デジタル時代に求められるローカルコンテンツとは?【静岡朝日テレビ×CCI】インタビュー(前編)
編集部
2019年10月25日、静岡県を放送地域とするテレビ朝日系列局 静岡朝日テレビが、サイバー・コミュニケーションズ(CCI)社と提携し、OTT(Over The Top:テレビ受像機を使用したコンテンツ配信)を経由して同社の番組コンテンツを視聴できるアプリ『SunSetTV』をリリースした。

若者の“テレビ” (※1)離れが囁かれている中、ローカル局としてどのような取り組みに挑戦しているのか。静岡朝日テレビ 総合編成局メディア戦略部長の松村真里氏と株式会社サイバー・コミュニケーションズ ブロードキャスティング・ディビジョン エグゼクティブ・スタッフ 放送局グループマネージャーの國分寿隆氏にインタビューした。
(※1)“テレビ”…放送、インターネット配信で届けるテレビコンテンツを総称して“テレ
ビ”と表現。

前編となる今回は、静岡朝日テレビにおけるOTTアプリ『SunSetTV』の位置づけや同社における過去のネット配信の事例から、「求められるローカル局のコンテンツ」の実態について探る。
■YouTubeでのオリジナル番組からスタート
── 『SunSetTV』立ち上げの経緯についてお聞かせください

松村氏:『SunSetTV』は、2015年1月に静岡朝日テレビの動画配信サービスとして産声を上げました。F1・M1(13歳〜19歳男女)層へアプローチし、テレビコンテンツ視聴に繋げ、局のファンを増やすという目的でまずはスタートしました。その頃から、動画共有サイトを通じてテレビコンテンツを視聴する若い方が増え、『このままだと若い人がテレビコンテンツを見なくなるのでは』という声が社内でも上がっており、そんな現状に対抗するべく、若手社員が中心となって『F1・M1層へアプローチし、“テレビ”視聴につなげ、局のファンを増やそう』ということで、YouTubeを介したオリジナルの番組コンテンツ配信からスタートした動画配信ポータルサイトです。
── 静岡“朝日”テレビに対して『SunSet(=夕暮れ)TV』という名前が印象的ですが
松村氏:現状を打破する、これまでの静岡朝日テレビに対するカウンターコンテンツという意味を込めて『朝日テレビ=SunriseTV』をひっくり返して『SunSetTV』と命名しました。開始当初は番組内に使用する楽曲の著作権処理が煩雑であったことから、既存の地上波の見逃しコンテンツはゼロではないにしろ、多くありませんでした。そんな状況を逆手に取り、『せっかくならば地上波で出来ないようなことをネットでやろう』と、オリジナル番組を中心とした編成を打ち出しました。
── これまでどんなコンテンツが配信されてきたのでしょうか。
松村氏:若者向けという側面や有料配信なども視野に入れ、お笑いコンテンツを主軸としてきました。新しい世代の若手芸人、所謂「第7世代」といわれるAマッソが出演する『ゲラニチョビ』は2016年から、2018年M-1グランプリ王者となった霜降り明星がMCを務める『パパユパユパユ』は、(賞を獲得する前の)2017年からオリジナル番組として配信しており、コアなファンを獲得してきました。

その後、2019年4月に音楽著作権の包括契約がネット配信にも含まれたことを受け、さらなる再生数アップの施策として同年8月から地上波のキャッチアップ(見逃し配信)を本格的にスタートしました。

■ローカルならではの切り口で県外のファンも掴む
M1・F1(13歳〜19歳男女)、M2・F2(20歳〜34歳男女)のお笑いファンに絞り込んだコンテンツ展開が功を奏し、県内外からコアな視聴者を獲得することに成功したという『SunSetTV』。その後キャッチアップを開始したことで、ローカル局コンテンツの新たな“バズ”を体験したという。いったいどんなことが起こったのか。

松村氏:沼津市出身の俳優・磯村勇斗さんが番組宣伝を兼ねて夕方ワイド『とびっきり!しずおか』(月曜〜金曜 16:45〜)にゲスト出演した際のことです。磯村さんが自身のSNSを通じて『SunSetTV』のキャッチアップ動画のURLをシェアしてくださり、地上波の放送エリア外である県外からも多くの視聴者が殺到しました。『とびっきり…』ではレギュラー企画として『静岡のヒミツ』を取り上げていたのですが、磯村さん出演の回では『磯村勇斗のヒミツ』として学生時代のエピソードを紹介するといった、出身地ならではのローカルな切り口がファンのみなさんに大きな支持をいただけたようです。
ネット配信の分野において、莫大な人員と資金を使うということに関しては、まだまだ難しい状況の中で、「地域」という切り口においては大きなアドバンテージを発揮することに気づいたと松村氏は語る。
■高校野球、災害報道…「ローカル発・ローカル向け情報」が大きなニーズを持つ
これまでテレビコンテツの情報がなかなか届かなかったエリアにおいても、自社のSNSを通じて拡散し届く、という展開はまさにネット配信ならではの動きではないだろうか。いっぽう、これまで各局の放送エリアのみで視聴されてきたテレビコンテンツにおいても新たなニーズを感じる、と松村氏は語る。
今年2019年秋、東海から関東甲信越地方にかけて甚大な被害をもたらした台風19号において、静岡朝日テレビは、台風情報を伝える特別番組を編成。その模様はテレビ朝日とサイバーエージェントが運営するインターネットテレビ『AbemaTV』を通じてネット配信された。ここでも、予想を上回る反響を得たという。
松村氏:台風19号が静岡県を襲った2019年10月12日、静岡朝日テレビではレギュラー放送していた情報ワイド『とびっきり!しずおか土曜版』(土曜日9:30〜12:59)を大幅に拡大し、6時間にわたり台風情報に切り替えて特別番組を編成し、県内の被災状況や安全情報を生放送で伝えました。たまたま週末に生放送のレギュラー番組を編成していたこともあり、放送枠の拡大そのものは難しいものではありませんでしたが、キー局に比べてマンパワーの少ないローカル局において長時間の報道はまさに挑戦でした。しかしこの取り組みに対し、地元の視聴者のみなさんからは『よくぞ(台風特別番組を)やってくれた』といった反響を多くいただいたのです。詳しくお話を伺うと『静岡直撃の台風だと言うのに、他局の報道特番を見ていても(キー局から送られる)東京近郊の情報ばかり流れてくる。そんななか静岡朝日テレビは我々の地元がいまどうなっているのか、密着した情報を伝えてくれた』というのです。


今回は自社のプラットフォームではなく『AbemaTV』を通じたネット配信でしたが、静岡に家族を持つ県外の方からも『地元の状況がリアルタイムにわかって助かった』という声をいただきました。地元地域の情報を必要な方へ広く出す、という点で『デジタルかつ地域密着』という情報への強いニーズを感じたと松村氏。


松村氏:『いつも見ているネットコンテンツに地元密着の情報が入ってきて便利だった』という声が印象に残っています。とくに災害時には自分に関わりのある地域の最新情報を得たいというニーズが高かったのです。ネット配信を通じて放送エリア外にも番組を発信できるようになりましたが、県外向けの発信のみばかりを意識するのではなく、地元に即した情報も両輪で厚く伝えていくことの大事さに気付かされました」
國分氏もこれに同意する。

國分氏:地元発の情報には強いニーズがあると思います。ニュース、報道、災害情報といった、いわゆる『地場の情報』は必要とされるタイミングで爆発的に番組視聴の流れが生まれます。バラエティをはじめとするタレントや俳優など、芸能界においてはいろんな地域出身の人が東京をはじめ全国区へと飛び出していきますが、先に松村氏が挙げた『全国区で活躍する地元出身俳優を取り上げた企画』などは、全国区で知った人も地元時代から知る人にとっても興味深いコンテンツといえるでしょう。ネット配信によって放送地域という地理的な制限がなくなり、キー局もローカル局も同じ土俵でテレビコンテンツ提供できる環境になりつつあるいま、各放送局のコンテンツの魅力に応じて視聴スタイルと視聴数がついてくる流れになってきていると感じます。いまの世の中、テレビを見ていなくともネットコンテンツは見ているという人は増えています。放送地域に住みながらローカル番組を見たことがなかった人も、ネット配信をきっかけに番組を見てくれる。こうしたところから、ローカル局の新しい広告価値を見出していけたらと考えています。
外向きではない『ローカル向けのネット配信視聴』」において高いニーズを誇るのが、毎年夏に開催される高校野球だ。地元校が参加する試合のネット配信は、静岡県内からも非常に高いアクセス数を誇るという。
松村氏:今年2019年7月の地方予選シーズンでは、特設サイトへのアクセスは1,100万PVを超え、関連動画の再生数が40万以上にのぼりました。仕事などでリアルタイムに視聴できない人が、日中に行われた試合の模様を後追いで視聴していたようです。限られたエリア向けの情報でもこれだけのポテンシャルがあるのだ、というのは大きな発見でした。
インターネットの世界では、小さなシェアでもコアなファンを抱え込むことで市場を成立させる「ロングテール」という概念が提唱されてきたが、ローカル局ならではの強みを活かして着実にファンを獲得できる道筋が今回のインタビューからは見えてきた。後編では、静岡朝日テレビがCCIと連携して展開するOTTサービス『SunSetTV』の内容について詳しく取り上げる。