CES2020で実感した5G時代の“エクスペリエンス”の重要性〜『5G準備委員会』イベントレポート【前編】
編集部
2020年1月16日、KDX虎ノ門1丁目ビル(東京都港区)において、「メディア&コンテンツ業界のための『5G準備委員会』」が開催。このセミナーは、次世代通信規格5Gのサービスが始まる2020年の冒頭、5Gの恩恵を受けるメディア・コンテンツは何なのかを語り合うため、「5Gでビジネスはどう変わるのか」の著者クロサカタツヤ氏を招き、株式会社LiveParkが主催したもの。
本セミナーはLivePark社が運営する「LIVEPARK」アプリでも配信され、多くの質問が同時に投げかけられるなど、業界の注目を集めるものとなった。進行役は同社代表取締役の安藤聖泰氏、およびエグゼクティブ・プロデューサーの清田いちる氏。本項では前編として、5Gの世界を見据えた業界の動向を中心にレポートする。
(登壇者)
クロサカ タツヤ
株式会社企 代表取締役/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授
(進行)
安藤 聖泰 株式会社LivePark 代表取締役
清田 いちる 株式会社LivePark エグゼクティブ・プロデューサー
■CESで実感した、5G時代のエクスペリエンスの重要性
セミナーは、クロサカ氏による世界最大級の技術見本市CES 2020(1月7日~10日、米ラスベガス)の報告からスタート。ここ10年間、ほぼ毎年参加して定点観測を行っている同氏は、今年は「近年まれに見る面白さ」だったと言う。そして印象的だった点を、次のように語った。
クロサカ氏:今回のキーノートスピーチなどで共通して言われていたのは、CESのEはエクスペリエンス(Experience)で、もはやエレクトロニクス(Electronics)ではない、ということです。もちろん家電製品やAV機器は数多く展示されていましたが、今年はとにかく“エクスペリエンス”が強調されていました。
現在の正式名称はCESだが、かつてはConsumer Electronics Showと呼ばれ、電子機器の見本市だった。そのエレクトロニクスからエクスペリエンスへの変化を、クロサカ氏はデルタ航空によるキーノートスピーチ(基調講演)から紐解く。
「過去10年、自動車会社のCESでの台頭はありましたが、デルタ航空のような非テック企業がキーノートスピーチをするのはあまり見たことがありませんでした。登壇した同社のCEOは旅行の最初から最後まで、すなわちチケットを予約するために同社のサイトを開くところから、帰ってきて次の旅行のことを考えるところまで、すべてケアしようと言っているのです」
この説明を受け進行役の清田氏は、「テクノロジーの見本市においても、どういうエクスペリエンスを提供できるのか、という方向に完全に軸足が移っているのですね」と率直な感想を述べた。
そしてクロサカ氏は、「今回のCESで気づいたのは、既にサービスが始まっているアメリカに5Gで騒いでいる人はいなくて、もはや当たり前になっているということです。5Gで本格化するデジタルツインなどのパラダイムシフトに注目すべきで、個別のテクノロジーには目が集まらないのでは?」と続けた。
■5Gの時代には8Kテレビが普通になる!?
思いのほか盛り上がったCESの報告に続き、進行役の安藤氏は既にサービスが始まっているアメリカや韓国で実感した5Gの現状について質問した。クロサカ氏は「去年の春に始まった時は不安定でしたが、秋にはかなり安定してきて1Gbpsくらいまでは出るようになってきています」と答え、続けてテレビについても言及した。
「1Gbpsと一口に言いますが、これはすごいです。ここに参加されているほとんどの方のご家庭のブロードバンドよりはるかに速いということです。これが家に入って来て普通に見られるようになれば、もちろん8Kテレビを見る世界になります」
そして再びCESでの目立った展示について説明する。
「ディスプレイやパネルがたくさん展示されていましたが、4Kテレビはもうなかったといっても過言ではありません。4Kはもう量販店で買えということでしょうか。8Kテレビも単純なものではなく、処理能力がかなり高くなってきていて、反面、価格もこれなら買えるという水準まで来ています」
■8Kテレビで見るコンテンツ、早くビジネスを始めるべき!
加えて注目するべき点は、「8Kの高品質・高精細ディスプレイと、コンテンツプロバイダがセットになっていること」だと言う。アメリカ、韓国、中国と、メーカーに関わらず、当然のようにそこにはNetflixやHuluが一緒に紹介されているのだと言う。
8Kのコンテンツをできるだけ安く、多接続で流すには、マンションの光ファイバーでは容量不足になり、「高速/大容量」「低遅延」「多接続」といった特徴を持つ5Gが始まると、「もちろん8Kテレビで見ることになります」とクロサカ氏は語る。
安藤氏は「光ファイバーが最上級かと一時期は思っていましたが、そこを普通の無線(5G)が超えてしまうわけです」と、テレビの視聴に関しても大きな転換点となることを示唆する。
クロサカ氏は、「5Gのネットワークが完成するということは、光ファイバーのネットワークが出来上がるということとほぼ同じです。日本には光ファイバーの線がある程度はありますから、うまくやれば5Gを体験することは、割と高いレベルで、なおかつ早い段階で可能になるかも知れません」と述べた。
そして「早く来るということは、早くビジネスを仕掛けないとまずいかも」と、クロサカ氏はセミナーに集まった多くのメディア・コンテンツ関係者に問いかけた。
後編では、このセミナーで語られたテーマのうち、5Gで実現されるVR/ARの世界、テレビがインタラクティブ化予測、などについて紹介する。