大人数リモート出演を実現!~Interop Tokyo 2021~「リモート出演システム TBS BELL」レポート
編集部
TBSテレビ 藤本剛氏
インターネットテクノロジーの最新動向とビジネス活用のトレンドを伝えていくイベント「Interop Tokyo 2021」が、4月14~16日にかけて千葉県・幕張メッセで開催。特別企画「Connected Media」では、放送業界の最先端の取り組みを紹介する専門セミナーが行われた。ここでは、株式会社TBSテレビによる「リモート出演システム TBS BELL」について紹介する。
登壇したのは、同社メディアテクノロジー局未来技術設計部の藤本剛氏。2020年、世界を襲ったコロナ禍は、様々な業界において困難な状況を生み出し、それはテレビ局も例外ではない。密になりやすいスタジオ収録では、出演者のリモート出演を多くするなど感染対策を進めた。
しかし、当時は既存のリモート会議システムで急場を凌ぎはしたものの、テレビ番組のクオリティで、番組制作にも活かせるリモート出演システムはなかった。そこでTBSでは「ないなら作ってしまおう!」という発想から、リモート出演システム「TBS BELL」の開発に着手。現在では様々な番組で使用されている。
■既存の会議システムはもどかしい。番組制作で使いやすいリモート出演ツールを!
コロナ禍による脅威が日本にも襲ってきた当初、TBSでは既存のテレビ会議システム、例えばSkypeやZoom、FaceTime、Webexなどのツールを使い、リモート出演の収録を行っていた。藤本氏は当時について、「これらは会議システムですので、放送で使うにはもどかしい部分がたくさんありました」と正直な思いを語り、例えば、ID表示で参加者の情報が見えてしまう、通話ボタンや設定アイコンなどが見える、マウスポインタが画面上に出てしまうなど、「放送事故ではないけれども、不体裁に近いこと」に悩まされたという。
このような状況において、「放送で使いやすい自由なリモート出演ツールが欲しい!」「社内のメンバーが集まって作ろう!」という機運が高まった結果、一気にシステムを構築。「このような形でテレビにいろんな人が出ることが、この1年で当たり前の光景になりました」と振り返った。
■番組制作側とリモート出演者の双方にとって使いやすいシステム「TBS BELL」
「TBS BELL」と名付けられたこのシステムは、AWS(Amazon Web Services)が提供している会議システム「Amazon Chime」に、無償提供されているSDK(Software Development Kit=パーツを組み合わせて開発に利用できるもの)を組み合わせることで、スピーディな開発を実現した。
「TBS BELL」の特長として紹介されたのが次の3つ。
① オーナー画面で様々な制御が可能
オーナー専用の操作画面を設計し、コンテンツ制作側が様々な制御を一括で可能にした。
② 放送用の画面を別ウィンドウで出力
マウスポインタなどの余計なものが表示されない、放送で使えるクリーンな映像を別ウィンドウに出力できる。
③画面レイアウトの自由度が高い
複数のレイアウトをコンソール上で切り替えられる。そのほか、ユーザーの接続が不安定になり映像が消えた時には、事前に指定した画像(フタ画像と呼ばれる)を表示することができる。
さらに、リモート出演者は、用意されたURLにWebブラウザからアクセスするだけで参加可能で、ID登録や専用アプリケーションのインストールなど、特別な操作は不要にした。そして、参加者同士では名前やIDなどが見えない形をとり、個人情報にも配慮した設計になっている。
■開発開始からわずか3カ月、番組生放送で利用された「TBS BELL」
「TBS BELL」はコロナ禍で番組の出演者がスタジオに来ることが困難になった2020年の4月にプロトタイプの開発に着手。藤本氏は「今までだったらあり得ないようなタイミングで、本当に時間がない中で、全力を傾けて作成をしました」と振り返った。
それからわずか3か月、7月に放送された『音楽の日2020』の生放送で、いきなり一般ファン250人以上のリモート出演を実現。アーティストのまわりを複数の画面が覆うようなスタジオセットが建てられ、「TBS BELL」を介して、これらの画面に日本中の視聴者がリモート出演することで“ライブ感”を再現した。
続いて「TBS BELL」は、9月に放送された『東大王』で200人によるクイズ対戦を実現、10月には『上田晋也のニュースな国民会議』で出演者とのクロストークの生放送を行っている。また番組だけではなく、アナウンサーと一般の子どもの交流イベントなどにも活用されているという。
■コロナ禍でより良いシステムを。そしてコロナ後を見据えたツール開発を目指す
セミナーの終盤に藤本氏は、「TBS BELL」の今後の課題と展望について語った。まずはシステム的な側面として、「音声の制御はまだ取り切れていません。放送に使うためには高音質化やフィルタ制御など独自の音声処理が必要」と語り、一方で、ただ高音質化を求めると利用者の通信環境が高いレベルで安定していることが求められるなど、システムの汎用性と専用性のバランスを取るのが難しくなるとした。
そして、今後の展望として、「1対1ではなく、多人数でつながることに価値があるということが見えてきました。例えば、1万人でつながることができる仕組みの構築もテーマとして考えています」と明かした。そして、当初考えていたよりもコロナ禍が長期化していることに触れ、「どこまで開発リソースを傾けるか、より長期的な視点で考える必要性がある」として、「コロナ後のリモートツールの形の模索も進めたい」と、次の時代を見据えた。