視聴率はどのようにして測っているのでしょうか?
小松氏:国勢調査のデータをもとに個人情報を特定しない形でビデオリサーチがランダムに抽出した世帯へご協力を依頼し、PM(ピープルメータ)と呼ばれる、世帯内の個人の視聴も把握することのできる測定機を設置して調査しています。国勢調査に加えて、当社独自の基礎調査も行いながら、調査にご協力いただく世帯や個人の構成がそのエリアの縮図になるようにしています。
──視聴率調査の対象となっている世帯数は具体的にどれくらいあるのでしょうか?
小松氏:調査エリアによって異なりますが、関東地区の場合は現在2700世帯を対象としています。
──テレビを見ているすべての人を計測しなくても、正確な視聴率を出せるのはなぜですか?
小松氏:すべてのテレビ所有世帯を調査するのは膨大な費用と手間がかかり現実的ではないため、ビデオリサーチの視聴率調査は一部の世帯を調査対象とする「標本調査」です。
先ほど、調査対象世帯はランダムに選んでいると申し上げましたが、ランダムと言っても、でたらめに選んだり、希望者の中から選んだりしているわけではなく、統計学の理論に基づいた系統抽出法を採用しています。
このような手法を用いることで、全員を調査しなくても調査エリアの縮図を示すことができます。
■視聴率の種類と役割(1):「誰が番組を見ているのか」を示す視聴率
──視聴率にはどのような見方があるのでしょうか?
小松氏:視聴率には、「誰が番組を見ているのか」「いつ番組が見られているか」という2つの視点があります。
──「誰が番組を見ているのか」を示す視聴率には、どのようなものがありますか?
小松氏:「誰が番組を見ているのか」という視点では、大きく分けて「世帯視聴率」と「個人視聴率」があります。
「世帯視聴率」はテレビ所有世帯のうち、どのくらいの世帯が視聴したかを示す割合です。
「個人視聴率」は、「調査世帯の4歳以上の人全員の中で、どのくらいの人が視聴したか」を示す割合です。個人視聴率はその名の通り個々人の視聴を捉えるので、性別・年代別・職業別などに分けて表すこともできます。
──世帯視聴率に加え、個人視聴率を計測することはどのようなメリットにつながるのでしょうか?
小松氏:「誰が」「誰と」番組を視聴していたかがわかるようになることで、テレビ局側はターゲットを明確にして番組の制作や編成に活かすことができます。営業面においても、クライアント(広告出稿社)が届けたいターゲットに応じた出稿枠の提案をするなど、より効果的なCMセールスに活用することができます。
──視聴率の単位である「%」は、何に対しての割合を示すものなのでしょうか?
小松氏:視聴率の「%」が指す数字の中身は、「世帯視聴率」と「個人視聴率」でそれぞれ異なります。
「世帯視聴率」のパーセンテージは、テレビを所有している世帯を母数として、どのくらいの世帯が視聴していたかを示す割合になります。各世帯の1人でもテレビを見ていれば、カウントの対象となります。例えば、上の図の例では、「5世帯中4世帯が見ていた」という結果になり、世帯視聴率は4÷5=80.0%となります。
一方、「個人視聴率」のパーセンテージは、調査世帯の中に住んでいる4歳以上の方を母数とし、その中でどのくらいの人が視聴していたかを示す割合になります。上の図の例では、調査対象の5世帯のなかに4歳以上の人が合計14人いて、そのなかで6人がテレビを見ていたこととなり、個人視聴率は6÷14≒42.9%となります。
ちなみに関東地区における個人視聴率の1%は、およそ42.2万人と推定されます。
──80.0%と42.9%では、ずいぶん違う感じがしますね。
上の例のように、同じ視聴実態であっても、世帯視聴率と個人視聴率では、示される数字の水準が変わります。
一般的に、個人視聴率の数字は世帯視聴率の数字より小さく出ますが、多くの人が在宅していて、家族でテレビを見ることが多いような時間帯(例えば、朝7~8時や夜19~22時くらい)は、世帯も個人も両方とも高く、世帯に対して個人の比率が比較的大きくなりやすいです。一方、深夜や早朝など、大勢でテレビを見ることが少ない時間帯は、世帯に対して個人の比率が小さくなりやすい傾向があります。
── 一般的にメディアで「視聴率」とされるものは、世帯視聴率・個人視聴率どちらですか?
小松氏:「ドラマの最終回の視聴率が20%」といったような記事を新聞やネットニュースで目にされたことがある方も多いと思います。これまで、メディアに掲載される視聴率は「世帯視聴率」が一般的でしたが、2020年4月にすべての調査地区で「個人視聴率調査」を開始したこともあり、現在は「個人視聴率」の活用が広まっています。
──個人視聴率の登場により、今後、世帯視聴率は用いられなくなっていくのでしょうか?
小松氏:個人視聴率の活用は広まっていますが、個人視聴率は世帯視聴率に「取って代わる」わけではなく、両方を見ることによってわかることもあります。
例えば、世帯視聴率が同じ2つの番組でも、それぞれの個人視聴率は異なっている場合、個人視聴率が高い番組の方が「世帯内で家族が一緒に番組を見ている」ということを示します。これは世帯視聴率と個人視聴率を両方計測しているからこそ、浮かび上がってくることなのです。
家族などがテレビを一緒に見ることを「共視聴」と呼びますが、番組やCMが共通の話題になるという点は、テレビが持つ大きな特徴・長所です。これを表現できる世帯視聴率の調査は、今後も続いていくと考えています。
■視聴率の種類と役割(2):「いつ番組が見られているのか」を示す視聴率
──「いつ番組が見られているのか」を示す視聴率には、どのようなものがありますか?
小松氏:「いつ番組が見られているのか」という視点では、3つの視聴率があります。
1つめが「リアルタイム視聴率」。放送と同時にリアルタイムで視聴している割合を示す指標です。一般的に「視聴率」と呼ばれているものは、これにあたります。
2つめが「タイムシフト視聴率」。これは、番組放送時刻から7日間以内(7日×24h=168時間以内)を対象に、どのくらいタイムシフト(録画再生)視聴されたかを示す指標です。基本的にテレビ局のタイムテーブルは1週間単位であることから、「次の放送」までの視聴を意識し、「7日間以内」としています。
そして3つめが「総合視聴率」。これはリアルタイム視聴とタイムシフト視聴のいずれかでの視聴を示す指標であり、番組単位での視聴の拡がりを示す指標となっています。
これまでも「録画して見たものも視聴率に含まれるの?」と質問をいただくことが多かったのですが、録画して後から視聴される度合いを「タイムシフト視聴率」として測定することによって、多様化している視聴を捉え、番組を多面的に評価することができるようになりました。
──視聴率は何分単位で計測されるのでしょうか。一瞬だけ番組を見ても、視聴率にカウントされるのでしょうか?
小松氏:現在、ビデオリサーチにおける視聴率の最小単位は1分です。1分間のうち複数のチャンネルを見ていた場合は、最も多く見ていたチャンネルを、その1分に見たチャンネルとしてカウントとしています。
■「そういえば……」視聴率に関するささやかな疑問
──すべてのテレビ局で視聴率は測られているのですか?
小松氏:地上波放送、有料放送の一部を除く衛星放送、CATVなど有線経路を利用した視聴も測定対象としています。ただし、局別の視聴率データを提供している局は限定されています。地区別の視聴率では各地区の民放、NHK総合、NHK Eテレのデータを局別に集計、提供しており、それ以外の視聴は「その他合計」として、まとめて提供しています。
──CMにも視聴率は存在するのでしょうか?
小松氏:ビデオリサーチでは、各局で放送されたテレビCMについても統計的にまとめています。具体的には「いつ、どの局で、どの広告主のどの素材のCMが流れたか」というデータを採録しており、これらと視聴率データを組み合わせることで、CMがどのくらい見られたかを把握することが可能です。現在、これらのデータは、自社のCM出稿だけでなく、競合他社を含めた動向の確認などにも広く利用されています。
──「いい視聴率」とは、具体的に何%以上を指すのでしょうか?
小松氏:視聴率は、時間帯によっても水準が異なります。深夜・早朝と夕方~夜の時間帯では在宅して起きている人の割合が異なりますし、昼間は仕事や学校で外出している方の割合も多くなります。そういった人々の生活行動に伴い、視聴率の水準も異なるため、一概に「何%以上がよい」と言えるものではないのです。
「ある日の番組や時間帯の視聴率がよかったのかどうか」を評価する場合は、その局における、対象時間帯の前4週平均(当週を含まない、前4週間のその時間帯の平均)の視聴率と比較することが一般的です。
つまり、「何%だったか」というよりも、その日の視聴率が普段と比較して高かったか、低かったか、また、見て欲しい性年代層が視聴していたかどうかなど、相対的、多面的な観点で「いい視聴率だったか、悪い視聴率だったか」を判断していると考えていただくとわかりやすいかと思います。
■テレビを“何人が見ていたか”もわかる ビデオリサーチの「新視聴率」
──ビデオリサーチでは、従来の視聴率計測に代わる「新視聴率」の計測を開始したと聞きました。「新視聴率」によって、今までと何がどのように変わったのでしょうか?
小松氏:従来行ってきた視聴率調査では、エリアによって調査の仕様が異なっていたのですが、「新視聴率」に移行してからは、全国どの地区でも同一に、52週(365日毎日)調査、PMによる個人視聴調査、タイムシフト視聴を含めた測定ができるようになりました。
2020年4月の「新視聴率」調査スタート時点では、対象エリアは全国27地区でしたが、2021年10月からはさらに5地区拡大し、日本の全放送エリアである32地区において、地区別の視聴状況を365日、個人単位で、タイムシフト視聴も含めてご提供できるようになりました。
これにより、すべてのエリアで視聴傾向をより正しく詳細に把握できるようになったほか、調査仕様が統一されたことによって、「全国で〇〇万人が見た」といったように、全国レベルでの推計視聴人数が示せるようになりました。具体的な例としては、2021年7月23日の夜にNHK総合で生中継された「東京2020オリンピック」開会式は、全国で推計7061万7000人に視聴されたことがわかっています。
このように、全国の推計視聴人数が示せるようになったことで、PV(ページ閲覧回数)やUU(ページ訪問者数)といった「数」で計測されているデジタル媒体の指標と同じ尺度で比較できるようになり、テレビの到達パワーをより具体的に把握できるようになりました。
── 最後に、視聴率調査における今後の展望を教えて下さい。
小松氏:テレビを見る経路・機器や「見られ方」が多様化するなか、その変化を把握し、今のテレビの価値を正しく示せるようにすることは不可欠です。視聴率調査においても、こうした要素を素早く反映する必要があると考えています。
また、冒頭でも挙げたように、個人視聴率で「誰が見ているか」を浮かび上がらせ、ターゲットを明確に分析できるようにするなど、視聴率を使う方々の目的に応じたものにしていくことも重要です。
最近ではスマホや(ネット結線された)テレビで、インターネット経由の見逃し配信サービスを視聴したり、放送コンテンツに限らない動画コンテンツを見たりという視聴スタイルも増えてきました。今後もさらに多様化するであろう視聴環境に、ビデオリサーチはこれからも対応していきます。