若者に広がるコンテンツファンの発信活動研究(その2)~発信活動の原動力とその影響を考える~
編集部
「若者におけるコンテンツのファンの発信活動についての実態研究」についての第2回になります。前回の記事では、ファン活動の中でも「発信」に注目する理由について説明しました。第2回の今回は、実際の事例をもとに、ファンによる「発信」について実態を深堀りしていきたいと思います。
■「コンテンツファンによる発信活動」の例
そもそも「コンテンツファンによる発信活動」とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
例えば、動画サイトやSNSなどでアイドルの名前で検索してみると、ラジオ番組や出演動画を切り抜いて、字幕などの編集を加えた動画が数々あります。他にも好きなアイドルのアピールポイントを画像にしてまとめた「ステマシート」や独自にグッズを制作してその写真をあげるなどいろいろな形での「発信」を見ることができます。また、アニメ・漫画・ゲーム等でもキャラクターのイラストを描いたファンアート・二次創作や、アイドルでの事例と同じく動画を切り抜いて編集したいわゆるMAD動画、ゲームをプレイの動画に声を載せる実況動画など、多くの発信活動がなされています。このように昨今では様々なプラットフォームの台頭により、素人でも手軽に世界に向けて発信することが可能になっています。
前回述べた通り「発信」は他のファン活動とは違い、コミュニティ内でなく外へ向けてのアクションなので、発信活動の理由とその影響を探り、うまく誘導してあげることでファン自らそのコンテンツのファンを獲得してくれるようになります。そこで我々は、コンテンツファンがどういった理由で「発信」を行っているのかという点に着目し、上述のような事例を集め、「コンテンツファンにとってのベネフィット」と「それ以外の人への影響」の2つの切り口に目を付けて整理・分析しました。
■発信・創作活動のベネフィットは?
まずは、コンテンツファンが発信・創作活動をすることでファン自身が得られるベネフィットから見ていきましょう。ファンが発信することによって、その発信したこと自体に対する感情の動きと、発信したことによって実際に自分が受ける恩恵の2つの面でベネフィットがあることが分かりました。ファンにとってのベネフィット、つまり「なぜコンテンツファンがその発信・創作活動を行うのか?」という理由は、これら「情緒的ベネフィット」と「機能的ベネフィット」を合わせて下記の計8パターンに分類されました。
これらは1つの事例に1つの理由が当てはまるわけではなく、複合的に表れてくる場合も多くあります。
情緒的ベネフィットでは、ほかのファン活動と共通して愛情・理解表現欲求や貢献欲求が原動力になるのと同時に、承認欲求も強く出ている事例が多いというのも「発信」の特徴でした。例えば、グッズを購入・収集することやファン同士で語り合うなどといった行動は、純粋にそのコンテンツへの愛情や理解を深めることを動機として行うことが多いです。一方で、字幕動画の作成やファンアートの創作等はもちろんコンテンツ愛が原動となってはいますが、自分でひと手間加えている分「誰かに見てほしい」というような承認欲求も同時に動機として挙がってきていました。
機能的ベネフィットに関しては、消費・収集やコミュニティ内交流などのほかのファン活動にはない「発信活動」に特有の部分であり、大いに注目すべき点であるといえます。
■ファン以外への影響は?
次に、ファンの発信活動がファン以外の人へ与える影響について考えていきます。事例から、影響は以下の5つにまとめられることが分かりました。
ここでいう「オリジナル」は、「公式コンテンツ・公式から発信されたもの」を指します。厳密に言うと、個別コンテンツ(作品自体や、作品内の配役・キャラクターなど)と出演者やシリーズ(個別作品・コンテンツの文脈外でも意味を持つ。俳優、アイドルなどの「人」など)という異なった視点がありますが、ここでは総じて「オリジナル」として括っています。
(例:ドラマ作品自体やドラマの役柄 / ドラマに出演している俳優やアイドル)
表の通り、発信活動それ自体がただのコンテンツとして消費されて終わるだけではなく、ファン以外の人に対して「オリジナル」に繋がるための架け橋になってくれていることがわかりました。
■まとめ
ここまでは、実際のコンテンツファンによる発信活動の事例から、ファンにとってのベネフィットと、ファン以外の人たちへの影響について分析してきました。今回のまとめとして、以下の2つのポイントがあげられます。
ポイント1 ファンの発信活動は"オリジナル"に貢献する
ファンの発信・創作活動は、ファンではない人たちにとってコンテンツの「認知経路」「興味関心のきっかけ」、既に認知や興味を持っている人や既存ファンにとっても「新たな魅力発見のきっかけ」となっていました。さらには消費行動の起点にもなり得る状況であり、ファン拡大に貢献しているといえます。
ポイント2 発信活動はファンにとって一様ではないベネフィットがある
なぜファンは発信・創作活動をするのか。そこには、情緒的ベネフィット、機能的ベネフィットそれぞれが存在しており、これが複合的に組み合わさっていました。
このように発信活動によるベネフィットが満たせられる状況にあるほど、ファンの発信は促進され、それによって波及的にファンが増えていくことが期待できるということになります。
次回は、これらの研究結果を元にコンテンツホルダーは何をすればいいのかを考えていきたいと思います。