「8K」の“先”を模索するテレビメーカー【CES2020】レポート
IT・家電ジャーナリスト 安蔵靖志
2020年1月7日から10日にかけて、米ラスベガスで世界最大級のエレクトロニクス関連見本市「CES 2020」が開催された。近年は自動車関連の展示が盛り上がりつつあるが、「8K」をはじめとするテレビ関連の展示もCESの華と言える。CES 2020ではテレビ・ディスプレイ関連でどのようなトレンドが垣間見られたのか、紹介していこう。
■マイクロLED系ディスプレイが数多く展示
CES 2020で目立つように感じられたのが、「マイクロLED」系ディスプレイだった。マイクロLEDとは超小型LEDを敷き詰めて映像を表現するというもので、ソニーが2012年のCESで「Crystal LED」として発表したのが先駆けだった。
米Sony Electronicsは、2019年9月にCrystal LEDを家庭向けに発売すると発表したが、CES 2020でもCrystal LEDを用いた約220インチもの巨大ディスプレイを展示していた。
Crystal LEDは幅約40cm、高さ約45cmのディスプレイユニットに11万5200個の画素を敷き詰めたモジュールを組み合わせることで自由なサイズ、縦横比のディスプレイを作り上げられるというもの。家庭用といっても工事が必要で一般消費者が気軽に買えるものではないと思うが、好きなサイズのテレビを自宅に導入できる時代がいよいよ来るというのは興味深い。
LGエレクトロニクスのブースでは145インチの4KマイクロLEDディスプレイが、TCLのブースでは132インチの4KマイクロLEDディスプレイ「The Cinema Wall」が、Konkaのブースでは236インチの8KマイクロLEDディスプレイ「8K APHAEA Smart Wall」が展示されていた。
サムスン電子もCES 2019などでも展示された「The Wall」で知られるマイクロLEDディスプレイの75インチモデルをCES 2020で発表したが、ブースでの展示はなかったようだ。
■小型超高解像度と多彩な映像表現を実現するミニLEDにも注目
数多くのメーカーがこぞって展示していたマイクロLEDディスプレイだが、大きなネックになるのが「解像度」と「価格」だろう。3原色の超小型LEDを敷き詰めるため小型化が難しく、Crystal LEDの場合は8Kディスプレイを作るために440インチ(幅約9.7×高さ約5.4m)ものサイズが必要になる。当然、価格も相当なものになるだろう。
そこで新たに登場したコンセプトが「ミニLED」だ。これは液晶ディスプレイのバックライトを小型LEDを敷き詰めたものにすることで、映像表現を自発光デバイスである有機ELやマイクロLEDに近付けつつ、高解像度化を実現できるというものだ。
LGエレクトロニクスは8K有機ELテレビやマイクロLEDディスプレイだけでなく、ミニLEDを用いた「Mini LED 8K」も展示していた。
TCLはガラスに直接埋め込まれた薄膜トランジスタを使用する「VidrianMini-LEDテクノロジー」を発表し、それを用いた「Super Slim QLED TV」を展示していた。バックライトとLCD間のフィルターが最小限に抑えられるため、明るさと強力なコントラストが得られるとのことだった。
8KマイクロLEDディスプレイを展示するKonkaのブースでは、4万個のミニLEDを用いて1万エリアのバックライト部分駆動を実現する「8K MINI LED TV」も展示していた。マイクロLEDに比べて技術的には難しくないため、家庭向けにはミニLEDの方が早く浸透していくのではないかと感じられた。
■高解像度化の先にあるものは「インテリア化」か
2019年のCESで話題をさらったLGエレクトロニクスの巻き取り式ディスプレイ搭載テレビ「LG SIGNATURE OLED TV R」は今年も展示されたが、あの存在が浮き彫りにしたのは「邪魔な巨大画面の処し方」だったように思う。
テレビはその登場以来、リビングの華であり続けたのだが、その潮流が変わりつつあるようにも思われる。スマートフォンの登場によって一人1スクリーンが当たり前になり、今や若者が一人暮らしする際にテレビを置かずに生活する場合もあるという。
映画やドラマ、スポーツ中継などは大画面で楽しみたいという向きも決して少なくないし、大画面4Kテレビが低価格化したことでそんな生活を実現しやすくなったのは確かだ。しかし一方で、「テレビを付けていない時に黒くて大きな画面が邪魔」と感じる人も少なくないのではないかと思う。
そこでLGが提案した回答の1つが「必要な時だけ引き出して映像を表示する」というOLED TV Rだった。
そのほかの提案としてさまざまなメーカーのブースで散見されたのが「アートギャラリー」としての役割だ。LGエレクトロニクスは壁掛けが可能で超薄型の「LG SIGNATURE OLED TV」を中心に、アートギャラリーとしての提案を以前から進めている。
TCLも以前から打ち出しているアートギャラリーテレビ「FRAME TV」を展示し、注目を集めていた。
サムスン電子はテレビ非使用時に1200以上の絵画を表示できる壁掛けテレビ「The Frame」を2017年から販売しており、CES 2020でも展示していた。サムスンブースでは、The Frameをインテリアに合うスタイルにした「The Serif」なども展示しており、インテリアにおける大画面ディスプレイの新たなスタイルを模索している姿が見受けられた。
LGエレクトロニクスのブースではほかにも、2018年に打ち出したインテリアに溶け込むようなスタイル家電「LG Objet」シリーズも展示していた。「LG Objet TV」は画面が左右にスライドするデザインが特徴で、言い方は古いが“進化した家具調テレビ”という印象も受けた。
■シースルーディスプレイは街を様変わりさせるか
シャープのブースとLGエレクトロニクスのブースでは、シースルーディスプレイを利用したデジタルサイネージ(電光掲示板)ソリューションが展示されていた。どちらもガラスのように透明な液晶ディスプレイ(シャープ)と有機ELディスプレイ(LG)を用いることで、これまでにはない新たなデジタルサイネージを実現するというものだ。
家庭向けではなく企業や公共施設などに用いられるものだが、こういったものが使われていくことで、街中にあるデジタルサイネージの表現が大きく変わる可能性があるということをまざまざと見せつけていた。