若者に広がるコンテンツファンの発信活動研究(その1)~活発化する「推し」行動の背景と構造を探る~
ビデオリサーチ ひと研究所
ビデオリサーチひと研究所では、若者研究のための部署横断的に「若者研究チーム」を結成し、若者とコンテンツの関係について研究活動を進めてきました。若者研究チームでは、アニメやドラマ、ゲーム、アイドル、キャラクター等を今回の研究対象の主なコンテンツとして定義しています。 今回、若者がコンテンツにハマると、動画やSNSなどを用いて、様々な「発信活動」をしていることに注目をして研究した成果を、3回に渡って皆様にご紹介したいと思います。
■コンテンツビジネスにおける「第3の領域」
ここ最近、ゲーム実況動画、アイドルのまとめ動画、K-popアイドルの日本語字幕付き動画など、ファンによって作成され発信されたコンテンツがYouTubeやSNSに多くみられます。特に、若年層を中心に、こうしたファンが発信したコンテンツを通じたコミュニケーションが多くみられるようになっています。従来あったような、コンテンツの視聴、関連グッズの購入やイベントへの参加といった形でのコンテンツを消費(応援)することに加えて、自分たちの好きなコンテンツで「二次創作コンテンツ」やお気に入りのシーンの「コラージュ作品」 を作成し、発信することがファン活動の一つになってきているのです。
ここで、映像コンテンツを例に、生活者のコンテンツ消費行動をビジネス文脈で改めて考えてみます。
コンテンツという核を覆っているのは、コンテンツ自体の楽しむ「見る」領域です。テレビ放送など無料で視聴可能なコンテンツは広告がビジネスとなります。映画や動画配信などはチケット代や課金がビジネスとなります。ここ数年では、ドラマやアニメの放送に合わせて、有料の動画ストリーミングサービスでスペシャルストーリーを配信することなどが増えてきており、まさに「見る」領域でのビジネスがインターネットを前提に大きく変化している状況です。
続いて、コンテンツ視聴で獲得したファンのために展開されるのが「買う・行く」の領域です。コンテンツから派生した公式グッズの販売や、イベントの開催などがあります。この領域は、コンテンツビジネスとしての規模が拡大される領域で、コアなファンを作り、継続したファン活動をしてもらうための重要な要素となっていると言えます。
さらに、「買う・行く」領域で獲得したコアファンが、自分の好きなコンテンツを他の人にも薦めたいという気持ちから出てくるのが、「発信する」領域です。この領域は、コアファンが自分たちのファン活動として自主的に発信しているため、「見る」「買う・行く」領域とは異なり、"公式"があまり関わっていないファン活動の領域です。しかも、ファンによる活発な発信を見る限り、この発信の勢いはさらに強まっていくでしょう。ファン独自の感覚を尊重しながら、"公式"がこの領域にどのように関わっていける・活性化させることができるのかが、今後のコンテンツビジネスにおける新たなチャンスを見つけるキーになっていくと言えるのではないでしょうか。
■なぜ発信活動がここまで広がっているのか?
そもそも、なぜコンテンツのファンは発信活動をわざわざ行うのでしょうか。これについても、その理由を考えてみます。
一つには、「素人」発信の情報の価値が高まっていることがあります。口コミサイトやSNSによって、「素人」が情報を発信することのハードルが一気に低くなりました。口コミやSNSをきっかけに、新商品の情報を知ったり、購入を決めたりと、情報的価値を実感している人も多いでしょう。さらに、スマホで簡単に動画編集ができるアプリも増え、テキストでの発信と同じ感覚で動画の発信をしている人も増えてきました。こういった状況が、"自分も発信をしたい"という欲求を生み出していると考えられます。
また、同時に「推し」概念の登場も大きく影響しています。「推し」とは応援するアイドルを指す言葉から転じて、「好きなもの」を指す言葉として定着しつつあります。「推し」とは文字通り、まさに"推す行動"が中心になっていて、買う、投票する、表明する、参加するといった行動が伴う場合が多いです。その行動の中に、自分の好きなものをインターネットを通じて発信して「推す」という行動も入ってきているのです。
このように、「素人発信の価値化」「発信したい欲求」「好き=推し」という要素が組み合わさった結果、コンテンツのファンによる発信活動が活発になってきていると言えます。
■ファン活動としての発信は、どのような影響を与えているのか?
ファン活動と一口に言っても、さまざまな側面があります。
「推し」(アイドルやキャラクターなど)を純粋に応援したという「貢献」的な気持ちがファン活動の王道ですが、それ以外にも、公式的な派生グッズを「消費」し、派生・関連グッズを「収集」するというコレクター的な楽しみ方をするファンも多くいます。
また、YouTubeやSNSを通して、ファン同士での「交流」によって、ファンコミュニティを作っていることも多くあります。こういったコミュニティで、自分がコアファンであるという「帰属」意識も芽生えていきます。この貢献、消費、収集、交流、帰属は、ファンコミュニティの中で行われている活動です。
一方で、「発信」はやや様相が異なってきます。ファンによって発信されたコンテンツは、ファン以外の人との接点になり、新たなファンを作るきっかけにもなります。たまたまYouTubeやSNSでファン作成の動画を見て、そのアイドルの魅力を知り、そのアイドルの他のコンテンツを見てみたり、関連グッズやイベントを消費したりするきっかけになることがあるのです。つまり、コアなファンが、「推し」の魅力をYouTubeやSNSで発信することで、ファン以外の人たちにも伝わり、新たなファンが生まれるのです。発信活動によって、ファンが自分の「推し」の新たなファンを獲得するという現象が起きているのです。
■ファンによる「発信」が、コンテンツ波及の肝に
発信したいという欲求が「推し」の概念と結びつき、「好きなもの」に関して発信(推す)行為をSNSやYouTubeを中心に多くの人々が行うようになったのが現在のコンディションです。
逆に、コンテンツは推され、発信されるによって、どんどん人気は高まり広がり、コンテンツ波及消費が拡大していくことが期待できます。コンテンツを核としたビジネスを考える上で、ファン活動とその中での発信活動をきちんと理解することが、今、必要となってきています。
次回は、事例研究をもとに、ファンによる発信の実態を深掘りしていきます。