リアルタイム視聴を「地元の一大イベント」に!愛媛朝日テレビ、“番組連動アプリ”「テレビちゃん。eat」リリースへの想い〜インタビュー(後編)
マーケティングライター 天谷窓大
テレビちゃん。eat(イート)開発メンバー
愛媛県をエリアとするテレビ朝日系放送局・愛媛朝日テレビ(eat)は5月20日、テレビ放送のリアルタイム視聴促進と広告効果の可視化を目的としたスマートフォンアプリ「テレビちゃん。eat(イート)」をリリース。「放送をイベントに変える!」をコンセプトに掲げ、生放送番組との連動機能を提供する。
今回は、愛媛朝日テレビ 営業局 事業創造部 部長の玉井謙二氏、同技術局 兼 事業創造部の黒河 純氏へのインタビュー後編。アプリを利用した視聴者参加型特別番組「テレビちゃん。早押しクイズQ」の反響をはじめ、同アプリのマーケティング面での活用について掘り下げる。
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■「お茶の間でテレビ」への回帰も。「テレビちゃん。eat」の“楽しまれ方”
──これまで2回放送されている「テレビちゃん。早押しクイズQ」ですが、アプリを通じた番組への参加状況はいかがでしょうか
玉井氏:6月3日(水)18時55分〜放送分ではエントリー数が519名、うち最後の問題まで回答した方は369名と、およそ6割の完走率でした。「テレビちゃん。eat」のダウンロード数はおよそ1,000件弱なので、アクティブ率としてはきわめて高い水準です。
──「テレビちゃん。eat」における現在のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)はどこに置かれているのでしょうか
玉井氏:現時点でのKPIは番組への参加数に置き、結果的にダウンロード増へとつなげて行ければと考えています。これまで1年間にわたって実験を続けてきましたが、指標はだいたい想定内に収まっています。
──今回の取り組みについて、社内からはどのような反響がありますか
玉井氏:番組制作陣も斬新な試みを楽しんでくれています。「視聴者からの反応が伝わってくるのを噛み締めながら番組作りに取り組める」という点が一番うれしいようです。
──視聴率の変化や編成的な観点ではいかがでしょうか
玉井氏:これまで13歳から19歳のティーン層に、夕方のニュース番組を見てもらうことが難しかったのですが、「テレビちゃん。早押しクイズQ」放送時になると、これまで「*(0.1%以下)」であった視聴率が実際に有効な数字として現れました。「こういうことをすれば(視聴者の)反応を引き出せるのか」ということがわかってきました。
──「テレビちゃん。eat」によって新たなテレビの楽しみ方が生まれている気がします
玉井氏:社内のユーザーからは「子供が楽しんで(参加して)いる。」という声をもらいました。親子同士でスマートフォンを貸しあいながら「テレビちゃん。eat」を通じて番組への参加を楽しんでいるようで、「同じ部屋でひとつのテレビ画面をみんなで見て楽しむ」という、昔ながらの“お茶の間”の雰囲気にも通じるのかもしれません。
■アプリ・放送・店舗の「地域内エコシステム」をつくる
──広告効果の可視化という面では、現在どのような試みを行っていますか
玉井氏:現状はサービスの確立を目指している段階なので収益化はこれからですが、プロトタイプ版の段階で日用品メーカーに参加型イベントへのブランド露出やタイアップ企画を提案し、効果にとても満足したとの感想をいただきました。
具体的には参加者にクライアントの商品をプレゼントし、発送の際に「この商品やブランドを好きになりましたか?」と尋ねるアンケートをとったのですが、「このブランドに興味があったので、試すきっかけができてうれしい」という回答が顕著に見られたのが印象的でした。
──ユーザーデータはどのように取得・集計していますか
黒河氏:アプリを起動したタイミングで、愛媛県内のどの市町村にお住まいかを質問しています。回答率は大変高く、結果として県内の市町村ごとにどんな属性の方が利用しているかを取得できています。
──県内の各地域ごとのユーザー属性を持っている点は大きいですね
黒河氏:県内企業へのセールスを考えたとき、地域別データは強い材料になります。愛媛県は、(自分の住む)地元に誇りを持っている方が多いというイメージです。今後はこうした居住地域データを活用して新たなイベントも出来るのではないかと考えています。
──店舗やサービスへの送客につながる施策は行っていますか
玉井氏:現在はクイズの回答ランキング上位数十名の方に外部サービスを利用してデジタルクーポンを配布しています。中期的には地元のドラッグストアやスーパーなどとも連動させていければと考えています。参加者のみなさんに(クーポンを使用するため)地元の店舗へ足を運んでいただくことで、商品ブランドと放送、アプリが三位一体となって「地域内エコシステム」が回る仕組みを目指しています。
──アプリが起点となって消費行動が生まれれば、商品やブランドに対するコンバージョンも計測しやすくなりますね
玉井氏:たとえば「ブランドや商品の認知回数が3回以上あると購入につながる可能性が高い」といった関連付けが導き出されば、地元クライアントはもちろん、ナショナルクライアントのローカル向けマーケティングにもつながると考えています。
■リアルタイム視聴を「地元の一大イベント」にする
──現在、各局が動画コンテンツ配信事業を進めている中、地上波テレビのリアルタイム視聴を軸に据えている理由について教えてください
玉井氏:前職でもテレビ広告の営業を担当していたのですが、広告主からいつも尋ねられたのが「放送エリアで『1番の(集客)イベント』は何か」ということでした。あくまで1番でなければならず、2番目ではダメ。圧倒的に認知度のあるテレビ番組か、県内の人々に大切にされているイベントに対して広告費を出す、ということです。
「地元の生活者をグリップできてない放送局は終わりだ」という厳しい言葉もありました。番組や主催イベントが圧倒的な支持を集め、地元の生活者との密接な関係を築いていることが、放送局には何よりも求められているのです。しかし都市部にくらべて地方ではコンテンツのラインナップが薄く、コンテンツありきで地元の生活者をグリップすることは難しいとも感じていました。
そんなとき思い至ったのが「放送をイベントのように楽しめる仕掛けがあればよいのではないか」というアイデアです。リアルタイムな放送を一種のイベントとしてとらえ、同じものを同時に楽しみながらさまざまなコミュニケーションを行える仕組みがあれば、より生活者との密接な関係が作れるのではないかと考えました。
──今後「テレビちゃん。eat」をどのように展開していきたいですか
玉井氏:テレビの楽しみ方、視聴体験を拡張したいと考えています。たんに番組を見るだけではなく、「テレビってこういう楽しみ方があるんだ」と楽しんでもらいたいという気持ちがあります。「テレビちゃん。eat」をイベント参加券のような存在にし、アプリを持っている人がテレビというイベント会場に飛び込む体験を提供できたらと考えています。
黒河氏:「このままだとローカル局は……」という危機感も、やはり開発の大きな動機となりました。Firebaseのように(既存のシステムを組み合わせることでサービスを構築できる)便利な仕組みを使い、(技術)学習コストをおさえながらこんなに便利なものを作れるのだ、という事例が他の放送局の方に向けても広まっていったらと思います。
──自社開発のアプリを他局にOEM提供するケースも見受けられます。「テレビちゃん。eat」にもOEM提供の予定はありますか
玉井氏:OEM提供は大きな目標のひとつです。現時点でもすでに、何件か問い合わせをいただいています。
黒河氏:「テレビちゃん。eat」の仕組みを通じて、視聴者がローカル局のテレビ番組にイベントとして参加してくれる流れが愛媛にかぎらず広がればいいなと思っています。
マーケティングデータの充実によって広告主サイドでも精度の高い効果測定が行えるようになり、評価の指標もこれまでのようなGRPベースから徐々にコンバージョン重視の流れへと変化しつつある。
「より確実な接点作り」がメディアに対して求められるなか、地域コミュニティと切っても切り離せない関係にあるローカル局が生活者とより密接に結びつく手段として、テレビが持つ「共時性」というラジカルな強みを最先端の技術によって強化する「テレビちゃん。eat」。
この取り組みは、今後のテレビメディアの未来を読み解くうえで大きなヒントとなりそうだ。