ローカル発ドラマ企画は次世代に繋げる財産 ~テレビ宮崎開局50周年プロジェクトメンバー現地インタビュー~(中編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
開局50周年プロジェクト総合プロデューサー・榎木田朱美アナウンサー
テレビ宮崎が初のドラマ制作に挑戦する。宮崎出身の漫画家、東村アキコの連載漫画を原作に『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』のタイトルで連続ドラマ化、6月1日にスタート(毎週月曜〜金、18:45〜UMKスーパーニュース内)する。このドラマ企画は「NEXT50」を掲げる開局50周年プロジェクトの取組みの中から生まれたものだ。新たな試みも計画され、攻めに入ったテレビ宮崎の狙いとは何か? 宮崎市内にある本社現地で寺村明之社長はじめ、プロジェクトメンバーらを直撃した。そのインタビュー内容を前・中・後編にわたってお伝えする。中編は開局50周年プロジェクトメンバーにそれぞれの役割と取組みについて聞いた。(本文以下、敬称略)
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■営業、編成、事業を経験していないアナウンサーに何ができるのか?
2020年の今年、開局50周年イヤーを開始し、初の連続ドラマ制作『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』をはじめさまざま企画に取り組んでいるテレビ宮崎。前編の寺村社長インタビューではボトムアップ型で社員が自発的に企画し、実行する意識改革が進められていることもわかった。そのなかで、まとめ役として開局50周年プロジェクト総合プロデューサーに任命されたのがアナウンス部長であり、現在土曜夕方の情報生番組『U-doki』のキャスターなどを務める榎木田朱美アナウンサーである。準備室立ち上げから、これまでの活動をどのように捉えているのか。
榎木田氏: 2018年の7月人事でアナウンス部長と開局50周年の準備室部長に任命されました。50周年準備室で扱う案件は多岐にわたります。言わば、社内のいろいろな部署を走り回る仕事です。社内の調整活動が肝になる。これまで50周年事業全体の組織体制を作り、指標となるロードマップも作り、分科会チームと共に進めてきました。ドラマチームも社内プレゼンを重ね、周りも巻き込んでいきながら企画が実現しました。それぞれ活動するうえで、忘れてはいけないことは、何のために50周年事業をやっているのかということ。県民と未来の自分たちを支えてくれる人たちに届けるものだと思って活動しています。
開局50周年プロジェクトの目玉であるドラマ『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』はテレビ宮崎にとってドラマ制作に初挑戦する大きな試みである。総合プロデューサーとして社内、社外を調整するにあたって苦労も伴っただろう。
榎木田氏:番組分科会から「ドラマをやりたい」という案が出たものの、当初は予算や権利関係のことなど、いったいどうしたら具体化できるのか、そんな話し合いから始めていきました。系列局や制作会社からもアイデアを頂き、社内プレゼンに臨んだものの、当初は却下され、心が折れました。そんななかで、自分には推進力しかないと奮起し、部署を超えて協力し合いながら内容を固めていきました。そして、プレゼンのためのプレゼンを重ね、プロジェクトメンバー内で互いに意見を出し合いながら、ドラマチームが本番のプレゼンに臨みました。役員を含めその場にいた皆が「これだったらいける」と、自然と拍手が起こった瞬間は忘れられません。社長室の神棚にはその時のドラマの企画書が今も飾ってあります。みんながダメだと思った時に、もう一度がんばれたのは周りの社員が互いにサポートできたからだと思っています。プロジェクトメンバーにもそれを忘れないで欲しいと伝えています。こうしたプロセスも意味を成す大事なこと。社員が積む経験値は次の世代に渡せる財産になるので、責務だと思い繰り返し伝えています。このような作業を全ての分科会で行っています。
分科会はドラマやドキュメンタリー制作・放送を進める「番組分科会」のほか、県民が出演するCM企画などを核にした「広報分科会」、県民に感謝するイベントなどを計画する「イベント分科会」、26市町村と防災協定などを進める「CSR分科会」、50年のヒストリーをまとめる「社史分科会」の5つに分かれている。それぞれの活動を総合プロデューサーの立場からまとめていくなかで、自分自身はどのように成長できていると感じているのか。
榎木田氏:難航した時などは「本当にそのやり方でいいのか」と声をかけ、時に嫌われ役も買って出なければなりません。「営業、編成、事業も経験していないアナウンサーのあなたになぜそんなことを言われないといけないの?」と、当初は疑問視されていた部分もあったと思います。自分自身も予算の枠組みみなど、わかっているつもりでわかっていなかったことがたくさんあることに気づかされ、後輩の皆さんにも進んで教えを請いながら、少しずつ全体のフレームが理解できるようになってきたかなと思います。成長できたかどうかはわかりませんが、常に広い視野でモノを見るようにはなったと感じています。
■合言葉は「やりたいをかたちにしよう」と「やってみないとわからない」
2018年7月に立ち上げた開局50周年プロジェクト準備室は現在、新設された経営推進本部コンテンツ開発室を中心に各プロジェクトを進め、コンテンツビジネスを中心に新規事業なども計画されている。兼任を基本に組織化されているコンテンツ開発室メンバーの中で唯一、専任メンバーであるのが谷之木志章氏である。実行のとりまとめ役を中心に活動している。ドラマ企画を実現する過程ではどのような活動が行われたのか。
谷之木氏:ドラマ企画が社内プレゼンで通った後、2回にわたってドラマ制作のノウハウを学ぶ集中合宿を行いました。1回目は大枠の話を中心に、2回目は権利処理など細かい業務を学ぶためのもので、系列局の法務担当の方を招いて講演していただく機会も作りました。テレビ宮崎でドラマを作るのは初。専任の担当がいないため、それぞれ必要な役割は得意そうな方に適宜お願いし、通常業務と兼任してもらいながら進めています。超ローカル局ですが、まだまだ縦割り組織で動いており、もっと柔軟に部署間のチームワークを生み出していくことも意識しています。社内協業を推進することもコンテンツ開発室の仕事です。
前編インタビューで同社寺村社長は「50周年は次の50年のことを考える良い機会になる」と語っていた。新たなコンテンツビジネスを生み出していくこともミッションのひとつにある。宮崎発コンテンツの可能性についても聞いた。
谷之木氏:世の中は変わりつつあり、面白いが多様化しているなか、コミュニケーションが生まれるコンテンツがもっとあっていいと思っています。動き始めている新たな企画もあり、地元のベンチャー会社と契約し、サーフィンを核に展開できるコンテンツや、グループ企業6社とシナジー効果が生み出せる事業なども考えています。「儲かると?」「できると?」という疑問が例えあっても「やりたいをかたちにしよう」と「やってみないとわからない」を合言葉に進めています。
広報分科会に所属し、周年ロゴ「You & UMK」の展開を進めてきた編成業務部の矢野康平氏にも話を聞いた。ロゴデザインを作成するにあたって、宮崎県出身で電通所属のCMプランナー越智一仁氏にも協力してもらうなど、周年PRもこれまでにない試みにこだわっている。
矢野氏:社内で共通認識している周年コンセプトは県民に感謝し、寄り添い、全員で挑戦することです。周年ロゴにはそんなメッセージ性を表現しようと、電通の越智さんにも協力してもらっています。ピンクとブルーを使った「You & UMK」の「You」の部分には実は仕掛けがあります。4月スタートの「みんなのCM」企画では365日間、毎日日替わりで県民の皆さんがCMに登場し、ピンクの「You」の部分は県民の皆さんの名前に変わっていきます。新しくデザインした社内の名刺もそれぞれの名前を入れた「You&UMK」が展開されています。周年事業盛り上げの下支えを進めていくことが広報分科会の役割だと思っています。
名刺ロゴも遊び心を持たせ、例えば寺村社長の名刺は「Terry (テリー)& UMK」とある。4月1日からは「みんなのCM」企画が本格的に始まったところだ。CM素材はテレビ宮崎のほぼ全社員が撮影したものが使われている。こうした周年プロジェクトの展開内容はスマホ用「UMKアプリ」でも積極的に情報発信されている。このUMKアプリ開発にも携わり、コンテンツ開発室に兼務する報道制作局制作部の村上辰之助氏にも話を聞いた。
村上氏: UMKアプリを立ち上げるにあたって約1年かけて構想し、昨年の2019年7月にリリースされました。南海放送の開発技術をベースに系列局で使われているアプリになります。アプリのダウンロード数もハイペースで伸び、リリースから1年経たないうちに5万ダウンロードを超えました。防災関連や試写会情報、番組プレゼントなどテレビ宮崎発のいろいろな情報がこのアプリに集約され、まだまだ利用は広がっていくと思っています。
UMKアプリでは災害情報もプッシュ配信されている。コンテンツ開発室兼編成業務部の佐々木良高氏はUMKアプリや簡易動画配信システムを構築し、防災コンテンツの強化につとめている。
佐々木氏: よりきめ細かい情報を届けるためUMKアプリでは避難所情報なども発信しています。ちょうどUMKアプリをリリースした2019年7月は台風が多発し、台風情報は簡易動画配信システムを運用してライブ配信も行いました。同年8月14日の台風10号の際は榎木田アナウンサーが現地からスマホ2台を使ってLINEのビデオ通話で簡易中継したところ、ユニーク視聴者数は3,154名に上りました。平時はアナウンサー動画や記者会見配信など、日常的に配信を行うことでスキルを磨きつつ、県内の自治体と防災面での連携強化を図り、県民のライフラインとしての役割を果たしていきたいと思います。
話が多岐にわたったが、共通するのは次の50年に向けて取り組んでいる試みであること。開局50周年プロジェクトで行われているドラマから防災関連の試みに至るまで、地域メディアの可能性を模索しているものだ。なお4月1日付で、新規事業開発部とコンテンツ開発部からなる経営戦略局を新たに設置し、「NEXT50」に向けて次のステージを目指して動き出している。後編はドラマ企画の制作、権利処理、PR担当者から聞いた話をお伝えする。