「IT技術で新しいテレビの扉を開いていきたい」マル研が考える“テレビ”のこれから
編集部
千葉・幕張メッセで開催された、テクノロジーとビジネスのリーディングイベント「Interop Tokyo2017」(2017年6月7日~9日)。12万人を超えるメディア関係者が集まり、大盛況のうち幕を閉じた。連日様々な講演が催されていたが、最終日に行われた講演会「マル研2017 ~ローカル局がリブートする場~」をレポートする。
マイクを握ったのは、マル研こと“マルチスクリーン型放送研究会”の運営会リーダーを務めるテレビ大阪株式会社・経営戦略局メディア戦略部の西井正信氏と、事務局長である株式会社毎日放送・経営戦略室メディア戦略部の齊藤浩史氏(※取材時)。笑いの街・関西のローカルテレビ局だけあって、フレンドリーな関西弁で漫才さながらに盛りあげた。
マル研は11年12月、マルチスクリーン型放送サービスの実用化をめざして、大阪で発足。在阪民放5局が中心だったが、現在は全国の放送局62社を含め広告、テレビセット関係、機器メーカー、通信会社など88社が参加。情報交換しながら、新たなアイデンティティを見いだして、それを形にするリブート(再起動)を急ぐべく、“自由闊達な研究”をスローガンに掲げている。
昨今、地方局が一時的にバズることが、メディアで報じられるが、記憶に新しいのは、TNCテレビ西日本。博多駅前の道路陥没事故をLINE LIVEで配信すると、5万を超えるアクセスがあり、これを機にVR360°動画「VR九州プロジェクト」の認知度が高まった。TKUテレビ熊本は、震災復興イベントの放送とSNSの連動が大好評。熊本城マラソンに向けて、CGシステムを自己開発中だ。
SBS静岡放送と静岡新聞の共作CM“超ドS静岡兄弟篇”は、『第54回 ギャラクシー章』CM部門の大賞を受賞しており、HTB北海道テレビ放送は、大人気俳優の大泉洋や安田顕などを生みだしたバラエティ『水曜どうでしょう』が誕生したことで、知名度が一躍全国区になった。レギュラー放映はすでに終了しているが、ピーク時の番組関連グッズは20億円超えの有益。すべてが規格外で、「ビデオグラムだけではなく、ファンとのリアル体験が長寿の秘訣だった」というのが、マル研の見解だ。
とはいえ、ローカル局を取り巻く環境は、やや厳しい。齊藤氏は、「我々ができることは、放送局同士が、またはパートナー企業同士がつながること。マル研は、そのファームになれればと思っています。視聴ログ、SVOD(動画配信)、ハイコネ、AI活用、IPDC、ポータルサイト、SNS連携、VRなど、やりたい人が手を挙げて、8社ぐらいに膨らんでいって、つながって、ソリューションを出せないかと。情報共有していけば、メディアとして新たな収入源が生まれ、サービスモデルが完成すると考えています」と述べる。
西井氏は、「放送・通信を連携させるテレビサービスのアプリケーション・ハイコネを、どの局でも簡単に始められるようにしたいです。また、AIを利用して、番組のエンドロールからテキストを抽出して、出演者情報、画像検索、過去の映像の二次利用の促進も努めたいです」とプランを明かす。
マル研は、「新約聖書」の一節である“新しい酒は新しい革袋に盛れ”を“新しい革袋には新しい酒を盛れ”に変換させた考えを持っており、西井氏は「かつての“新しい革袋”はテレビでしたが、今はスマホやタブレット、各種タッチスクリーンと肌身離さず持ち運ぶものに変わりました。“新しい酒”に関して、昔は技術的な特性を生かしたコンテンツでしたが、今はポケモンGOのようなGPSを利用するものに様変わり。アナログ時代のように、時間やエリアに限られることがなくなったからこそ、イノベーションのタネも増えました」。
そして、2020年の東京五輪に向け、多言対応、VR、ライブ配信などを考える上で、齊藤氏は「IT技術で新しいテレビの扉を開いていきたいです」とこれからの“テレビ”について語っていた。