メディア接触400分時代のメディア生活〜博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所『メディア生活フォーラム2019』レポート(1)
編集部
2019年7月11日、東京都渋谷区の恵比寿ガーデンプレイスのザ・ガーデンホールにて、博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所(以下、メディア環境研究所)によるカンファレンスイベント『メディア生活フォーラム2019』が開催された。今回はサブタイトルに「新しい『メディア満足』のつくり方」を掲げ、生活者のメディア態度の変容と実態について、最新の定量調査データとインタビュー映像が紹介された。その中から、プレゼンテーションプログラムである第一部『接触400分時代の メディア意識と行動』の前半をレポートする。
■「なくてはならない、でも減らしたい…」生活者のメディア意識の現在
プレゼンテーションの最初は、メディア環境研究所 上席研究員の新美妙子が登壇。同研究所が2006年から毎年実施している「メディア定点調査」の最新結果を紹介。今年(2019年)で14回目となる同調査では、メディアの接触時間やイメージ評価、サービス利用実態のほか、メディア意識や態度の変容を“定点観測”している。
今回は、東京・大阪・愛知・高知の4地区で行われている同調査から、東京地区のデータが紹介された。
今年(2019年)は、1日あたりのメディア総接触時間(週平均)が過去最高の411.6分を記録。はじめて400分の大台を越えた。内訳としては「携帯電話/スマートフォン」と「テレビ」が大きく数字を牽引した。特にここ2年ほど減少傾向にあった「テレビ」が昨年比で9.9分の増加に転じた点が見逃せない。
メディアごとの総接触時間比については、「PC」「タブレット」「携帯電話/スマートフォン」といったデジタルメディアが49.9%とほぼ半数。このうち「タブレット」「携帯電話/スマートフォン」のモバイルメディアは35.6%にのぼった。モバイルメディアは2018年の調査で初めて全体の1/3を超えたが、引き続きメディア環境のモバイルシフトが継続していることが示された。
続いて新美氏は、同調査の「メディアイメージ」を紹介。タブレット以外の6メディアで調査している「メディアイメージ」42項目のなかで「携帯電話/スマートフォン」は、「自分にとってなくてはならない」「利用する時間を減らしたい」など、21項目で6メディア中首位になった。
「自分にとってなくてはならない」と回答した被験者は全体の67.2%。とくに若年層に多く見られたという。その一方で、「利用する時間を減らしたい」という回答は全体の40.6%と、こちらも比較的高い水準を記録。「なくてはならないけれど、時間は減らしたい」という相反する両方の気持ちを抱える現状が垣間見えた。
新美氏は、2016年から2019年にかけてのメディア意識・態度の変容にも着目。「『情報やコンテンツは無料で十分だ』という声は3年で17.3ポイント下がっており、もはや無料で得られる情報のみでは十分ではないという気持ちが相対的に増えている。また『(世の中の情報量は多すぎる』という声が9.4ポイント上昇するなど、人々がこれまでの“メディア生活”を再考しようとしているのではないか」(新美氏)と述べた。
■「つねに面白さを担保しておきたい」メディア体験の最大化を追い求める生活者
続いて、野田絵美・メディア環境研究所 上席研究員がプレゼンテーションを担当。2018年9月から2019年1月にかけて同研究所が20代から40代の男女を対象に実施した定性調査『メディア接触・情報行動インタビュー調査』の対象者20名のうち、「特に新たな兆しを感じた」3名の日常生活に密着して行動観察を行う『メディアライフ密着調査2019』の模様を報告した。
生活者が四六時中無意識に触れているスマホの時間を自覚し始めたのは「2018年9月のiPhoneアップデートによるスクリーンタイム(画面閲覧時間や回数を知る機能)機能がきっかけ」と野田氏は指摘する。
『こんなにもスマホに時間を取られている』という現実に直面し、メディア生活を再考する気持ちが芽生えたのではないか」(野田氏)
「スマホをきっかけにあらゆるメディアに触れる時間を『せっかくならいい時間にしたい、少しでも満足できる時間にしたい』という思いがいまの生活者に高まっている」(野田氏)
──生活者のメディア態度の兆しを読み解くカギとして野田氏は「メディア満足」というキーワードを挙げた
会場では密着取材の記録ムービーを上映。被験者たちのメディア生活が紹介された。
最初に登場した21歳・男子大学生の映像テーマは「つねに面白さを担保していたい」。
男子大学生はスマートフォンを片手にテレビを視聴し、番組内容に興味のない時間はスマートフォンに目を落としている。また自室での娯楽時間ではスマートフォンの音声をスマートスピーカーに飛ばしてラジオを聴きながらタブレットでドキュメンタリー番組を視聴したり、見たことがあるテレビの鉄板コンテンツを手元のスマートフォンで見ながら、見たことのないテレビコンテンツを見たり、つねに複数のコンテンツへ同時接触している様子が映し出された。
インタビューに対し、男子大学生は「常に“面白い瞬間”に触れていたい。ひとつのコンテンツをじっと見続けるのは苦手。興味が途切れる瞬間は絶対に作りたくない。たとえば1時間メディアに接触すると決めたなかでいかに(充実したメディア体験を)詰め込めるかを考えている」と答えた。
ここで野田氏が、2016年時点のトレンドであった「マルチスクリーン」と現在のメディア接触の違いを説明した。
「2016年の『マルチスクリーン』では、複数のスクリーンを主従つけずに同時起動させ、『(複数のコンテンツを)なんとなくこのあたりでいいかなと見る』という接触形態だった。一方、2019年においては「(メディア接触のあいだは)常に面白い時間にする」という意思が強く働いている。「『未知のコンテンツ』を流しておくメインスクリーン」と「すでに見た『鉄板コンテンツ(確実に面白いもの)』を流しておくサブスクリーン」という役割分担がされており、常に両方を並行して見ることで『面白い時間』を担保している」
一見せわしないメディア生活を送っている男子大学生だが、就寝時は布団のなかで深夜放送のラジオを「リアルタイムで」楽しんでいた。「リアルタイムでラジオを聴くと、(ストリーミングサービスやオンデマンド配信などでは味わえない)同じ時間を共有している感じが味わえるから」だという。
続いて紹介された30代・既婚の女性会社員の映像テーマは「少しもムダなし」。
定額制動画配信サービスで映画を視聴する際、ローディング画面が表示されているあいだはすかさずスマートフォンの操作にあてている。いざ映画が始まると、スマートフォンでレビューサイトにアクセスし、いままさに見ている映画の「ネタバレ」や「あらすじ」の情報をチェックする。「(先に物語展開を把握しておき)自分にとって合わなそうなら(見るのを)やめる」のだという。
インタビューに対し、彼女は「何もしないでぼーっとする、という時間がもったいない。時間を効率良く使いたいと思ってしまう。仕事も子育てもしているからひとりで自由に使える時間が限られている分、せっかく確保できた貴重な時間をつまらない時間にしたくない」と答えた。
最後に紹介した20代・独身の女性会社員の映像テーマは「受け身回避」。
起床後、LINEを通じて配信されるランキング形式のニュースをチェック。そのなかで気になったトピックをテレビで詳しくチェックしたりするという。通勤時は歩きながら音楽を聞いているが、バス停などで立ち止まった際には、新聞の電子版にアクセスし、紙面ビューワーで1面記事をチェックする。帰宅後、定額制動画を視聴して世界観を楽しみながら料理をする。就寝前には、雑誌をチェック。
インタビューに対し、女性会社員は「スマートフォンだと自分の興味のあるものばかり見てしまう。新聞や雑誌は情報がしっかりしているというのはもちろんあるし、自分の興味の外にある情報にも触れられるので(バランスが取れて)好き。(スマートフォンを)衝動的に見る時間はやめられないが、そのぶん『意識してメディアに没頭する時間』を設けるようにしている」と答えた。
3名のインタビュームービーを振り返り、野田氏は彼らに共通する「キーワード」を解説した。
「1つ目は『リスクには「保険」』。彼らにとって、未知のコンテンツは時間を無駄にするリスクが高い存在。視聴の際には見たことのある「神回」や「ネタバレ情報」を携えておくことで、確実に満足できる『保険』を設けている」
「2つ目は『衝動には「没入」』。興味の赴くままスマートフォンを衝動的に触る時間がある一方で、就寝前にラジオの生放送を聴いたり、新聞や雑誌を読んだり、じっくりと自らメディアに没入する時間を確保している」
「3つ目は『受け身には「主導権」』。プッシュ通知などを通じて四六時中『横入り』してくる情報がある一方で、自分の生活や気分に合わせて能動的にコンテンツを選ぼうという流れが生まれてきている。彼らにとっては主導権をもって『自分の時間を生きていること』が大事であり、メディアはその気持ちを“補って(=補強して)くれる”存在と考えている」と解説した。
■前半まとめ
前半の締めくくり、野田氏は2017年から2019年にかけての生活者のメディア態度の変容を次のように述べた。
「2017年のテーマは『確からしさを求める人々』。フェイクニュースの時代、いかにノイズをカットし、信頼できる情報を確保できるかが求められていた。2018年は『情報引き寄せ』。アルゴリズムを逆手にとって自分に興味のある情報をいかに効率的に取りこむかがテーマであった。そして2019年のテーマは『新しいメディア満足』。メディアとの関係性を再考しながら、『(メディア接触時間を)いい時間にしたい』と生活者が考えるようになった」
野田氏は前半をふりかえり、「メディア環境研究所では、情報過多時代の生活者のメディア生活再設計の動きをとらえてきた。メディアに対する価値観はこの3年で『マイナス(=いかに不要な情報を捨てるか)』から『プラス(=いかにメディア時間を有益にするか)』へと変化した。これからは『メディア時間を良くすること』がいい1日への近道になる」とまとめた。
後半では生活者の「メディア接触スタイル」に注目。「どのようなコンテンツを、どんなデバイス・サービスを通じて接触しているか」といった点に迫る。