CDNのコスト削減が配信事業のトレンドに~After NAB Show-Tokyo 2017-レポート
編集部
今年で5回目となるAfter NAB Show-Tokyo 2017-が、6月1日~2日の2日間、秋葉原のUDXで開催。これは4月22日~27日に米・ラスベガスで開催されたNAB Showの公認イベントで、NAB Showで披露された最新情報を日本でもいち早く紹介するものだ(※)。
その中から、今回は伊藤忠ケーブルシステム株式会社(ICS)が行ったセッション「配信ソリューションの最新トレンド~サイマル配信・見逃し配信・PVRから広告挿入・CDNまで」をレポート。日本では、NHKが2019年の同時配信開始に向けて定期的に試験配信を実施しているが、その同時配信で注目される技術の最新動向や同社が提供しているソリューションについて紹介された。
※NAB=National Association of Broadcasters/全米放送事業者協会
■ICSが感じた今回のNAB Showの印象は?
セッションに登壇したのは、ICSネットワークソリューション本部メディアサービス部事業開発グループの宮崎剛氏だ。ICSは放送や映像、音響、通信の部分に特化した、映像関係のトータル的なシステム・インテグレーターだ。同社は、今年の米・ラスベガスで開催されたNAB Showを視察しており、前回と比べ今年のNAB Showの印象を報告。宮崎氏によると、配信周りにおいては、ハードウェアの展示はほぼゼロに。
「NAB Showは放送機器展なので、多チャンネルが捌けるようなハードウェアの展示が多かったのですが、今回に関してはほぼそれがなくなり、Encoderに関してもハードウェアからソフトウェア化や仮想化が進み、最終的にはベンダー自体がサービスを提供しているケースが出てきていました」と展示を巡った最初の印象を語る。
加えて、サービス提供やCDN関連(Content Delivery Networ/コンテンツ・デリバリ・ネットワークの略)ソリューションのベンダーが増加し、また※OTT配信を提供する顧客に対して行う、監視やアナリティクスを利用するQoS(Quality of Service)やQoE(Quality of Experience)ソリューションが非常に増えていたという全体感を示した。
※OTT…Over The Topの略で、インターネット回線を通じ、メッセージや音声、動画コンテンツなどを提供する通信事業者以外の企業を指す
■「Encoder」「Video Delivery」「Management」「Service」の業界最新動向は?
続いて、業界別の最新動向が紹介された。
「Encoder」においては、仮想化/Micro Service化、高収容化、ABR(Adaptive Bit Rate)最適化、CMAF(Common Media Application Format)対応の傾向が顕著だとしたうえで、宮崎氏は改めて「完全にソフトウェアベースになっていました」と語る。
「Video Delivery」については、配信方法の最適化、CDNセレクター、WebRTC(Web Real-Time Communication)を利用したCDNについて紹介し、配信方法についてはOTT配信(HTTP)をユニキャストからマルチキャストに変換する仕組みで配信を最適化するソリューションが目立ったと言う。そして今回のNAB ShowでICSが最も驚いたこととして、WebRTCを使ったCDNに言及した。
「P2Pの技術を使ってCDNのコストを削減するというベンダーが、去年のNABまで一社も出ていなかったのですが、今年は4~5社出ていました。このような形でCDNのコスト削減を行うことがビデオ配信のトレンドになっています」と説明を加えた。
「Management」におけるトレンドは、サービスのQoE/QoS向上、各種信号の監視、アナリティクスの3つだとし、サービスの向上や顧客の満足度を上げるソリューションが出てきていると示した。
「Service」については、ライブ/ライブtoVOD配信(パッケージング~プレイヤー)、サーバーサイド型広告挿入サービス、スポーツや企業内向け小中規模ライブ配信PFサービスが取り上げられた。
この中ではサーバーサイド型広告挿入サービスに言及し、ライブ配信を行うにあたってのマネタイズに関し「広告を入れることをどうやって実現させるかといった海外ベンダーのソリューションが大きく出ている」と宮崎氏は言う。
■個別ソリューションでは、注目の新技術が披露される
そしてセッションは個別のソリューション紹介に移り、まずは配信におけるBroadpeak社が取り上げられた。
Broadpeak Multicast ABRは、送信をユニキャストからマルチキャストに変換することで、チャンネル数に応じたネットワークで済ませ、1つのチャンネルは視聴ユーザーのリクエストに関わらず1度だけ送信されることになるため、トラフィックの削減と配信の軽減につながる。
この技術を宮崎氏は「非常にレイテンシーも低く、単純に効率化するだけではない提案を行っています」と評価した。また同社のnanoCDNテクノロジーやCDN Selector、CDN Diversityなど、新しいCDNの技術も紹介された。
続いて取り上げられたSystem73社は、CDNにおけるP2Pソリューションを提供している。コスト削減につながるこのP2Pソリューションは日本ではまだ実現の可能性は低いが、「他の数社にもコンタクトし、技術的に検証を始めています」と。
そしてサーバーサイド型広告挿入では世界でも一番実績があるベンダーであるYospace社が紹介された。ICSは既にYospace社とライブ配信上のダイナミック広告挿入分野で協業し、日本国内でもすでに実績を積んでいる。ライブ配信でのコンテンツマスク・差し替えを可能とし、ライブ配信でのターゲット広告挿入ができるこのソリューションは、かなりの引き合いがあり、ICSでも技術的にさらに詰めているところだと言う。
■同時配信の時代、配信はどうなるのか?
「アメリカでは、CDN大手のAkamaiが大きなマスターコントロールを作り、映像の送信から監視まですべて行い、CDNだけではない映像配信におけるフルマネージド監視サービスのフルマージ・ステーションサービスの提供を始めています。広告については、今では見られれば見られるほどコストがかかるので、それをどこかで下げるということが始まるでしょう。日本でも必ずそうなります」
と語っていたが、日本では技術的にも未知数のところがあり、ビジネス面での検証がようやく始まる段階だとも指摘していた。