パーソナルタイムシフトに合わせた上質なエンターテインメント提供を!~Interop Tokyo 2021~「TVerの現在と未来」レポート
編集部
株式会社TVer 代表取締役社長 龍宝正峰氏
インターネットテクノロジーの最新動向とビジネス活用のトレンドを伝えていくイベント「Interop Tokyo 2021」が、4月14~16日にかけて千葉県・幕張メッセで開催。特別企画「Connected Media」では、放送業界の最先端の取り組みを紹介する専門セミナーが行われた。
ここでは、株式会社TVer(以下、TVer社)の代表取締役社長、龍宝正峰氏による「TVerの現在と未来~TVerが目指す動画ビジネスの未来~」の模様をレポート。急速なサービスの伸長と新たな展開を見せている民放公式テレビポータル『TVer』(以下、TVer)の現在地と、今後のコンテンツや動画広告についての説明が行われた。
■パーソナルタイムシフトに応じ、観たい番組を観たい時に観たい場所で提供
現在、約350番組を無料配信しているTVer。アプリのダウンロード数は3,600万を突破し、TVer単体のMAU(月間アクティブユーザー数)は1,600万を超え、再生数は1億8,000万回以上を記録している(いずれも2021年3月時点、ビデオリサーチ調べ)。サービスの認知率は61.3%(2020年12月時点、マクロミル調べ)となっている。
龍宝氏は「日本の中でメジャーなサービスとなってきている」と手応えを語り、「最適なタイミングに最適なチャネルで、本当にユーザーが観たいコンテンツを、デバイスの制約から解き放たれて自由に観る環境を作る」と、TVerの目的を改めて語り、キーワードとして「パーソナルタイムシフト」を打ち出した。
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■TVerならではのコンテンツ配信の取り組みを積極的に推進
「ユーザー増加の最大の要因は、配信コンテンツが充実したことだと思っています」と龍宝氏は言う。在京キー局だけで始まったサービスも在阪局やローカル局へと拡大しており、毎週350番組が配信されるようになったと説明。4月以降も配信コンテンツの数はさらに増える予定だ。
そして、放送直後の番組を配信するだけではなく、独自のコンテンツ配信方法も模索している。この春には「TVer アワード 2020」「バラエティ神回大集合!」「春の恋ドラマ特集」「小栗旬ドラマ特集」を特集した「TVerフェス! SPRING2021」を開催し、合計60タイトル300エピソードを展開した。これらの取り組みについて龍宝氏は、「この新しい枠組みは、(局を越えてコンテンツを提供できる)TVerだからこそできた企画」であると言う。
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■視聴デバイスが増えて再生数が大きく伸びる
ユーザーがコンテンツを楽しむ視聴デバイスの傾向として顕著なものが、テレビデバイスの伸長だという。TVerでも、2019年4月からテレビデバイスへの対応をスタート。現在では、SONYやSHARP、Panasonicなどのテレビ受像機をはじめ、Chromecast、Amazon Fire TV Stick、J:COMなどでアプリを展開し、再生数に大きく寄与しているという。TVerユーザー全体の中でテレビデバイスユーザーが占める割合も2019年10月の6%から21年3月には16.6%まで増加している。
龍宝氏は、「テレビの利用はこれからのキーワードになる」と述べ、テレビを通じたサービス拡大の可能性に対する期待をあらわにした。
そのほかの機能においてもユーザーから要望が多かった機能を順次付加してきた。昨年は倍速再生機能を昨年9月に実装、年末には縦型再生機能も取り入れたことを紹介した。
加えて4月にTVerは、J:COMが提供するTVサービス用チューナー「J:COM LINK」の新機種のテレビリモコンに初めてTVer専用ボタンが設置されたことを発表している。ワンボタンでTVerのアプリが起動するものだが、龍宝氏は「J:COMさんの社内で、ユーザーの利便性を考えた時に、TVerボタンの必要性を感じていただけたそうです。このように協力をいただき、ユーザーがより使いやすいサービスにしていただくことはとてもありがたく考えています」と、新たな展開の意義を語った。
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■民放キャッチアップ広告は、広告主とユーザーを結びつけるコミュニケーションを生む
セミナーの後半では、民放キャッチアップ広告の特徴について紹介。龍宝氏はまず、生活者のメディア接触時間の現状について、テレビは減少しスマートフォンが増えているが、メディア接触時間そのものは年々増加していると紹介。
「24時間という限られた時間を奪い合う状況」と言い、デジタル上でのコミュニケーションは「より短い時間でいかに印象を残すか」が重要なポイントになっている指摘。動画配信メディアの短尺広告メニューは6秒で、Twitterで1ツイートが見られる平均秒数はわずか1秒であることを踏まえ、「広告の伝え方が変わっている」と伝えた。
これらを踏まえた上で龍宝氏は「TVerは、音声ありの完視聴率が85%ある」という強みをアピール。「我々が目指すのは、15秒や30秒といった尺で、しっかりとメッセージを伝えられるCMだと思っています。ユーザーにメッセージを理解してもらえれば、持続的な成長が可能になるのではないか」と語った。
そこで龍宝氏は、TVerのCM視聴状況を紹介。ビデオリサーチのデータでは60%以上が専念視聴しているという結果が出ており、そのためもあって、30秒CMでも90%以上の視聴完了率というほかの無料動画投稿サイトと比較しても、非常に高いエンゲージメントを得られていることが示された。もともとCMが入る想定で制作されたテレビのコンテンツであるため、「違和感や嫌悪感なくCMが受け入れられているのだろう」と分析した。
続けて龍宝氏は、TVerの広告について「Brand Engagement Media」というキーワードを示し、「我々が、広告主の皆様のブランディングとユーザーの皆様の思いを結びつける、きっかけ作りに役立てるのではないか」と考えを明かした。
TVerがサービスを開始した2015年度、広告出稿企業数は60社であったがその後5年間で順調に増加し、2019年度には1,200社以上にまで達している。龍宝氏は「この数字はさらに増えており、広告主の注目が高まっていることを実感しています。今後もさらに増やしていけるよう提案を続けていきたい」と今後の抱負を述べた。
■非常に精度の高いターゲティングが可能となる「TVer広告」
TVerの広告の特徴は、TVerで配信されるコンテンツだけではなく、各局がネット配信している番組やオウンドメディア、GYAO!などのシンジケーションサイトなどの在庫も合わせたセールスが行われていることだという。
また昨年11月からは、TVer自身による放送局をまたがった在庫を使ってのセールスも開始している。龍宝氏は「TVerだからこそできる、例えば“小栗旬ドラマ特集”のような、コンテンツをまたがった商品設計の可能性を持つサービスです」と、その特殊性について語った
そしてTVer独自の広告商品である「TVer広告」についても説明を加えた。TVerが保有する独自のデータや、外部データと連携した多様なターゲティングが実現できるもので、特にアプリから取得できる生年月、性別、郵便番号といった属性データは、正解率が93.7%(ビデオリサーチ社調べ)と非常に高く、精度の高いターゲティングが可能だという。
このデータによるターゲティングは各局の予約型とTVerがセールスする商品のみの取り扱いとなるが、龍宝氏は「今後このようなファーストパーティデータは、より貴重なデータになる」と「TVer広告」の強みを述べた。
■TVerは、放送局と一緒にテレビの未来を作っていく
セミナーの終盤に龍宝氏は、「TVerのこれから」として7つのポイントを挙げた。
まずは同時配信への準備。「放送局が同時配信を始めるときのために、準備を進めておきたい」と語った。そして秋以降に予想される同時配信への対応準備と、そのタイミングでユーザビリティの向上をもたらすフルリニューアルを予定していると明かした。
夏季と冬季の2回のオリンピック開催を控えて、スポーツを中心としたライブ配信の拡充も行なうとし、若年層へのアプローチや、データをマーケティングに活用する体制構築に取り組みたいという意向も示した。加えてキー局以外のローカル局に対してのサービス拡張を行い、「すべての放送局にとってのプラットフォーム」となるように注力していく姿勢を示し、外部企業との連携も視野に入れていることも明らかにした。
最後に龍宝氏は、「TVerはテレビの未来を放送局と一緒に作っていくサービスです。テレビは放送だけではなく、配信とのミックスによって提供されるものに変わっていきます。テレビオンリーでもインターネットオンリーでもない、新しい発想でサービスを推進していきたい」と、テレビの未来をTVerが担うという意気込みを示してセミナーは終了した。