J:COMがCS放送のPMPを立ち上げた理由とは?〜インタビュー【前編】
編集部
『J:COM』ブランドで日本最大級のケーブルテレビ事業を展開する株式会社ジュピターテレコム(以下J:COM)は、複数のCS放送局と連携し広告在庫をネットワーク化したマーケットプレイス『J:COM PMP(Private Market Place)』を展開。
国内の有料ケーブルテレビシェア51%、国内におけるテレビ受信インフラの約24%を占める同社が新たに打ち出す、データドリブンなテレビ広告の形とは──。
立ち上げの経緯から具体的なシステム、そして広告主へ提供するメリットについて、同社広告事業本部 広告営業推進部 事業開発グループ マネージャー 丸山博幸氏(写真:右)とメディア・エンタテインメント事業統括室 マネージャー遠田智洋氏(写真:左)にインタビュー。
今回は前半として、『J:COM PMP』立ち上げの経緯から、この仕組みによってどんなことが可能になったのかを探る。
──はじめに、PMP立ち上げの経緯を教えて下さい。
遠田氏:かねてより、CS放送業界全体における広告売上については大きな危機感を持っていました。放送事業者で運営する衛星テレビ広告評議会(CAB-J)では毎年CS放送における広告売上を調査しているのですが、2018年度の総売上は前年比の95.8%とマイナス成長でした。総売上金額も同年度に200億円台を割り込みました。
──CS放送全体の広告売上げアップが、まず命題としてあったということですね。
丸山氏:CS放送はチャンネルが多岐にわたることもあり、その一つひとつに営業が行き届き難い状況でした。デジタル媒体において広告効果の数値化が進むなか、広告主様により出稿していただくためには、媒体としての価値を上げることはもちろん、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)への貢献度を具体的な数字で示す必要があったのです。広告主のメディア買い付けにあたって、KPIの面でも明確な(評価判断のための)数字説明が必要になってきていると感じています。(テレビ広告の)具体的にどう費用対効果があるのかが明確でなければ広告枠は売れていかないのではないか、という思いがありました。
──ケーブルテレビ事業を主軸とするJ:COMが、なぜCS放送のPMPに乗り出したのでしょうか。
遠田氏:J:COMではSTB(Set Top Box:視聴端末)のアクションデータを許可を頂いたお客様より取得しており、契約世帯の視聴ログをリアルタイム・タイムシフト両面で蓄積していました。これを活用し、国内最大のケーブルテレビ事業者として広告主のニーズに応える商品を開発できないかという発想が起点となっています。また当社ではグループ傘下に多くのCS放送局を保有しており、自社内で十分な効果を確認したうえでCS放送業界全体に波及させることができるのではないかと考えました。
──J:COM PMPでは、視聴ログをどのように活用しているのでしょうか。
遠田氏:STB経由で取得した世帯の視聴ログをベースにビデオリサーチ社のパネルデータを教師データとし、機械学習による推計処理を施すことで、視聴ログの匿名状態での個人視聴推計・プロフィール推計を実現。枠取引の参考資料として利用できるようにしました。
これにより、CSの放送枠でもデジタル広告とほぼ同等の効果測定が可能となっています。
──これまでの暗黙知から、ファクトベースで枠の価値が担保されるようになったのですね。
丸山氏:これまでCS放送の広告枠販売は「ゴルフ専門チャンネル=高所得層向け」というように、それぞれのチャンネルが持つブランドイメージを材料とした営業が一般的でした。この場合、イメージが強い特定のチャンネルに出稿が集中することとなり、市場全体でターゲットがどこにいるのかというファクトが不明瞭でした。J:COM PMPによって、CS放送全体におけるターゲットの所在が明らかになり、チャンネル同士の枠をネットワーク化させることで、効率よくターゲットにリーチする出稿が可能になりました。
丸山氏:広告主サイドでも、出稿の社内稟議を通す際に「いくら(広告費を)投下したらどのくらいのインプレッションを得られるのか」というROI(Return Of Investment:費用対効果)が求められます。しかし、いままではこれらを(放送局側が)数値化できておらず、説明できていませんでした。今回の取り組みによって、広告主のみなさまに意思決定や放映後の効果測定の材料を提供できるようになりました。後者にいたってはその後のPDCAにも活かせるため、問題点や次の施策に向けた建設的なお話ができるようになりました。
──同じターゲティングで横串をさして、デジタル広告とテレビ広告を比較・評価するといったことも現実的になってきますね。
丸山氏:デジタル広告とテレビ広告、それぞれの強みはもちろん、弱みとされてきた部分も補い合うことが可能になります。たとえばデジタル広告においてネックとなるビューアビリティ(実視聴率)の面など、テレビがもともと持っている強みを活かすことができ、かつターゲットインプレッションや完全視聴率をデジタル・テレビともに同じ指標で評価いただけるのです。
CS放送業界全体における収入への危機感から立ち上げられたという『J:COM PMP』。CSにおいても、地上波と同等の取引指標を整備することで媒体としての価値を上げていこうという思いがわかる。後半では実際の事例紹介をふまえながら、今後目指す展開について触れていく。